『博物誌』〔再読〕 ルナール、(訳)岸田 国士

評価:
ジュール・ルナール
新潮社
¥ 460
(1954-04)

名訳で読むルナールの自然讃歌。
ルナールは自然を愛し、草や木や動物のいのちを独特で鋭い感覚で観察しました。その簡潔な表現は私たちの心をゆさぶります。

ルナールの優しいまなざし、ボナールののびやかな挿絵。私の大好きな一冊です。
朝早くとび起きて、頭はすがすがしく、気持は澄み、からだも夏の衣装のように軽やかなときにだけ、彼はでかける――自称「影像(すがた)の猟人」である著者の道具はただひとつ、瞳だけ。きらきらとした純粋な瞳でおこなう彼の‘狩り’はなんて気長でやさしいのでしょう。
彼の瞳に、驢馬は「大人になった兎」、蟻は「数字の3」、蚤は「弾機(ばね)仕掛けの煙草の粉」としてうつります。かわいい自然が息づいた、軽妙でシンプルな文章にいつもうっとりしてしまいます。
動物たちのゆかいな表情、美しい牧場や小川をわたる爽やかな風までもとじ込めた『博物誌』を、バッグにしのばせて出かける贅沢、ささやかな幸福。

私がことに好きな章は、『白鳥』、『驢馬』、『鼠』、『蝶』。
二つ折りの恋文が、花の番地を捜している。(『蝶』)

(原題『Histoires Naturelles』)
Author: ことり
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『百年の家』 J.パトリック・ルイス、(絵)ロベルト・インノチェンティ、(訳)長田 弘

評価:
J.パトリック・ルイス,ロベルト・インノチェンティ
講談社
¥ 1,995
(2010-03-11)

一軒の古い家が自分史を語るように1900年からの歳月を繙きます。静かにそこにある家は、人々が一日一日を紡いでいき、その月日の積み重ねが百年の歴史をつくるということを伝えます。
自然豊かななかで、作物を育てる人々と共にある家。幸せな結婚を、また家族の悲しみを見守る家。やがて訪れる大きな戦争に傷を受けながら生き延びる家。そうして、古い家と共に生きた大切な人の死の瞬間に、ただ黙って立ち会う家。ページをめくることに人間の生きる力が深く感じられる傑作絵本が、ここに・・・。

固定されたアングルから描かれ続ける家。
ひとコマひとコマ、見惚れてしまうほどの美しい細密画で彩られた絵本です。
子どもたちに見つけてもらい、ふたたび命を吹き込まれた廃屋がぽつりぽつりと語りはじめる物語。家がみつめ続けた100年・・・それは移り変わってゆく時代と、そこに住まうたくさんの人びとの人生でした。

家は語ります。しずかに、しずかに。
「ふたりの結婚式を、これからの人生が見守っていた。」
「みんなが無邪気でいられた時間は、すてきだった。でも、短かった。」

住まう人が変わっても、ただそこにある家。ゆるぎない確固たるもの。
変わりゆくもののなかに厳然とあるやさしいまなざしが、読んでいてなんとも頼もしく感じられました。

(原題『The House』)
Author: ことり
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『水おとこのいるところ』 イーヴォ・ロザーティ、(絵)ガブリエル・パチェコ、(訳)田中 桂子

評価:
イーヴォ・ロザーティ
岩崎書店
¥ 1,650
(2009-08-26)

ひらいたままの蛇口から生まれた、世にもふしぎな水おとこの物語。

抑えた色調のほの昏い町並みに、水おとこの透き通った青色だけが鮮やかに描かれています。光のさし加減やうかび上がるシルエット・・・寂寥感がにじみ出すような独特の世界観がとても素敵。
はじめて目にする異様な風体の水おとこに、町の人びとは戸惑い、捕まえようと追いまわします。そのたびに海のカケラみたいなからだを水たまりやサイダーびんのなかにひそませる水おとこ。みんなが寝静まる夜を待って、そろりとさまよう姿は淋しそう・・・でもそんなときでも黒い猫や白い犬、それから子どもたちは味方みたいで、ちょっと安心な気持ちになりました。
ある日、ひどい嵐になった時、水おとこを無数のささやき声がつきまとい――?

水の青がほんとうにきれいで、ながめていると、すうーっと潤うようにしみてきます。
水おとこがさいごにたどり着いた場所は、とても美しくて気持ちよさそうで、心やさしい孤独な彼にお似合いの場所。
町の人びとの誤解はもうとけたけれど、水おとこにりっぱに安住の地ができたこと、そのことがうれしい。

(原題『L'uomo d'acqua e la sua fontana』)
Author: ことり
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『おんなのことあめ』 ミレナ・ルケショバー、(絵)ヤン・クドゥラーチェク、(訳)たけだ ゆうこ

評価:
ミレナ・ルケショバー
ほるぷ出版
¥ 1,620
(1977-03)

おんなのこがみちであめにであいました。
あめはおんなのことあそびたいのに、いえのなかにはいれません。
あめはかなしくなってなきだしました・・・。

雨の季節をまえに、とってもすてきな出逢い。
古本屋さんでひとめで気に入って購入した『おんなのことあめ』、チェコの絵本です。
ルケショバーさんの繊細で詩的な文章に、クドゥラーチェクさんの描かれた、こぼれそうにつぶらなおめめのちっちゃな雨。そのしずくのひと粒ひと粒の淡い色の重なりが、プリズムのように幻想的な世界をかいま見せてくれています。
こんなにもはかなくて、こんなにも清らかで、こんなにも美しくて――、
こんなにもしあわせな雨、私、いままで知らなかったの。

「ね かえるさん
あめって やさしいのね。
びしょびしょしてるけど
あたし あめ だーいすき」

雨と女の子の愛らしい物語に心がふるふるとうるおされ、色とりどりにきらめく光のシャワーで満たされていくみたいです。
ほろんとあまくて、ちょっと切ない。私ごのみのとっておき絵本。

(原題『HOLČIČKA A DÉŠŤ』)
Author: ことり
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『ふゆのゆうがた』 ホルヘ・ルハン、(絵)マンダナ・サダト、(訳)谷川 俊太郎

評価:
ホルヘ・ルハン
講談社
¥ 1,470
(2009-12-18)

ある冬の日の夕方。お留守番をしている女の子は、くもった窓にお月様の絵を描いていました。
するとそのお月様の絵の中に、お母さんの姿が小さく見えて・・・!

くもった窓ガラスにゆびでお絵かき。冬の日のひとり遊び。
おかあさん、まだかなあ? 女の子はお月様の絵をどんどん大きくしてゆきます。
せつなさがうれしさに転じていくときの女の子の気持ちがなつかしくて可愛らしくて、心はいつしかぽっかぽかに。
カラフルなイラストがとても素敵な、寒い季節におすすめの絵本です。

(原題『Tarde de invierno』)
Author: ことり
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『たちの悪い話』 バリー・ユアグロー、(訳)柴田 元幸

評価:
バリー・ユアグロー
新潮社
¥ 1,680
(2007-02-24)

毒入り、危険。小ゾウの涙ぐましい努力まで踏みにじられる・・・。
クセになる、爽快な黒さ。しょうもない世界の私達の物語、43連発。

子供にも読めるように書かれたという、奇想天外・超ブラックなショートショート。
ジャンニ・ロダーリさんの短編が陽の奇想ならば、こちらはまぎれもなく陰の奇想。まったく「たちの悪い話」ばかりが収められています。
恰好よくてお金持ちの両親と暮らしていた子供のもとに、おそろしく田舎臭い本当の両親が現われたり(『両親』)、孤独な少年が話し相手につくりだした架空の友だち・熊のビルが、「もうたくさんさ」と創造主を見捨てて去っていったり(『「僕の友だちビル」』)・・・。次から次へとたたみかけてくる容赦のないお話たちですが、これもひとつの‘物語のかたち’なのかな、なんて意外にも肯定的な印象をもった私でした。
それはきっと、読む人を不快な気持ちにさせてやろう、といういじわるな思いよりも、読む人に「人生はスジが通らないことも多いよね」って語ってくれている、そのことのほうが強く感じられたから・・・。

そう、人生というものは、こんなふうにある日突然、おぞましく一変しうるものなのだ。

心がほっこりするお話やハッピーエンドはもちろん素敵。でも、ほんとうに心やさしい人になるには、悪いお話も知らなくちゃいけないのかもしれません。
傷つくことを知らない人に、傷ついた人の気持ちがけっして理解できないように。

(原題『NASTYbook』)
Author: ことり
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『わたしの庭のバラの花』 アーノルド・ローベル、(絵)アニタ・ローベル、(訳)松井 るり子

評価:
アニタ ローベル
セーラー出版
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(1993-07-30)

これはわたしの庭のバラの花。
これはわたしの庭の、バラの花でねむるハチ。
これはわたしの庭のバラの花でねむる、ハチに日かげをつくっている、すっとのびたタチアオイ。
これはわたしの庭のバラの花でねむる、ハチに日かげをつくっている、すっとのびたタチアオイのわきの、まるいオレンジいろのきんせんか・・・

たっぷりふくよかな一輪の赤いバラから、ひとつずつ情景がふえていきます。
ちいさな「わたしの庭」をめぐる、ちいさな物語のはじまりはじまり。
おとなりの頁に描かれた繊細で色鮮やかな絵も、どんどんどんどん積み重なって、すてきなお庭ができあがり・・・、そうして‘それ’は起こります。
たいへんたいへん、どうしましょう・・・!!
――最後の頁でつんとすまして収まっている赤いバラが、なんともいえず可笑しくて大好き。きれいで楽しい絵本です。

(原題『THE ROSE IN MY GARDEN』)
Author: ことり
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『どうながのプレッツェル』 マーグレット・レイ、(絵)H.A.レイ、(訳)わたなべ しげお

5月にうまれた5ひきのダックスフントのこいぬ。
はじめのうちはみんなそっくりだったのに、9週間たつと1匹だけどうたいがのびはじめました。それがプレッツェルです。
プレッツェルのどうたいはずんずん、ずんずん、のびて・・・やがて世界一どうながのダックスフントになりました。プレッツェルは表彰されて、だいとくい。でも・・・?

古本屋さんで105円。あまりの可愛らしさにまよわずお買い上げです。
どこかで見たことがあるかも?と思ったら、やっぱり。江國香織さんの『絵本を抱えて 部屋のすみへ』で、『アンガスとあひる』のアンガス、『どろんこハリー』のハリーとならんで紹介されていた絵本だったのでした。
そのなかで江國さんは「ともに快活でユーモラスで表情豊かなこの三匹の犬のなかでも、私の気に入りは断然アンガスだ。ハリーと違って飼い主がでてこないところ、プレッツェルほど勇敢じゃないところが魅力なのだ。」と語っていますが、私だったらこの3匹のなかではプレッツェルが一ばん。どうたいがずんずんのびていく、そんなファンタジーさがたまらなく好きだし、最終的にまごころが通じてむくわれるところがいいの!(あなたなら、どのコをえらぶ?)
私はとっても気に入って、うふうふと何度も読み返してしまいました。ほとんど傷んでなどいないのに、105円だなんてまったく・・・ほんと、信じられない!!

(原題『PRETZEL』)
Author: ことり
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『アルネの遺品』 ジークフリート・レンツ、(訳)松永 美穂

一家心中で一人だけ生き残った少年アルネは、父親の友人一家の新しい家族として迎えられる。けれども運命は彼にとってあまりに過酷だった。北ドイツの港町ハンブルクを舞台に、美しいエルベ河畔の自然の中で、ゆっくりと進行する繊細な魂の悲劇。

思わず息をひそめてしまうほど、あまりにもしずかな物語世界が広がっています。
僅かな空気のゆれさえも許さない、そんなはりつめた静謐のなかを美しい魂がひとりぽっちでさまよっているよう。
脆く壊れやすいガラス細工のように繊細な魂をもった12歳の少年・アルネ。豊かな感受性をもてあまし、自ら死をえらんだアルネの在りし日の思い出を、屋根裏部屋でともに暮らした17歳のハンスが思い起こす物語です。灯台の模型、海の地図、マニラ麻のロープ・・・彼が遺したいくつもの品々を手にとりながら。
哀しみも憤りも後悔もなにもかも抑えこんで、アルネに話しかけるように、時には弟のラースや妹のヴィープケに話しかけるように、やさしくやさしく紡がれていくハンスの語り口がとてもここちよくて、彼の震えるような囁きが聞こえてくるみたい。愛する者をつつみ込むあたたかいまなざしも。

すべてが過去形で書かれた小説・・・それはなんて哀しいものなのかしら。
かつてアルネに所属していたものを見るだけで、ありありと甦ってくる彼の姿。にどと帰らない過去たち、こみ上げる喪失感――それらが穏やかな港町の風景や人情に溶けあって、哀しみだけではないやわらかな美しさをかもし出しています。
その美しさに、雨上がり、厚い雲のすきまから海上へとまっすぐに光の差した‘天使の階段’を連想してしまった私でした。

久しぶりに手紙を読んで、どんなに多くのことを忘れていたかに気がついた。時間というものはいつも何かしら消してしまい、平らにならしてしまうものだ。でもぼくは次第に、時間が経っても過ぎ去らないものがたくさんあるのだ、と確信するようになった。たった一つの言葉だけで、すでに色あせ、消えてしまったかに見えるものを呼び戻すには充分なのだ。

(原題『Arnes Nachlaß』)
Author: ことり
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『あたしの一生―猫のダルシーの物語』 ディー・レディー、(訳)江國 香織

あたしは彼女のじゃないもの。彼女はあたしを所有なんかしてないし、あたしも彼女に従属してなんかいない。簡単なことだ。真実は反対。彼女があたしに従属しているわけ。彼女はあたしの人間なんだから。

人間と暮らした一ぴきの猫・ダルシーの物語。
猫の一人称・・・ダルシーのひとり語りで、「あたしの人間」にたいする純粋な愛がまっすぐに、濃やかにつづられていきます。
「全編をとおして、すじが通っています。」と、訳者の江國香織さんは述べています。「もし誰かをほんとうに愛する気なら、ダルシーのように生きる以外にないのではないか」・・とも。まったくそのとおりの、押しつけではなくもちろん独りよがりでもない、ただ誰かを「愛する」そのひるむほど真摯な愛に、素直に泣けました。愛すること、愛されること、それがどんなに幸福なことなのかあらためて気づかせてくれます。

あたしのそばにいて
ねえ 人間 ずっとあたしのそばにいて

(原題『A CAT'S LIFE : DULCY'S STORY』)
Author: ことり
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