『アイスクリームの国』 アントニー・バージェス、(絵)ファルビオ・テスター、(訳)長田 弘

ある日、ジャックとトムとぼくは、飛行船に乗って、「そこ」をめざして、旅にでる。「そこ」は、野生のアイスクリームの国。誰ひとりいないはずだったのに・・・洞穴からでてきたのは、おおきな黒い・・・!?
大好きなアイスクリームを好きなだけ食べられたら、どんなに楽しいだろう――その願いがかなったそのときに、ぼくらを待ちうけていたのは、大冒険の果ての、とんでもない結末だった。ポップで、キュートで、ナンセンス。アイスクリームの国から、特製の絵本の贈り物。

チョコ・ピークに、モンテ・ピスタチオ・・・
アプリコット・アルプスに、グレート・ストローベリー・・・
そこは野生の(!)アイスクリームの山々がつらなる、アイスクリームの国。
飛行船にのって、棒付きキャンディーの森やチョコレート・ソースのみずうみなどを旅する夢いっぱいのおはなしです。
どこを舐めてもおいしそうな大自然と、ラストシーンの空間差が素敵。
つめたいのにあまくて幸福・・・そんなアイスクリームのイメージにもつながるような、ほっこりほがらかな絵もかわいいです。

あの『時計じかけのオレンジ』の作者が書かれたなんて、ちょっと信じられない。
でも、こんな楽しい意外性なら大歓迎です。とってもおもしろかった。

(原題『THE LAND WHERE THE ICE CREAM GROWS』)
Author: ことり
海外ハ行(その他) | permalink | - | -
 
 

『湖のほとりで』 カリン・フォッスム、(訳)成川 裕子

評価:
カリン・フォッスム
PHP研究所
¥ 1,000
(2011-05-18)

風光明媚な、北欧の小さな村で発見された美しい女性の死体。その女性は、村の誰もが知る聡明で快活な少女・アニーだった。死体には争った形跡もなく、自殺か、あるいは顔見知りの犯行ではないかと推測された。事件は、早期に解決すると思われたのだが・・・。
正統派の捜査小説にして、イタリア・アカデミー(ダヴィッド・ディ・ドナテッロ)賞史上最多の10部門を独占した映画の原作。

ものすごい吸引力!!
頁をめくる手が止まらなくて、眠る時間をけずって読み耽ってしまいました。

舞台はノルウェー。フィヨルドの奥、山と森にかこまれた素朴な村。
物語は、お友だちの家から帰らない6歳のラグンヒルの失踪からはじまります。
ラグンヒルが湖のほとりで目撃した全裸の女子高生の死体。事件を担当するセーヘル警部と若手警官のスカッレは、被害者・アニーが生前、突然性格が変化していたことに目をつけ、そこに謎をとく鍵があると信じて地道な捜査をすすめます。
ハンドボールの優秀な選手で、浮ついたところもなく明るくすこやかな少女だったアニーが、どうして一転して暗く翳りを帯びた性格に変わってしまったのか――?

捜査がすすむにつれ、離婚、虐待、身体的障碍・・・そんな、いくつかの家族をめぐる不幸の連鎖が明らかになってゆきます。
たくさんの登場人物が交錯する重く苦しい物語だけれど、セーヘル警部の人情味あふれるやさしさがほんのりと光ります。この世で信じていることは徹底すること、熱意、ユーモア、この3つだという彼は、自身も最愛の妻をなくしているせいか、弱者にたいするあたたかいまなざしが感じられました。
霧のヴェールにつつまれたうつくしい村の情景のなかで、容赦なく浮き彫りにされていく深刻な家族たちのひずみ。思わせぶりなラストもたまらなくて・・・ざわっとつめたい風が撫でていくような心細い余韻をのこします。

(原題『SE DEG IKKE TILBAKE!』)
Author: ことり
海外ハ行(その他) | permalink | - | -
 
 

『ナタリー』 ダヴィド・フェンキノス、(訳)中島 さおり

評価:
ダヴィド フェンキノス
早川書房
¥ 1,785
(2012-06-22)

美しく聡明なナタリーとその夫フランソワは、出会ってから七年間、ずっと幸せに暮らしてきた。しかし、ある日曜日、フランソワは交通事故で他界する。残されたナタリーは、それ以来、仕事に打ち込んで生きてきた。しかし、ある日その生活は、不器用で飾り気のないスウェーデン人マルキュスによって一変する。
数々の断章を交えた独特の手法で描き出される、ふたりの恋の行方は?フランスで高く評価されたベストセラー。

最愛の夫を亡くした女性が、かなしみの底から立ち直り、新しい恋を得るまで。
こう書くとなにやら陳腐だけれど、この本の魅力はストーリーの流れそのものよりもその描かれ方にあると思います。文章自体は冷静でシンプルなのに、風通しよく、言葉にできないような微妙な空気感が生き生きと伝わってくるところ。
栞に分かたれた読みさしの本や、そのままになった日めくりカレンダーなど、とるにたらないはずのものに心をえぐられる瞬間なんてたまらなかった。さりげなく心をぐっとつかまれたり、じんわりと沁みたり・・・そんな表現たちが点在していて、フランソワを喪ったナタリーの苦痛と混乱――自分自身ではけっしてコントロールできない感情――が心の深いところに届くのです。
われわれの体内時計は理性的ではないのだ。失恋したときもまったく同じで、いつ立ち直れるのかは分からない。苦痛の一番ひどいときには、傷はずっとふさがらないだろうと思う。それから、ある朝、その恐ろしい重みをもう感じていないことに驚く。苦痛が逃げ去ったことに気づく瞬間の、なんという驚き。どうしてその日なのか?どうしてもっと遅くなく、あるいはもっと早くないのか?それはわれわれの体が勝手に決める。

ところどころにおかしな註がついていたり、あってもなくても構わないようなアルバムのリストや料理のレシピ、試合結果などが挟みこんであったり・・・、しんどいテーマもふわっとかろやかに見せてくれる、とてもチャーミングな恋愛小説。
素朴で一途なマルキュスが、独特のユーモアとやさしさでナタリーの凍りついた時間を溶かしてゆきます。ラストの、ふたりでするかくれんぼが可愛らしくて、幸せな気持ちになりました。

(原題『La Délicatesse』)
Author: ことり
海外ハ行(その他) | permalink | - | -
 
 

『夜毎に石の橋の下で』 レオ・ペルッツ、(訳)垂野 創一郎

評価:
レオ・ペルッツ
国書刊行会
¥ 2,730
(2012-07-25)

1589年秋、プラハのユダヤ人街を恐るべき疫病が襲った。墓場に現れた子供の霊は、この病は姦通の罪への神の怒りだと告げる。これを聞いた高徳のラビは女たちを集め、罪を犯した者は懺悔せよと迫ったが、名乗り出る者はなかった・・・。
神聖ローマ帝国の帝都プラハを舞台に、皇帝ルドルフ二世、ユダヤ人の豪商とその美しい妻、宮廷貴族、武将、死刑囚、錬金術師、盗賊団、道化、画家らが織りなす不思議な愛と運命の物語。夢と現実が交錯する連作短篇集にして幻想歴史小説の傑作。

このまま、古(いにしえ)のプラハの夜気に閉じ込められてしまいたい・・・。
企みとまどろみにみちた美しい夢幻の世界をいつまでもたゆたっていられたら・・・。

物語は神聖ローマ皇帝をはじめ実在の人物と伝説とをまじえながら、ドイツ人の少年「わたし」が家庭教師(=ユダヤ人の豪商モルデカイ・マイスルの末裔)に聞いたお話、という体ですすみます。
二人の芸人が墓場を彷徨う幼な子たちの霊を見て高徳のラビを訪ねる話、処刑を明日に控えた不運な男が牢獄でいっしょになった犬と言葉を交わす話、青年時代のルドルフ二世が森で出会った妖魔からくすねた銀貨の話など――・・・入れ子になっている個々の挿話も、でたらめにならべられているわけではなくお互いによびあうように存在していて、やがてラストは冒頭ぶぶんに帰結する・・・そこからひとつの愛と嫉妬がうかび上がってきたとき、くらりと時空が歪み、熱いため息がこぼれました。
ローズマリーに絡みつく赤い薔薇、ルドルフ二世の憂い、一文なしで死んだユダヤ人の豪商、麗しの人妻がみた「すばらしい夢」・・・。歴史を行きつ戻りつしながら描かれてきた物語のかけらたちが、狂おしい愛のもとに繋がれていく。儚くも美しい、夜露の首飾りのように。

「お前たちの生は悩みと苦しみに満ちている。そのうえなぜ愛などに煩うのだ。分別を失い、心を惨めにするだけだというのに」

この本を読んでいた2日間、私の魂はからだから抜け出し、何百年も時をさかのぼってプラハの街の蒼ざめた上空を飛び交っていたような気がします。
月光につつまれたヴルタヴァのほとりで、甘やかな薔薇の芳香に誘われて・・・。
いくつもの夢を精霊のように渡り歩く、そんなうっとりとした心地にさせてくれた作者と翻訳者に、最大級の賛辞を。

(原題『Nachts unter der steinernen Brücke』)
Author: ことり
海外ハ行(その他) | permalink | - | -
 
 

『アウラ・純な魂 他四篇』 フエンテス、(訳)木村 榮一

「・・・月四千ペソ」。新聞広告にひかれてドンセーレス街を訪ねた青年フェリーペが、永遠に現在を生きるコンスエロ夫人のなかに迷い込む、幽冥界神話「アウラ」。ヨーロッパ文明との遍歴からメキシコへの逃れようのない回帰を兄妹の愛に重ねて描く「純な魂」。メキシコの代表的作家フエンテスが、不気味で幻想的な世界を作りあげる。


背すじがぞわりとつめたくなるような短篇の数々です。
文体も内容もヴァラエティに富んでいるのに、どのお話も死、老い、終末への不安がたちこめ、うすら怖い幻想世界にくらくらと誘いこまれる。本を読みながら、妖しげな石像チャック・モールや兄を慕う狂気じみた妹、永遠を生きる老婆、といった存在に生気をすい上げられてしまいそう・・・そんな独特の緊張がたまらないのです。
美しくて残酷で、怖いのに魅入られて、一つ一つのお話が魔女の呪いを練りこんだ得体の知れない丸薬みたい。表題の2篇と『チャック・モール』『女王人形』が私のお気に入り。
木村榮一さんの訳文が、いつもながらすばらしいです。

(原題『Cuerpos y ofrendas』)

Author: ことり
海外ハ行(その他) | permalink | - | -
 
 

『ねむりひめ―グリム童話』 フェリクス・ホフマン、(訳)せた ていじ

渋めのブラウンカラーを基調に、クラシカルな優雅さで描かれていくおとぎ話。
わるい占い女に呪いをかけられ、100年の眠りにつくお姫さま。
100年後、お姫さまは茨の城にやってきた王子さまのくちづけで目をさます――。
ただでさえロマンティックなおとぎ話が、フェリクス・ホフマンさんのすばらしい挿絵によっていっそう香り高くよみがえります。

エロール・ル・カインさんが描かれた絵本――タイトルは『いばらひめ』――も煌びやかな色香が美しく大好きなのですが、こちらにはまたちがったなつかしいようなやさしさが感じられます。
うつらうつら・・・ひそやかな眠りについたお城をたゆたう時間の粒までみえるよう。
うっとりとした甘さにつつまれる、すてきな古典絵本です。

(原題『DORNRÖSCHEN』)
Author: ことり
海外ハ行(その他) | permalink | - | -
 
 

『夜はやさし』 F.スコット・フィッツジェラルド、(訳)森 慎一郎

評価:
F.スコット フィッツジェラルド
ホーム社
---
(2008-05)

美しい海岸が続くフレンチ・リヴィエラの、マルセイユとイタリア国境のほぼ中間あたりに、堂々たる外観の大きなバラ色のホテルがある。棕櫚(しゅろ)の木立がその赤くほてった正面にうやうやしく風を送り、目の前にはこぢんまりとまばゆいビーチが広がっている。

こんなふうに美しく幕をあける、美しくもいびつな小説。
第一巻は1925年、新人女優・ローズマリーがフレンチ・リヴィエラを訪れ、精神科医のディック・ダイヴァーとその妻ニコルに出逢うところからはじまります。バラ色のホテル、照りつける夏の日ざし、青く澄んだ浅瀬の海――たくさんの登場人物と美しいリヴィエラの描写。水遊びやパーティをしながらも、なにも起こらない南仏のリゾートにちょっぴり飽き飽きしているようなアメリカ人の姿が濃やかに描かれています。
17歳のローズマリーはこの海岸でディックに恋をするのです。
この海水浴は、自分の人生における一つの典型になるだろう、ローズマリーはふとそんなことを思った。海水浴という言葉を耳にするたびに頭に浮かんでくるような、そんな思い出になるだろう。
第二巻では時をさかのぼり、ディックとニコルの出逢いが描かれます。若く魅力的なディックと精神を病んだ美しい少女・ニコルが医師と患者の関係をこえ、恋に落ちるようす。そして現在、ディックがローズマリーの熱い想いを受け入れてしまうようす。ここでもたくさんの個性的な人たちが彼らをとりまき、エピソードをかさねます。
こみいった物語は第三巻に入ると音をたてて動き、ゆっくりと破滅へと向かい――・・・

ささやかな一瞬一瞬。本来はとどめおくことのできない一瞬一瞬が、歪んだものは歪んだまま、未熟なものは未熟なまま、ミルフィーユのように積みかさねられている小説だと思いました。
かつてたっぷりの情熱にみちていた男の人が、すこしずつその熱をうしなっていく。そういう失望感がアンニュイな甘さのなかにただよっていて・・・なんだか残酷なのにやさしい手触りを感じさせるのです。それは、‘時間’というものがもたらす諦めに似たやさしさのせい、なのでしょうか・・・。
なお、この自伝的要素のつよい(らしい)物語には「オリジナル版」と「改定版」が存在するそうです。私が今回読んだのはさいしょに書かれたオリジナル版で、改定版では第二巻の前半が冒頭に置かれ、時間軸どおりに物語が進んでいくとか。読み比べてみると印象ががらりと変わりそうです。

(原題『Tender is the Night』)
Author: ことり
海外ハ行(その他) | permalink | - | -
 
 

『ロバの子シュシュ』 フランソワーズ、(訳)ないとう りえこ

評価:
フランソワーズ セニョーボ
徳間書店
¥ 1,470
(2001-10)

やさしくて、かわいくて、女の子ならぜったい好きですこの絵本。
たいくつなミルクはこびの仕事から、写真館でお客さんをのせて写真をとる仕事にうつったロバの子シュシュ。シュシュは人気者で、まいにちがばら色。みんながシュシュにおくりものをもってきてくれます。角砂糖、にんじん、レタス・・・
ところがある日、シュシュはまちがって男の子のゆびをかじってしまいました。
たいへん、シュシュがろうやにいれられてしまいました・・・!

シュシュをたすけだそうとする子どもたちに心がじわっとあたたかくなります。
みんなほんとうにシュシュのことが大好き・・、よかったねシュシュ。
ぴんとのびた長い耳、首としっぽにむすんでもらう白いりぼん、にっこり笑って写真におさまるかわいいしぐさ・・・ロバの子シュシュがほんとうに愛らしい。
フランソワーズさんのあまくてきれいな色づかい、ふわふわのイラストをぞんぶんに愉しめます。

(原題『Chouchou』)
Author: ことり
海外ハ行(その他) | permalink | - | -
 
 

『時のかさなり』 ナンシー・ヒューストン、(訳)横川 晶子

2004年のカリフォルニア、豊かな家庭で甘やかされながら育つソル。1982年、レバノン戦争ただ中のハイファに移り住み、アラブ人の美少女との初恋に苦悩するランダル。1962年のトロントで祖父母に育てられ、自由奔放で輝くばかりの魅力に溢れる母に憧れる多感なセイディ。1944〜45年ナチス統制下のミュンヘンで、歌を愛し、実の兄亡きあと一家に引き取られた“新しい兄”と運命の出会いを果たすクリスティーナ――。世代ごとに、六歳の少年少女の曇りない眼を通して語られる、ある一族の六十年。血の絆をたどり、絡まりあう過去をときほぐしたとき明かされた真実は・・・魂を揺さぶってやまない傑作長篇。

過去へ過去へとさかのぼりながら語られる、ある一族の物語です。
現代を生きる少年・ソルの章からはじまって、ソルの父・ランダル、ランダルの母・セイディ、セイディの母・クリスティーナ・・・各章の主人公はすべて6歳で、その時代ごとの人生の断片がそれぞれつむぎ出されます。4つの‘子ども時代’が地層のように折りかさなり、読み手は頁をめくるたびに膨大な時間を掘り起こし、一ばん奥深くに埋められていた悲劇を目撃することになるのです。

子どもたちの語りは、とてもみずみずしくそこにある風景をうつしてくれます。
それはどんなに辛辣で憎たらしい子どもでも、どんなに大人びていても、彼らはけっして大人ではないし、子どもには子どもの時間が流れているから。
子どもたちが目の当たりにする戦争、迫害、初恋――罪の意識。
歴史の波に翻弄され、いやおうなく流されてゆく人びと。
4人の主人公たちは世代がひとつずつずれた家族なので、物語のなかでそのときどきの年齢の主人公たちになんども出会うことになるのもこの小説の魅力のひとつ。ぼんやりとしか見えなかったことがふいにくっきりとした輪郭をもち、あの会話はこのエピソードから生まれていたのね・・・、あの子はこのことを知らないから勘違いをしちゃったのね・・・、そんなふうにいろんなことが解明されていくミステリーのようなおもしろさもあります。

「魔法は人間のなかじゃなくて、人と人を結ぶもののなかにあるのよ。」
個々の時間や思いを積みかさね、つながっていく家族の物語。
苛酷な運命にあらがう血の絆が、私の目にはとても神秘的にうつりました。刻印のように世代をこえて継がれていく、ふしぎなアザのように。

(原題『Lignes de faille』)
Author: ことり
海外ハ行(その他) | permalink | - | -
 
 

『リトル・ガールズ』 エリザベス・ボウエン、(訳)太田 良子

セント・アガサ女学校に通う、ダイアナ、シーラ、クレア。大戦によって引き裂かれ、女学校という不思議の国を出た3人が、オールド・ガールズとなって再会した、その目的とは――。20世紀を代表する女性作家ボウエンが描きだす、少女たちの無垢と棘。

みつ編み、りぼん、小さな抽斗・・・なんて清冽で、優美な装丁。
こぼれゆく少女時代をそのまま閉じ込めてかざっているかのような美しい佇まいに心惹かれ、手にとってみました。

みんなと一緒がよくて、みんなと一緒じゃいや。
邪気がなく辛辣で、いびつな真珠のように気まぐれな少女たち・・・。
イギリスの海辺の町にある女学校で、なんとなくいつも一緒だった3人。にがてな詩を暗唱したり、海で泳いだり、校庭のすみにあったブランコを揺らしたり。
まぶしく倦んだ学校生活は、けれど大戦の勃発で終わりを迎え・・・引き裂かれた3人が長い長いお互いの不在の末に再会し、過去をたぐりよせる物語です。

第一部は3人の再会、第二部は少女時代、そして第三部で物語はふたたび50年後に舞台をもどします。
校庭に埋められた秘密がゆっくりとほどいてゆく哀しい過去たち。‘不思議の国’の錆びついた時計が動きだした時、年老いた「リトル・ガールズ」がみたものは・・・?
3人はそれぞれ、すでに少女時代のなん倍もの時を生きてきて、別べつの風景を見ています。でも彼女たちの人生の根っこはたしかにセント・アガサにあり、そのかけがえのない日々に互いにゆだねられてきた・・・なんだか、私自身のうしなわれた時間――少女特有のもどかしさや孤独、きらめき――が‘なんとなく一緒にいたあのコ’とともによび覚まされて、ほろりと切なくなってしまいました。

ただざんねんだったのは、文章(訳文)がとても読みづらく感じられたこと。
不自然でぎこちない言い回しがざりっざりっと引っかかるような・・・。たとえるならば、綺麗な箱にはいっていて、質も香りも申し分ないのになめらかさが決定的にたりないチョコレート。

(原題『The Little Girls』)
Author: ことり
海外ハ行(その他) | permalink | - | -