『星どろぼう』 アンドレア・ディノト、(絵)アーノルド・ローベル、(訳)やぎた よしこ

評価:
アンドレア ディノト
ほるぷ出版
¥ 1,470
(2011-12)

空の星にさわりたくてさわりたくてたまらなかった、どろぼうのおはなしです。
どろぼうは心の奥で、じぶんだけの星を一つほしいと思っていました。心の奥のその奥では、星という星をぜんぶじぶんのものにしたいと思っていました。
ある晴れたばん、どろぼうは黒いきれをひっかぶり、ふるい麻袋と空に立てかけるはしごをもって、そうっと外にしのび出ました――。

そろりそろりと はしごの てっぺんまで のぼった どろぼうは、手を のばして、いちばん ちかくで またたいている 星に さわりました。星は あたたかく、ちょっと ひっぱると、すぐに とれました。どろぼうは、すばやく 星を ポケットに つっこみ、また 手を のばしました。

西洋のおとぎ話からぬけ出たような、なつかしい風合いの絵がとてもかわいいです。ちょっとひっぱるとすぐにとれてしまうだなんて、夜空から星をぬすむ時の描写にもニンマリしてしまいますね。
ぴかぴかぴか・・・ ぱらぱらぱら・・・
かわいらしい音をたてそうな、おはじきみたいな黄色い星たち。
星たちはぶじに夜空に帰ることができたでしょうか? どろぼうとやさしい男の子のふれあいに癒される、夢いっぱいの絵本です。

(原題『THE STAR THIEF』)
Author: ことり
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『メモリー・ウォール』 アンソニー・ドーア、(訳)岩本 正恵

老女の部屋の壁に並ぶ、無数のカートリッジ。その一つ一つに彼女の大切な記憶が封じ込められていた――。記憶を自由に保存・再生できる装置を手に入れた認知症の老女を描いた表題作のほか、ダムに沈む中国の村の人々、赴任先の朝鮮半島で傷ついた鶴に出会う米兵、ナチス政権下の孤児院からアメリカに逃れた少女など、異なる場所や時代に生きる人々と、彼らを世界に繋ぎとめる「記憶」をめぐる6つの物語。

読み終えたとき、私のなかでなにかが少し、揺らいだ気がしたのです。
‘宇宙’とか‘生命’とか、人知の及ばない大きなものにすっぽりとくるまれているような、神秘的ではかない気持ちが胸のなかいっぱいにうず巻いて。
世界の見え方が変わるって、こういうことをいうのでしょうか。

圧巻なのは、やはり表題作。人間の記憶を特殊な装置で取りだして保存できるようになった近未来のアフリカが舞台です。そんな時代になってもアパルトヘイトの影響が亡霊のように色濃くのこっている描写が切ない・・・。
主人公は、認知症の未亡人・アルマ。彼女の部屋の壁には記憶を封じこめた無数のカートリッジが留められていて、そこから‘ある記憶’を盗みだそうとたくらむ二人組の男が邸にしのび込みます。
大切な記憶がこぼれてゆくアルマの不安と恐怖、記憶読み取り人のルヴォが追体験するかつてのアルマの感情・・・それらが織りあわさるリアルな物語はふしぎな感覚を生み、読みながらなんどもなんども私自身の遠い記憶がゴウゴウとよび覚まされました。
よび起こすことができなくなったとき、記憶はどこへ行ってしまうんだろう――
古代生物の発掘に情熱を傾けながら死んだアルマの夫は、私たちが今ここにいるのはただの偶然だと話します。太古から延々とくり返されてきた生命の営み、地球の歴史からみたら、私たちの人生なんてほんの小さな点でしかないのかもしれない。でもだからこそそれぞれが奇跡で、かけがえがなくて、尊いものなのだと物語は語ってくれます。人びとの哀しみによりそう作者のやさしさが伝わってきます。
ひとつの短篇として収まっていながら、その味わいはまるで長編小説のそれのよう。とてつもなく広く、とてつもなく深い・・・ふくらかで灯るような物語でした。

『メモリー・ウォール』、『生殖せよ、発生せよ』、『武装地帯』、『 一一三号村』、『ネムナス川』、『来世』を収録。

(原題『Memory Wall』)
Author: ことり
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『わたしの中の遠い夏』 アニカ・トール、(訳)菱木 晃子

評価:
アニカ トール
新宿書房
¥ 2,310
(2011-06)

1976年夏。ストックホルム郊外の湖畔に建つ、白い<家>。共同生活を送る、三組の若いカップルとひとりの青年。青年に思いを寄せたマリーエ。だが彼女は、スタファンと結婚する・・・。それから三十年の歳月が流れたある朝、新聞の訃報を目にし、マリーエは動揺する。そこには、あの夏、あの<家>でともに過ごした青年の名があった。彼が撮った映像から、マリーエは過去の記憶をたぐり寄せようとする。古い権威が崩れ、自由を手にしたかに見えた世代は今・・・。

30年もの時間の堆積のこちら側で、マリーエが思いをはせるうしなわれた時代。
たったひとつの死亡記事で過去への扉がひらき、遠い夏のきらめきにみちた記憶の糸をたぐりよせていく物語です。時代そのものが変わりつつあった70年代、まぶしく逞しい理想や若さ、かなわなかった恋・・・あまりにも遠くまで人生を歩んできたことに途方に暮れ、あるいは愕然としながら。

医師として働く夫、すでに独立した娘と息子、やりがいのある中学教師という仕事・・・
なに不自由ない生活を手にしているマリーエですが、旧友・ロニーの訃報を目にし、冷静でいられなくなります。映画監督として成功したロニーは彼女がかつてせつなく苦しい恋心をいだいた相手。彼女は気持ちを整理するために家をあけ、物語は過去と現在を行き来しながらすすんでいきます。
マリーエの脳裡にうかび上がるロニーと3組のカップルたちの回想シーンはみずみずしく映像的で、まるで逆光のなかのシルエットのよう。彼女をこれほどまでかきたてた衝動は、うしなわれた幻想への憧れだったのでしょうか。
夫婦のあいだに広がる波紋、めくるめく夏の記憶と‘真実’とのズレ、ロニーの「未完作品」にこめられた控えめなメッセージ、そして3つの時代にまたがってすべてを見つめていた湖畔の<家>――。物語を最後まで読んだとき、マリーエの生徒たちが国語の授業で話し合っていた「すべての人間がそれぞれの物語を持つ」という言葉がせまってきます。ひとりひとりの物語の背後にかくされた、もうひとつの真実の物語の存在・・・。
スウェーデンの街の風景や日常生活のさりげない描写、会話のはしばしにのぞく人びとの心のうちが、ひんやりと美しいミステリアスな物語に彩りをそえています。

(原題『Motljus』)
Author: ことり
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『てろんてろんちゃん』 ジョイス・デュンバー、(絵)スーザン・バーレイ、(訳)えくに かおり

評価:
ジョイス デュンバー
ほるぷ出版
---
(1992-03)

てろんてろんちゃんは、ソフィーのたいせつなうさぎのぬいぐるみ。
ある日、ソフィーは森にブルーベルの花をつみにいきました。もちろん、てろんてろんちゃんもいっしょです。むちゅうになったふたりは・・・。

ブルーベルの咲きこぼれる森のなかに、ぽつんと置き去りにされたてろんてろんちゃん。夜になり、巣穴からでてきた‘ほんものの’うさぎの子どもたちに見つかってしまいます。
「なんなの、それ。生きてるの」 子うさぎたちのことばに、おかあさんうさぎはこうこたえました。 「これはてろんてろんちゃんよ」
まよなかの森、子うさぎたちにこっそりつれ出されたてろんてろんちゃんの運命は?

『わすれられないおくりもの』の作者スーザン・バーレイさんの絵が柔らかくてとてもかわいいです。
うっかり屋のソフィーにも、いたずら好きの子うさぎたちにも、あたたかなまなざしでつつみ込んでくれる素敵なおかあさんがいて、絵本ぜんたいがほっこりやさしい空気にみちているのがうれしい。
これはたしか、江國香織さんがはじめて翻訳を手がけられた絵本。「Lollop」から「てろんてろん」っていうことばを導きだす、そんな感性にもやられてしまいました。

(原題『LOLLOPY』)
Author: ことり
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『ゆくえふめいのミルクやさん』 ロジャー・デュボアザン、(訳)山下 明生

評価:
ロジャー デュボアザン
童話館出版
¥ 1,470
(1997-11)

ミルクやさんは、まい朝四時におきて、ねむい目をぐりぐりこすりながらシルビアに声をかけます。「おきろよ、シルビア。今日も一日、アメリアを ころがすんだ」
シルビアはダックスフントの名前、アメリアは配達のトラックの名前です。
まい朝 まい朝 しんせんミルク、
たまごと クリームと カテージチーズ、
ヨーグルトに バターに オレンジジュース、
バターミルクに チョコレート・・・
ミルクやさんは、町じゅうの奥さんがたにすてきな食品をくる日もくる日も届けます。
だけどある朝・・・アメリアはいつもの家のまえでとまりませんでした・・・

ミルクやさんはいつものきまりきった道、奥さんがたとのお天気の話に疲れきってしまったのです。そうしてふらりとぜんぶほうり出し、‘おまじない’をしてたどりついた森の湖――クマがおさめる小さな王国――で数日間をすごします。
こんなふうに、おいしい食べ物をどっさり愛車にのせ、愛犬をおともに気ままに「ゆくえふめい」になれたなら・・・
ミルクやさんの気持ちが分かる人、きっと多いんじゃないかな。

色つきと白黒が交互に訪れる、クラシカルな絵がとってもかわいいです。
それになんといっても、たっぷり息抜きをして仕事にもどったミルクやさんを、責めることなく待ちわびている町の人たち!み〜んなほのぼの、のんきで素敵。
そうぞうしい日常を生きている大人の方にもおすすめの絵本です。

(原題『THE MISSING MILKMAN』)
Author: ことり
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『針さしの物語』 ド・モーガン、(訳)矢川 澄子

美しさを鼻にかけて妖精たちの怒りを買い、鏡にも水にも自分のすがたを映せなくなった娘の話「みえっぱりのラモーナ」、きゅうくつなお城の生活にいやけがさして逃げだしたお姫さまと、身代わりの姫をめぐる話「おもちゃのお姫さま」、地までとどく自慢の髪をすべて失った王妃のふしぎな話「髪の木」など、クラシックで幻想的な短編集。

針さしの上に居合わせた、めのうのブローチと、黒玉のショール・ピンと、ただの留め針。さいきんめっきり使われなくなったと嘆く彼らが退屈しのぎにはじめたお話の数々・・・という設定がとても愛らしいです。
ギリシャ神話ふうのものから、小さな村にずっと伝わってきたような民話ふうのものまで、さまざまに語られていくおとぎ話集。私は『オパールの話』と『おもちゃのお姫さま』のお話がとくに好き。
作者の兄であるウィリアム・ド・モーガンさんが手がけられたという挿絵も、クラシカルな雰囲気がお話にぴったりで素敵でした。

(原題『On a pincushion and Other Fairy Tales』)
Author: ことり
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『イノック・アーデン』 A・テニスン、(訳)原田 宗典

評価:
アルフレッド テニスン
岩波書店
¥ 1,680
(2006-10-04)

英国ヴィクトリア朝時代の詩人、アルフレッド・テニスンが1864年に発表した物語詩を、原田宗典が日本語の朗読用に翻訳。いま、150年の時をこえて、誠実なる愛の物語が甦る!

ハシバミの森の薫り、海風のわたる坂道、小鳥たちのハミング・・・
牧歌的なたたずまいで、かなしくしずかにうたわれていく抒情詩です。
幸福な思い出もささやかな愛の暮しも、不穏な気配さえも、すべてが透明な光の粒となって行間からあふれだし、まるで心地よい音楽を聴いているみたいでした。
読みながらいつのまにか、やわらかな佳きものたちに見守られているような、そんな満たされた気持ちになっていました。

たったひとりの人を愛するということ、
時はうつろうということ、
自分の、ではなく誰かのために祈ること・・・

かなしくしずかにうたわれていく美しい魂に心が洗われます。

(原題『ENOCH ARDEN』)
Author: ことり
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『パパがやいたアップルパイ』 ローレン・トンプソン、(絵)ジョナサン・ビーン、(訳)谷川 俊太郎

評価:
ローレン トンプソン
ほるぷ出版
¥ 1,575
(2008-09)

あめもたいようもちきゅうもぜんぶ、このアップルパイにつまってる!
ひとつのアップルパイが世界につながる、つみあげうたの絵本。

「これはパパがやいたあまくてあつあつアップルパイです」
こんな文章で幕をあける、アップルパイの絵本です。
ほかほかと湯気がたって、あまくこうばしい香りがただよって・・・このおいしそうなパイはどんなふうにできたのでしょう?どんどんと過去をさかのぼっていくスケールの大きなつみあげ歌が新鮮です。
果皮のこっくりとした赤色と、皮をむいた果実の爽やかなクリーム色。ページぜんたいでりんごを表現したような、レトロで素朴な絵もうきうきと楽しい。
すう〜っと匂いをすいこんだなら、たちまちみんながうっとりしてしまうパパがやいたアップルパイ。ああ、いますぐお茶の時間にしたくなりました。

(原題『THE APPLE PIE THAT PAPA BAKED』)
Author: ことり
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『昼の家、夜の家』 オルガ・トカルチュク、(訳)小椋 彩

ポーランドとチェコの国境地帯にある小さな町、ノヴァ・ルダ。そこに移り住んだ語り手は、隣人たちとの交際を通じて、その地方の来歴に触れる。しばしば形而上的な空想にふけりながら、語り手が綴る日々の覚書、回想、夢、会話、占い、その地に伝わる聖人伝、宇宙天体論、料理のレシピの数々・・・。
豊かな五感と詩情をもって、歴史に翻弄されてきた土地の記憶を幻視する。現代ポーランド文学の旗手による傑作長編。

真昼なのに光のとどかない、針葉樹の森を歩いているみたいでした。
短篇のようで長編のよう、夢のようで日記のようで神話のようで・・・いびつでとりとめのない、こんな奇妙な物語がたまらなく好きです。うつくしい言葉で編まれたレース模様の影をぬって、ふわりゆらり、ふわりゆらり。私は気持ちよく迷子。

ひんやりと湿ったうす靄のなかに人びとの生活と歴史と伝説が混在しています。
風と土と木のにおい。古い書物のにおい。妙ちきりんなキノコ料理のにおい。
なつかしくてどこかはかない小さな町の物語、境界上をさまようさまざまなモチーフが緩やかにつながり、さりげない文章が胸にやさしく沁みてゆく、そんな心地よさにうっとりと酔いました。土地に埋もれた記憶や夜ごと見た幾つもの夢たちが、甘やかに揺れているのもとても幻想的。
風変わりな佇まいの隣人・マルタが登場する場面が大好きでした。
しわしわの肌と不思議なにおいにくるまれた老女。いっぷう変わった、けれど味わい深い会話と、彼女がつくり出すその場の空気・・・。

もしも人間でなかったら、キノコになりたいと主人公はいいます。「無関心で無感覚な、つめたくてすべすべの皮を持った、かたくてやわらかい」キノコに。
愛らしい容姿とかぐわしい香りをもちながら、倒木や屍の上に命をつむぐキノコ。陰気に、不吉に、‘死の隣り’にひそやかによりそうキノコは静かにすべてを赦し、受けいれ、それはそのままこの物語のイメージにつながっていくようでした。
物語はそっとつつみ込んでくれるから。目にみえる現実も、そうではないけれど日常にたしかに潜んでいる神秘や夢や幻想も――淡くのびやかな死さえも。

(原題『DOM DZIENNY,DOM NOCNY』)
Author: ことり
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『ともだちつれてよろしいですか』 ベアトリス・シェンク・ド・レーニエ、(絵)ベニ・モントレソール、(訳)わたなべ しげお

評価:
ベアトリス・シェンク・ド レーニエ
童話館出版
¥ 1,575
(2003-10)

大好きな『ゆきのプレゼント』のド・レーニエさんと、大好きな『クリスマス・イブ』のモントレソールさん。私にとっては夢の共作絵本。

王さまとお妃さまから日曜日のお茶に招待された少年は訊きました。
「ともだち つれて よろしいですか。」
そして、びっくりするようなともだちをつれてきて・・・?

どんな‘ともだち’をつれてきても王さまは「いらっしゃい」、お妃さまは「まあ、おめにかかれて しあわせよ!」とびっくりしながらも上機嫌です。
「わたしたちの ともだちの ともだちなら だいかんげいじゃ。」
そしてこの絵本、文章のなかにはひと言も‘だれ’をつれてきたのかが明記されてはいないのですよね。でも絵をみると、ちゃんと‘だれ’がやってきたのかが分かるようになっています。ぺったりとポップな色づけがされていながら、版画調でなんとも古めかしい風合いもかもしているふしぎな絵が、おはなしの雰囲気にぴったり。
文章と絵が仲良くよりそいあった、にぎやかで愛らしくユーモラスな絵本です。

(原題『MAY I BRING A FRIEND?』)
Author: ことり
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