『ヴィラ・マグノリアの殺人』 若竹 七海

海に臨むヴィラ・マグノリア。その空き家になった一棟で、死体が発見された。ヴィラの住人は一癖ある人ばかりで、担当刑事達は聞き込み一つにてんてこ舞い。捜査に手間取るうちに、ヴィラの住人が殺される第二の事件が発生!二つの事件のつながりはどこに?住人達の素顔も次第に明らかになって――。
粒よりユーモアをちりばめたコージー・ミステリーの快作。

読みながら、かなり頭のなかが混乱・・・うーーん、私にとってはちょっと登場人物が多すぎたみたい。
おもな登場人物が20人以上もでてきてしまうこのお話は、警察の捜査とともにヴィラの住人たちそれぞれのストーリーが同時に進んでいくせいもあって、整理するのにひと苦労。そのうえこれほどたくさんの人たちが、みんな怪しくみえるんだもの。

コージー・ミステリーとは「小さな街を舞台とし、主として誰が犯人かという謎をメインにした、暴力行為の比較的少ない、後味の良いミステリー」。
殺人事件が身近で2つも起こるのに、どこかほのぼのとした雰囲気が物語をつつんでいます。そのくせ人物描写にはぴりっとキレがあって、とくにご近所じゅうの嫌われ者・朱実さんの憎たらしい言動や、双子の女の子たちのおませでやんちゃなやりとりなどは、まるですぐそばで見聞きしているようなリアル感。
でも、混乱はしましたが、なかなか明かしてくれない事件の真相知りたさに最後まで楽しめた私です。このラストは、予測できない。
Author: ことり
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『論理と感性は相反しない』 山崎 ナオコーラ

評価:
山崎 ナオコーラ
講談社
¥ 1,470
(2008-03)
神田川歩美、矢野マユミズ、真野秀雄、アンモナイト、宇宙、埼玉、ボルヘス、武藤くん。
会社員・神田川と小説家・矢野を中心に、登場人物がオーバーラップする小説集。「小説」の可能性を拡げる全15編。

ナオコーラさん、なんて一度きいたら忘れられないお名前なので気になっていた作家さんです。でもなんとなく風変わりなお話を書かれるのかしらと思っていたら、案の定・・・ちょっぴり私には良さが分かりづらかった・・・。
男女間の微妙なズレを描いた同棲生活から、ふざけたようなバイオグラフィー、『伊勢物語』を題材につかった哲学的なお話まで。おもちゃ箱みたいにごちゃまぜなのにじつは重なっている、そんな型破りな構成は好みだったのだけれど。

表題にもなっている「論理と感性は相反しない」という言葉を目にしたとき、どちらかといえば感性にたよって生きている私は、うーんそうかもしれないなあ、なんて思ったのですが、論理的な夫に言わせると「ぜったいに反する」のだそう。
相反しないと思うのは、感性で生きている人側の言い分なのでしょうか・・・?
Author: ことり
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『死者のための音楽』 山白 朝子

作家・山白朝子による待望の初単行本。
怪談専門誌『幽』2号から7号までに連載された「長い旅のはじまり」「井戸を下りる」「黄金工場」「未完の像」「鬼物語」「鳥とファフロッキーズ現象について」の六編に、書き下ろし「死者のための音楽」を加えた全七編の、異界との境界と、親子を描いた幻想的な短篇集。

読み始めたとたん、美しい怪奇の世界に足をとられる。
妖しくてほの昏く、静謐で残酷。そんなさむざむしい世界を前に立ちすくむ私。
けれどそれぞれのお話からせつない家族愛が感じられるせいでしょうか、怖いばかりの短編集ではなかったのです。むしろ愛のぬくもりや、グロテスクなぶぶんをはぎ取ったときにうかび上がってくる哀しみ・・・そういうものたちが余韻となって読後心にのこるようです。
7つのお話のなかで、私は『鳥とファフロッキーズ現象について』が一ばん好き。

『鳥とファフロッキーズ現象について』
ある日、屋根に引っかかっている大きな鳥を発見し、家で飼うことにした父と「私」。
その鳥には不思議な力がそなわっていた。「私」たちが欲しているものを察して、とってきてくれるのだ。
そんななか、父がなにものかに銃殺される。鳥はどこかに行ってしまったが、相変わらず「私」の欲しいものを届けてくれて――。

ドライアイスみたいな白煙をもやりとまとっているような佇まい。頁を開くその前からつめたい霊気を感じるこの本の装丁は、祖父江慎さんが手がけられています。
ユージニア』や『金曜日の砂糖ちゃん』、「ミステリーランド」のシリーズなどで私にとっても馴染み深いデザイナーさんですが、こちらもかなりの凝りよう。ほそくて長い3本の黒糸がほどこされた栞紐には一瞬ひやりとさせられました。女性の抜け落ちた髪の毛を彷彿させる、不気味な仕様・・・。
ところで著者の山白朝子さんはじつは乙一さんだという噂ですが、ほんとかな?
Author: ことり
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『悪人』 吉田 修一

評価:
吉田 修一
朝日新聞社
¥ 1,944
(2007-04-06)

幸せになりたかった。ただそれだけを願っていた。
保険外交員の女が殺害された。捜査線上に浮かぶ男。彼と出会ったもう一人の女。加害者と被害者、それぞれの家族たち。群像劇は、逃亡劇から純愛劇へ。なぜ、事件は起きたのか?なぜ、二人は逃げ続けるのか?そして、悪人とはいったい誰なのか?

ほとんど一気に読み上げたこの小説、息をのむ展開のあとで、私の心にやるせないほどの重いものを残しました。
殺されてしまった佳乃、その両親や同僚、彼女が憧れていた増尾とそのとりまきたち、出会い系で知り合った祐一とその家族・・・たくさんの人たちが九州弁で思い思いに語るなか、ことの真相が明かされてゆく物語。
娘を思う父の愛、孫を思う祖母の愛、そして殺人犯の男が最後にみせた究極の愛・・・その深さ、哀しさを思ったら、切ない余韻に胸がつぶれてしまいそうになるのです。

自分には欲しい本もCDもなかった。新年が始まったばかりなのに、行きたいところも、会いたい人もいなかった。
どうしようもなく乾いた孤独の日々に、ある日燃えあがる恋の炎。その相手がもしも殺人を犯していたら・・・?
ありふれた話だなんてとてもいえない。だけど、きれいごとではない生々しい問題も避けないできちんと描かれてあって、それがこの小説をただのミステリーに終わらせない、そんなリアリティのあるものにしているようです。

うまく言葉にはできんとですけど、生まれて初めて人の匂いがしたっていうか、それまで人の匂いなんて気にしたこともなかったけど、あのとき、なぜかはっきりと佳乃さんのお父さんの匂いがして。・・・一人の人間がこの世からおらんようになるってことは、ピラミッドの頂点の石がなくなるんじゃなくて、底辺の石が一個なくなることなんやなぁって。

ただ愛し愛されたいと願う。
そんなピュアな気持ちさえ行き場をなくし、崩壊していく人生。
殺した人だけが「悪人」じゃない。なのにいっさい裁きをうけず、今日ものうのうと生きている「悪人」もいる・・・そう思うとくやしくて、やりきれなくて、そして、すごく怖い。
Author: ことり
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『ボトルネック』 米澤 穂信

評価:
米澤 穂信
新潮社
¥ 1,470
(2006-08-30)
恋人を弔うため東尋坊に来ていた僕は、強い眩暈に襲われ、そのまま崖下へ落ちてしまった。――はずだった。
ところが、気づけば見慣れた金沢の街中にいる。不可解な想いを胸に自宅へ戻ると、存在しないはずの「姉」に出迎えられた。
どうやらここは、「僕の産まれなかった世界」らしい。

‘もしも’の世界を描く、パラレルワールド・ミステリー。
主人公・嵯峨野リョウがやってきたのは、自分の代わりに「姉」が嵯峨野家のふたりめの子供として生きている世界。リョウはそこで、元いた世界との違いをひとつずつ目の当たりにし、戸惑いはじめます。なぜならその世界の違いは、ひたすら受け身で生きてきた自分と想像力豊かな明るい性格の姉、ふたりの違いから発生していたのです。

人がたった一人入れ替わっただけで、変わってゆく周囲の歴史。
こんなちっぽけな存在の私でも、もしも私の代わりにちがう誰かが生まれていたら、「世界」はちょっとだけ今とちがっていたの・・・?このお話を読んでいるといやおうなく考えさせられてしまいます。
両親の不仲、恋人の事故死。破綻寸前の世界を受け入れていくしかないとあきらめていたリョウに、ある日とつぜん突きつけられた、自分に代わって姉がつくりあげた素晴らしい世界。それはじりじりとリョウの心の奥にひそむ‘負’の感情につけこんでいきます。ぼくはどうしたって姉にはなれない、もうとり返しがつかない・・・。

これでもかというくらい絶望的で救いのないお話です。
引き込まれる展開ではあったのだけど、私はやはり、小さくてもどこかに希望の感じられる物語が好き・・・そんなことを改めて思った本でもありました。
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『a piece of cake』 吉田 浩美

評価:
吉田 浩美,坂本 真典
筑摩書房
¥ 1,680
(2002-12)

パートナーの吉田篤弘さんとともに、クラフト・エヴィング商會として数多くの装丁やデザインを手がけている吉田浩美さん。
この本には、彼女が大切にしているささやかな日常の断片(かけら)をひろいあつめて仕立て上げられたたくさんの本たち――レシピ、小説、楽譜、マンガ、写真集、絵本など――が順番に収められています。コルク人形のつくり方、なんてものまであって、手づくり感ただようあったか〜い一冊です。
「あ。この装丁すてき」そう思ったものがクラフト・エヴィング商會のお仕事だった・・・そんな経験、私にはたくさんあります。「本」そのものに豊かな愛情をそそぐ吉田さんの手にかかったからこそ生まれることができた小さな小さな本たち。やさしくて、かわいくて、眺めているだけでニッコリしてしまいました。

「誤字標本箱」がとくに好きです。
まちがって打たれた活字。「誤字」もまた、ひとつひとつがかわいい活字だから、なんとか彼らを再生したい・・・そんな思いからできた標本箱。
ふと小川洋子さんの短編『バタフライ和文タイプ事務所』を思い出してしまった私なのですが、そういえばこのお話が収められた短編集『』の装丁を担当したのもクラフト・エヴィング商會でしたね。活字そのものに魅入られる・・・そんな人たちは自然とよびあってしまうのかしら。
Author: ことり
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『雨のち晴れ、ところにより虹』 吉野 万理子

食の不一致で離婚危機にある夫婦を描いた『なぎさ通りで待ち合わせ』、人気予備校講師の母と高校3年生の娘が心を通わせる『こころ三分咲き』、厄年のOLたちが厄払いに出かける『ガッツ厄年』、ホスピスに入院した末期がん患者と看護師の現在と過去を描く『雨のち晴れ、ところにより虹』、空に憧れる少年と海を制した老人のお話『ブルーホール』、学生時代の親友の結婚式でのできごとを描く『幸せの青いハンカチ』。湘南を舞台にした6つのお話が収められている短編集です。

でもこの一見‘ふつう’そうな短編集、ひとつひとつに注目しても素敵なお話たちなのだけど、読んでいくうちにただの短編集ではないことが分かります。
湘南という場所ともうひとつ、とても特徴のある一人の女性が6つのお話をつないでいるのです。(といって、場所と人とが少しずつリンクしていくだけのありがちな連作短編とも、ちょっと違いました)
その女性・・・ホスピスで働く常盤さんは、最初の3つのお話ではほんの脇役なのですが、4つめの表題作では主役級にクローズアップされます。
最後まで読んでみると、常盤さんの日常があって、そして一瞬ドラマが起こり、そのあとは常盤さんの後日談・・・常盤さんにはまったく関係なさそうな短編を読んでいるあいだもずっと、彼女の物語を読んでいた、そのことに気づかされるのです。
とくにステキだったのは『ブルーホール』。このお話、常盤さんはちらりとも出てこないのに、海をはさんだこの風景の向こうでは車椅子を押した常盤さんがおなじ虹を見ているんだ――心のなかで2つの世界がぴったり合わさった時、じんわりとあたたかなものでみたされました。

吉野万理子さん。この方の小説ははじめて読んだのですが、まちがったことやいけない考えもフワっと受けとめてくれそうな、やさしいまなざしを感じました。
やさしさ、それが文章ににじみでること、そしてそれを読んだときのここちよさ・・・あらためていいなあと思います。そしてなにより、この構成力に脱帽!の私なのです。
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『初恋温泉』 吉田 修一

評価:
吉田 修一
集英社
¥ 1,365
(2006-06-26)

突然妻に別れ話を切り出され、とまどう夫。雪の一軒宿の謎めいたカップル。初めて恋人と温泉旅館に泊まる高校生。
熱海・青荷・黒川ほか、日常を少し離れた温泉宿で繰り広げられる男と女の風景。

しずかな趣きのある恋愛小説集。「無音という音」、「透明という色」・・・文中にあったこんな言葉たちがしっくり馴染む世界です。
からだを芯からあたためてくれる温泉、けれどこの本からは、なにかひえびえとしたものばかりを感じてしまった私。単に関係の冷めた男女についても描かれている、という理由だけではないような・・・。
それはもしかしたら、それぞれのお話でふとした拍子に浮き彫りになる、男と女のズレや埋められない温度差にあるのかもしれません。

日常の裏側にあるしっぽりとした温泉宿。
山のにおい、太鼓のような波音、目に見える風。
行ったことがない場所なのに、その風景描写のたくみさは、まるで自分がそこにいるかのような錯覚をおぼえるほど。沈黙さえもお話を豊かにいろどります。
あるいは沈黙ほど雄弁なものはないということ? すみずみにまで‘気配’が漂い、どのお話もあいまいな余韻ののこるラストが印象的でした。

『初恋温泉』、『白雪温泉』、『ためらいの湯』、『風来温泉』、『純情温泉』を収録。
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『メルシーフランス』 山本 ゆりこ

暮らし上手、楽しみ上手なフランス人とのやりとりやふれあい、そして街角ウォッチングからもらったエッセンスを、フランスならではの食べ物や日用品を通して紹介。
フランス人の暮らしと心を豊かにするエッセンスが満載。
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『第三の時効』 横山 秀夫

評価:
横山 秀夫
集英社
¥ 1,785
(2003-02)

ある地方の捜査の最前線・捜査第一課を主役に描いた連作短編集――『沈黙のアリバイ』、『第三の時効』、『囚人のジレンマ』、『密室の抜け穴』、『ペルソナの微笑』、『モノクロームの反転』。一話ごとに視点を変えて進んでいくにもかかわらず、まるで長編小説のような読みごこち。濃密な味わいです。

彼らは事件で食ってきたのではなく、
事件を食って生きてきた。

F県警捜一課の強行犯捜査には3つの班があり、それぞれを個性的な班長がとり仕切っています。
「理詰め型捜査」のいっけん冷酷な朽木(一班)。
「搦手(からめて)型捜査」の公安あがり・楠見(二班)。
「閃き型捜査」の天才肌・村瀬(三班)。
お互いに牽制しあいながら、おそるべき検挙率をほこっている3人の刑事たち。それぞれの事件に対峙していく3人の過去や思惑に、部下や上司たちの感情が複雑にからまって、そしてそんな登場人物ひとりひとりの微妙な心のゆれが、殺伐としたなかにもどこか血の通ったあたたかさを感じさせてくれるミステリーです。

二転三転する事件の流れや苛烈な手柄争いが、ぴりぴりとした緊迫感を生み出してくれるのですが、短編それぞれの結末はエレガントで芸術的。
さすが横山さん!とうなってしまうと同時に、横山さんはどこまでも‘人間’を描くことにこだわられたのだなあと、そんなふうにも感じました。最後まで読んでから、この本のいちばん始めの8行を読むと、いっそう重みが増すようです。
Author: ことり
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