『死者のための音楽』 山白 朝子

作家・山白朝子による待望の初単行本。
怪談専門誌『幽』2号から7号までに連載された「長い旅のはじまり」「井戸を下りる」「黄金工場」「未完の像」「鬼物語」「鳥とファフロッキーズ現象について」の六編に、書き下ろし「死者のための音楽」を加えた全七編の、異界との境界と、親子を描いた幻想的な短篇集。

読み始めたとたん、美しい怪奇の世界に足をとられる。
妖しくてほの昏く、静謐で残酷。そんなさむざむしい世界を前に立ちすくむ私。
けれどそれぞれのお話からせつない家族愛が感じられるせいでしょうか、怖いばかりの短編集ではなかったのです。むしろ愛のぬくもりや、グロテスクなぶぶんをはぎ取ったときにうかび上がってくる哀しみ・・・そういうものたちが余韻となって読後心にのこるようです。
7つのお話のなかで、私は『鳥とファフロッキーズ現象について』が一ばん好き。

『鳥とファフロッキーズ現象について』
ある日、屋根に引っかかっている大きな鳥を発見し、家で飼うことにした父と「私」。
その鳥には不思議な力がそなわっていた。「私」たちが欲しているものを察して、とってきてくれるのだ。
そんななか、父がなにものかに銃殺される。鳥はどこかに行ってしまったが、相変わらず「私」の欲しいものを届けてくれて――。

ドライアイスみたいな白煙をもやりとまとっているような佇まい。頁を開くその前からつめたい霊気を感じるこの本の装丁は、祖父江慎さんが手がけられています。
ユージニア』や『金曜日の砂糖ちゃん』、「ミステリーランド」のシリーズなどで私にとっても馴染み深いデザイナーさんですが、こちらもかなりの凝りよう。ほそくて長い3本の黒糸がほどこされた栞紐には一瞬ひやりとさせられました。女性の抜け落ちた髪の毛を彷彿させる、不気味な仕様・・・。
ところで著者の山白朝子さんはじつは乙一さんだという噂ですが、ほんとかな?
Author: ことり
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『一瞬でいい』 唯川 恵

評価:
唯川 恵
毎日新聞社
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(2007-07-20)
1973年11月、浅間山での出来事が18歳の二人の少女と一人の少年の運命を変えた。
事故の重みを胸に秘め、大人へと成長してゆく三人。
著者が自らと同年生まれに設定した主人公たちの18歳から49歳までの人生の軌跡を描く、すべての世代に贈る31年間のラブ・ストーリー。

みぢかな誰か(それはもちろん自分自身だったりもするのだけれど)を当てはめて、重ねてしまえる恋愛小説――私が唯川さんの本にいだいていたイメージです。
恋にまつわる悩みごとが人生の一大事。近しい主人公の近しいお話・・・どちらかと言うとかるい気持ちで読みたいときに重宝していた彼女の本。
けれどこの物語は、これまでのイメージをすっかり覆してしまうもの。波乱万丈、ドラマティック・・・こんな形容がぴったりの一冊なのです。

大切な友人を亡くしてしまった男女。十字架を背負いながら歩むそれぞれの人生は思いがけなく交わっては離れることをくり返し、激動の時代を加速度をまして進んでいきます。
複雑にからまる恋心。生活の変化。ぬぐい去れない罪悪感。
あまりにも自分を責め続ける彼らに、「もっとわがままに生きて。もっと自分の幸せに貪欲になっていいよ」と思わずにいられなかった私ですが、それは友人の死の責任の一端が自分にある、そんな経験を味わったことがないシアワセな人間の身勝手な言い分なのかもしれません。
人生は紙一重。奥深くてむずかしい・・・当たり前のことを重くせつなく痛感しました。おそろしく非情で、けれどとてもあたたかなことも。

「大切なものは壊れやすいの。若い時なら修復する時間はたっぷりあるけれど、私たちはもうそんなに若くない。」
‘もしも’の人生。これまで、そしてこれから。いろんなことを考えさせられます。
今まで読んだ唯川さんの本の中で、一ばんよかった。ずんと心にひびく物語です。
Author: ことり
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『悪人』 吉田 修一

評価:
吉田 修一
朝日新聞社
¥ 1,944
(2007-04-06)

幸せになりたかった。ただそれだけを願っていた。
保険外交員の女が殺害された。捜査線上に浮かぶ男。彼と出会ったもう一人の女。加害者と被害者、それぞれの家族たち。群像劇は、逃亡劇から純愛劇へ。なぜ、事件は起きたのか?なぜ、二人は逃げ続けるのか?そして、悪人とはいったい誰なのか?

ほとんど一気に読み上げたこの小説、息をのむ展開のあとで、私の心にやるせないほどの重いものを残しました。
殺されてしまった佳乃、その両親や同僚、彼女が憧れていた増尾とそのとりまきたち、出会い系で知り合った祐一とその家族・・・たくさんの人たちが九州弁で思い思いに語るなか、ことの真相が明かされてゆく物語。
娘を思う父の愛、孫を思う祖母の愛、そして殺人犯の男が最後にみせた究極の愛・・・その深さ、哀しさを思ったら、切ない余韻に胸がつぶれてしまいそうになるのです。

自分には欲しい本もCDもなかった。新年が始まったばかりなのに、行きたいところも、会いたい人もいなかった。
どうしようもなく乾いた孤独の日々に、ある日燃えあがる恋の炎。その相手がもしも殺人を犯していたら・・・?
ありふれた話だなんてとてもいえない。だけど、きれいごとではない生々しい問題も避けないできちんと描かれてあって、それがこの小説をただのミステリーに終わらせない、そんなリアリティのあるものにしているようです。

うまく言葉にはできんとですけど、生まれて初めて人の匂いがしたっていうか、それまで人の匂いなんて気にしたこともなかったけど、あのとき、なぜかはっきりと佳乃さんのお父さんの匂いがして。・・・一人の人間がこの世からおらんようになるってことは、ピラミッドの頂点の石がなくなるんじゃなくて、底辺の石が一個なくなることなんやなぁって。

ただ愛し愛されたいと願う。
そんなピュアな気持ちさえ行き場をなくし、崩壊していく人生。
殺した人だけが「悪人」じゃない。なのにいっさい裁きをうけず、今日ものうのうと生きている「悪人」もいる・・・そう思うとくやしくて、やりきれなくて、そして、すごく怖い。
Author: ことり
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『a piece of cake』 吉田 浩美

評価:
吉田 浩美,坂本 真典
筑摩書房
¥ 1,680
(2002-12)

パートナーの吉田篤弘さんとともに、クラフト・エヴィング商會として数多くの装丁やデザインを手がけている吉田浩美さん。
この本には、彼女が大切にしているささやかな日常の断片(かけら)をひろいあつめて仕立て上げられたたくさんの本たち――レシピ、小説、楽譜、マンガ、写真集、絵本など――が順番に収められています。コルク人形のつくり方、なんてものまであって、手づくり感ただようあったか〜い一冊です。
「あ。この装丁すてき」そう思ったものがクラフト・エヴィング商會のお仕事だった・・・そんな経験、私にはたくさんあります。「本」そのものに豊かな愛情をそそぐ吉田さんの手にかかったからこそ生まれることができた小さな小さな本たち。やさしくて、かわいくて、眺めているだけでニッコリしてしまいました。

「誤字標本箱」がとくに好きです。
まちがって打たれた活字。「誤字」もまた、ひとつひとつがかわいい活字だから、なんとか彼らを再生したい・・・そんな思いからできた標本箱。
ふと小川洋子さんの短編『バタフライ和文タイプ事務所』を思い出してしまった私なのですが、そういえばこのお話が収められた短編集『』の装丁を担当したのもクラフト・エヴィング商會でしたね。活字そのものに魅入られる・・・そんな人たちは自然とよびあってしまうのかしら。
Author: ことり
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『初恋温泉』 吉田 修一

評価:
吉田 修一
集英社
¥ 1,365
(2006-06-26)

突然妻に別れ話を切り出され、とまどう夫。雪の一軒宿の謎めいたカップル。初めて恋人と温泉旅館に泊まる高校生。
熱海・青荷・黒川ほか、日常を少し離れた温泉宿で繰り広げられる男と女の風景。

しずかな趣きのある恋愛小説集。「無音という音」、「透明という色」・・・文中にあったこんな言葉たちがしっくり馴染む世界です。
からだを芯からあたためてくれる温泉、けれどこの本からは、なにかひえびえとしたものばかりを感じてしまった私。単に関係の冷めた男女についても描かれている、という理由だけではないような・・・。
それはもしかしたら、それぞれのお話でふとした拍子に浮き彫りになる、男と女のズレや埋められない温度差にあるのかもしれません。

日常の裏側にあるしっぽりとした温泉宿。
山のにおい、太鼓のような波音、目に見える風。
行ったことがない場所なのに、その風景描写のたくみさは、まるで自分がそこにいるかのような錯覚をおぼえるほど。沈黙さえもお話を豊かにいろどります。
あるいは沈黙ほど雄弁なものはないということ? すみずみにまで‘気配’が漂い、どのお話もあいまいな余韻ののこるラストが印象的でした。

『初恋温泉』、『白雪温泉』、『ためらいの湯』、『風来温泉』、『純情温泉』を収録。
Author: ことり
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『東京タワー―オカンとボクと、時々、オトン』 リリー・フランキー

リリーさんが最愛の母・オカンについて語る自伝的小説。
これほどまっすぐ母への思いを綴った本に、はじめて出逢った気がします。

これは大都会東京に惹かれ焦がれて、なにかをめざすために上京し、はじきとばされ故郷に戻っていった「オトン」と、おなじようにやって来て、帰る場所をなくしてしまった「ボク」と、そして、一度もそんな幻想を抱いたこともなかったのに東京につれて来られて、戻ることも帰ることもできず、東京タワーの麓で眠りについた、「オカン」とのちいさな物語――。

もう、ここで私が何を述べるとかいうよりも、まずは読んでほしいと思います。
唯一にして最愛の「母親」という存在。その人とのかけがえない思い出と、その人が人生を削って与えてくれた深い愛情、そしてその人を永遠にうしなってしまうかもしれない底無しの恐怖と、亡くした後でおしよせたどうすることもできない後悔・・・。
この世界と自分。その曖昧な間柄に流れる時間は果てしなくなだらかに続くが、誰にでもある瞬間から、時の使者の訪問を受ける。(中略)
それまで、未だ見ぬ未来に想いを傾けて緩やかに過ぎていった時間は、逆回転を始める。今から、どこかにではなく。終わりから今に向かって時を刻み、迫り来る。自分の死。誰かの死。そこから逆算する人生のカウントダウンになる。今までのように現実を回避することもできない。その時は、必ず誰にでも訪れる。誰かから生まれ、誰かしらと関わってゆく以上。
私にも最愛の母がいます。田舎で、夫婦仲よく元気に暮らしています。このお話の「オカン」とは、ちがうところも似ているところももちろんあるけれど、娘である私への愛は‘絶対’で、それは「オカン」も私のお母さんもおなじだと思いました。
迷惑や心配のかけっぱなしで、いくつになってもあまえていたくて、恩返しもなかなかままならないけれど・・・そう、「人生のカウントダウン」はかならず訪れる。
その時までに、私に、何ができるの?
大切にしなくちゃ。孝行しなくちゃ。私には、まだ時間があるのだから。

母からうけた愛の深さと、母にたいする思いのつよさに比例して、その何倍もの重さと苦さで、この物語は胸にひびくことでしょう。涙は流れても流れても尽きることなく私の頬を濡らしつづけ、そばにあったティッシュの箱はからっぽになりました。
遠く離れたいまになって、いっしょに過ごせる時間がわずかになって、その存在の大きさを、ありがたみを、ようやく痛感するなんて。まったく子どもというのは、なんて愚かしい存在なのかしら・・・。

「お母さん、長生きしてね」
Author: ことり
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『沈まぬ太陽』(全5巻) 山崎 豊子

巨大な航空会社のおそるべき裏面と暗闘・・・。時代と組織に弄ばれた主人公の苛酷な左遷。現代の流刑の徒を鮮烈に描く。(1巻)
家族との離別、果てしなき孤独を支えたアフリカの大地。理不尽な“現代の流刑”に耐える主人公と家族の、宿命の転変。(2巻)
御巣鷹山に墜落したジャンボ機に、何が起きたのか。犠牲者の無念の思い、遺族の慟哭と怒りが、深く胸を打つ・・・。(3巻)
御巣鷹山の墜落事故後、新会長・国見は恩地を会長室部長に抜擢した。だがそれは、新たなる苦闘の始まりだった・・・。(4巻)
“この地球上で最も危険で獰猛な動物は人間である”という警告は真実だった。恩地を待ち受けていたのは、畏れを知らぬ魑魅魍魎。(5巻)
日本を代表する航空会社の凄まじいまでの腐敗。85年の御巣鷹山事故の衝撃を出発点に、その内実を描いたノンフィクション・ノベル。

はあぁぁぁぁ・・・読み終えて、しばし呆然としました。
あの航空会社と至上最悪の被害を出した墜落事故を下敷きに、圧倒的な筆力と膨大な取材をもとに書かれた「小説」です。けれど主人公・恩地元のモデルはいるそうだし、どこまでがフィクションなのかわからなくて心がすくんでしまう。これがすべて事実なのだとしたら・・・そんな厭な想像をせずにはいられなくて、読んでいるとどんどん気持ちがふさいで暗澹としてくるのです。
第3巻では、当時小学生だった私にも衝撃的だったあの事故のようすがまざまざと描かれ、怖くて、かなしくて、悔しくて、涙と震えがとまりませんでした。

どうしてこんなことが起きたの?
なんでなんの罪もない人たちがこんな思いをしなくてはならないの?
あの事故の裏で、どんなことが起こっていたの?

ふつふつととめどなくこみ上げてくる怒りと、大きな黒い権力を前にしての無力さに、いまも胸がはりさけそうです。
これはきっと、読者一人ひとりがそれぞれの心で受け止めるべき本。
好き嫌いとか、合う合わないとか、そういう嗜好的なことは関係なしに、いまを生きる日本人ならばぜひ一読してほしい、そんな本だと思いました。
Author: ことり
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『肩ごしの恋人』 唯川 恵

評価:
唯川 恵
マガジンハウス
¥ 1,470
(2001-09)

女は綺麗で、セックスがよくて、一緒にいて楽しいこと以外、何が必要なの?――美貌を武器に、人が欲しがるものはなんでも欲しがり、人がいらないと言ったとたんに興味をなくしてしまう女、るり子。
男もセックスも好きよ。だけど、男もセックスも信用してないわ。――レイプされた過去を持ち、そのトラウマからか、どこかで結婚にたいして嫌悪を抱いてしまう女、萌。
5歳からの幼なじみ。対照的な彼女たちは、けれど互いをきちんと認めあっている。そんなふたりの内なる成長をさわやかに描いた第126回直木賞受賞作。

離婚、不倫、ゲイ、家出少年、未婚の母・・・ほんと言うと、ストーリーにとりたてて新鮮みがなかったのもたしか。けれどすごくおもしろかったのです。
るり子のキャラクターが際だっていることと、ぽんぽん勢いよく発せられる彼女たちの台詞がイマドキの独身女性の心情をよく表していて、私にとって共感できる箇所――もちろん、るり子にしたって萌にしたってすこし極端すぎるのだけど、心の奥の小さな鈴がかすかに共鳴する――そういうぶぶんがたくさんあったせいなのかも。
ちょっと思いきったことを書いてしまえば、ほとんどの女性のなかに‘ふたり’は棲んでいるのではないかしら・・・。女性の方ならたぶん、私の言いたいことをわかってくれるはず。
この本はきっと、女性なら多かれ少なかれ思い当たる心の奥の‘るり子’や‘萌’を、少し大げさに映しだした鏡のようなもの・・。るり子も萌も、けっして最後までめげないところが、読後感をさわやかなものにしてくれました。
Author: ことり
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『蹴りたい背中』 綿矢 りさ

評価:
綿矢 りさ
河出書房新社
¥ 1,050
(2003-08-26)

さびしさは鳴る。耳が痛くなるほど高く澄んだ鈴の音で鳴り響いて、胸を締めつけるから、その音がせめて周囲には聞こえないように、私はプリントを千切る。細長く、細長く。紙を裂く耳障りな音は、孤独の音を消してくれる。気怠げに見せてくれたりもするしね。

めずらしく、冒頭から惹きつけられてしまったお話です。
理科の実験中にプリントを引き裂き続けるクラスの「余り者」・ハツと、その隣で男のくせに女性ファッション誌を眺めるもう一人の「余り者」・にな川とのあいだに芽生える、いびつな友情。自分の感情すら持てあましてしまう彼らの不器用さと、クラスメートと群れるのがいやで、かといってまわりから浮くのもこわいハツの揺らぎ・・・かつての私にも音をたてて思い当たる複雑な若さたち。
とくに、女性モデル・「オリチャン」の熱狂的ファンであるにな川への、恋とも友情ともつかない感情が「この、もの哀しく丸まった、無防備な背中を蹴りたい。痛がるにな川を見たい。」という思いとして集約されていく過程は、すばらしく鮮やかでした。

遠い日の、閉塞的な高校時代を思い起こさせるある種の息苦しさと、10代ならではのはじけんばかりのういういしさ。たしかにあったあの頃に、もう、戻れない。
教室の隅、雨にけむるグランド、つまらない授業。
上履き、先生、プール、部活、10分休憩。
・・・変わりばえのない退屈な日々の連なり。
時のかなたに置き去りにされていたものたちがグイ、とよみがえってきました。
綿矢さんは芥川賞の受賞会見で、「私の書く小説の世界はとてもせまいです」と語っているけれど、高校生を描くのに広い世界は必要ないのです。たぶん。
彼らが必死にもがいている世界は、いつだって、ちっぽけな空間なのだから。そしてそのせまい宇宙で彼らの思いは、四方八方めいっぱいひろがり続ける――。

認めてほしい。許してほしい。櫛にからまった髪の毛を一本一本取り除くように、私の心にからみつく黒い筋を指でつまみ取ってごみ箱に捨ててほしい。人にしてほしいことばっかりなんだ。人にやってあげたいことなんか、何一つ思い浮かばないくせに。
高校生のさびしさが、鳴ってる。
Author: ことり
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『プラナリア』〔再読〕 山本 文緒

評価:
山本 文緒
文藝春秋
¥ 1,400
(2000-10)

乳がんの手術以来、何をするのもかったるい25歳の春香。
この洞窟の出口はどこにある――現代の“無職”をめぐる五つの物語。

山本文緒さんの本を読むといつも感じる、ちくんと残る心の痛み。思いがけない人のやさしさに触れたような温もり・・・その両方を感じながら読みかえした本。
人のもつイヤなぶぶんとよいぶぶんが、かたよらないで公平に物語からうかび上がってくるみたいです。
人物ひとりひとりに自分を投影させた時のやるせなさ。けれど、読み終わったあとに感じる不思議な安堵感はなぜなのでしょう。

表題にもなっている『プラナリア』ですが、乳癌を患ってしまった女性や、やっかいな行動をして彼女を困らせる老人・・・どちらかといえばいたわるべき存在として描かれることが多い彼らの存在が、この本ではちがっています。
現実はきっとこんな感じなのかも? そんなふうに思わせるほどの説得力に、ぐいぐいと引き込まれていきました。

ちっとも恰好よくなんか生きてはいけないし、頑張ってもうかばれなかったり、自分の思いとは裏腹な出来事たち・・・。
やさしい人と意地悪な人が交互にあらわれるようなでこぼこした日常、平穏でありたいと強く願いながらもそうはさせてくれない歯がゆさ。きっとみんなもいっしょなんだね、そう思わせる短編集です。
Author: ことり
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