『三好達治詩集』 三好 達治

三好達治さんの詩にはじめてふれたのは、教科書に載っていた『大阿蘇』でした。
「雨の中に馬がたつてゐる」ではじまるあの詩です。
ぐっしょりと濡れそぼって草をたべている馬たち。山が煙をあげ、雨が蕭々と降りつづくさま――そう、「蕭々と」というフレーズがとても印象深かった・・・。
この本には、詩集『測量船』の全篇と、あとは『南窗集』、『硫崕検戞◆懣福戞◆懷臉蚓ぁ戞◆悵貪西癲戞◆慊菜集』、『寒柝』、『花筐』、『干戈永言』、『故郷の花』、『砂の砦』、『駱駝の瘤にまたがつて』、『百たびののち』のそれぞれの詩集から少しずつえらばれた詩とエッセイが掲載されています。

三好達治さんの日本語はほんとうにうつくしい。
私は詩にはまったく詳しくありませんが、彼は私のなかでもっとも‘うつくしい’詩人に位置づけされています。『大阿蘇』をはじめ、『いにしへの日は』(この詩集には未収録)、『甃のうへ』などどれも流れるような言葉のつらなりがうつくしく、いつもうっとりと酔わされてしまいます。
うつくしくて、はかなくて、哀しくて、なつかしい――
三好さんのつむぎ出す清らかな言葉たち、その情景に心ゆくまでみたされました。

母よ――
淡くかなしきもののふるなり
紫陽花いろのもののふるなり
はてしなき並樹のかげを
そうそうと風のふくなり

時はたそがれ
母よ 私の乳母車を押せ
泣きぬれる夕陽にむかつて
轔々と私の乳母車を押せ (『乳母車』より)

太郎を眠らせ、太郎の屋根に雪ふりつむ。
次郎を眠らせ、次郎の屋根に雪ふりつむ。 (『雪』)

ゆくすゑをなににまかせて
かかるひのひとひをたへむ

いのちさへをしからなくに
うらやまのはやしにいれば

もののはにあられふりける
はらはらとあられふりける (『あられふりける 一』)
Author: ことり
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『かのこちゃんとマドレーヌ夫人』 万城目 学

かのこちゃんは小学一年生の元気な女の子。
マドレーヌ夫人は外国語を話す優雅な猫。
その毎日は、思いがけない出来事の連続で、不思議や驚きに充ち満ちている。

万城目学さんの本をはじめて読みました。
ほっこりと気持ちがなごむ、かわいらしいお話。猫どうしのおしゃべりだとか、猫が人間にのり移るとか・・・設定はすごくファンタスティックなのにすんなりと入っていける、そんな自然な描かれ方がとても心地よかったのです。

猫のマドレーヌと老犬の玄三郎は夫婦だと信じているかのこちゃん。
彼女の素直な子どもらしいあかるさが、ふわふわとしたこのお話をしっかりと現実に立たせてくれている感じ。鼻てふてふ、茶柱の抽象画、ござるのお茶会・・・「ふんけー(刎頚)の友」であるかのこちゃんとすずちゃんのアツい友情がほほえましくて、やりとりのひとつひとつにフフ、と笑みがこぼれてしまいます。
別れはいくつになっても悲しく淋しいものですが、子どもの頃に経験したそれは少しとくべつなヴェールにつつまれて心にのこっています。鼻の奥がツン、となる場面もたくさんあったけれど、読み終えたあと元気に前を向いて歩きたくなるような‘せつなあかるい’物語でした。
Author: ことり
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『ふってきました』 もとした いづみ、(絵)石井 聖岳

いまにも ふってきそうな そらです。
つるこちゃんは おはなを つんでいました。
おかあさんに あげるのです。
すると、そらから――・・・

アハハ、愉快愉快!
なんにも知らずに手にした絵本だったから、もう楽しくて楽しくて・・・。さいしょからさいごまで笑いっぱなしの私でした。
この絵本にかぎっては、前もって調べたりせずにまっさらな状態で読んでほしいな。
梅雨の季節にもオススメですよ。うっとうしい気分をふき飛ばしちゃいましょう!
Author: ことり
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『八つの小鍋―村田喜代子傑作短篇集』 村田 喜代子

土地からたちのぼる綺想、生きることのたくましさとおおらかさ。大人のユーモア漂う短篇の名手の代表作をデビュー30年を機に精選。
「鍋の中」(芥川賞)、「百のトイレ」「白い山」(女流文学賞)、「真夜中の自転車」(平林たい子賞)、「蟹女」(紫式部文学賞)、「望潮」(川端康成文学賞)など、さまざまな味わいをお楽しみ下さい。

村田喜代子さんの本をはじめて読みました。
どれも混沌としてほの昏い靄のなかみたい。落ち葉と泥土のにおいがします。
そうしてお話はぼんやりとしたまま最後の一行を終えるから、なにか茫漠とした場所に置いてきぼりにされたような、そんな心細さがのこるものが多くありました。

忽然と消えた友人、混濁した祖母の思い出、排尿にとり憑かれた幼女、風変わりな人形ごっこ・・・昭和の田舎風景と誰かの古い記憶や妖しいしぐさなどが溶け合って、とろりふわりと不気味な凄みをもたせた短篇の数々。
青草の上に、落葉の上に、由美子の尿の一滴が降りかかる。わたしは歩きながらうれしくなった。由美子の股はなんだか世界の天井みたいではないか。ふっくらした柔らかい、湯気ののぼるような天井である。
(『百のトイレ』)
おおらかに蠢き、言葉はそこでたしかに鼓動する。
どれもものすごく身近な生活が描かれているのにその底はとてつもなく深くて、こんなもの凄い短篇たちにはなかなか出逢えないかも・・・。
『熱愛』、『鍋の中』、『百のトイレ』、『白い山』、『真夜中の自転車』、『蟹女』、『望潮』、『茸類』――老婆、記憶、そして死が、独特の気配で色濃くまざりあう8つの鍋の中身、あなたも覗いてみませんか。
Author: ことり
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『もりのおくのおちゃかいへ』 みやこし あきこ

おつかいに行くキッコちゃんが見つけた不思議な館。
そっとのぞいてみると、おめかしした動物たちがすてきなお茶会を開いていました。

つめたい冬の空気の質感がこちらにまで伝わってくる、グレイの濃淡の世界。
ちょんとそえられた赤や黄色のアクセントが効いています。
やさしいタッチのかわいらしい絵本ですが、物語の入り口にはドキドキとした不安な気配がただよいます。だって、お父さんだと思って追いかけた背中は――?
迷子になって、知らない人にじっと見つめられる怖さだとか緊張感。それらが陽気な動物たちのおかげでみるみるほぐされていくおはなしです。読み終えるころには私の気持ちもほっこりとみたされていました。
とりどりの素朴なケーキにあたたかいお茶。ティーカップやティーコジー、アンティークショップで見かけるようなかたちのケーキサーバーなど、小道具もかわいい。
りぼんをかけて、冬のプレゼントにも。
Author: ことり
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『ton paris』〔再読〕 茂田井 武

評価:
茂田井 武
講談社
¥ 3,456
(2010-07-08)

天才と称されながら、短い活躍ののち惜しまれつつ急逝した童画家、茂田井武。ぬくもりのある筆致や詩情あふれるモチーフは、現在も多くのファンを魅了し続けている。その茂田井が20代にパリで描き綴った画帳が「ton paris」(トン・パリ)。市場、遊園地、安酒場・・・1930年代のパリの空気を水彩や色鉛筆で優しく鮮やかに写し取った若き日の絵日記は、画家のエッセンスが凝縮したかのような存在感を放つ。
現存する画帳の全ページを掲載し、資料として作品解説・関連地図・略年譜・未発表原稿を収録した、ファン待望の画集。

茂田井武さんの画集『トン・パリ』が復刊されました。
古い紙とか絵の具の匂いがふわっとただよってきそうな装丁がとてもすてき。
やわらかに力強く、ぼんやりと淡くにじむ素朴なパリの絵たちは、パリの空気、旅情を豊かにとじ込めて、そっと私たちを待ってくれています。
まるでアトリエのちいさな椅子に腰かけて、茂田井さんが筆を走らせるかすかな音に耳をすませているみたい・・・
ながめているとあっというまに時が過ぎてしまう、‘やさしい時間泥棒’な画集です。
Author: ことり
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『まど・みちお画集 とおいところ』 まど・みちお

評価:
まど・みちお
新潮社
¥ 3,360
(2003-11-15)

まど・みちおさんの詩画集です。
まどさんの目はやさしくて、注意深くて、いつもおどろきに見開かれています。
そのことばと絵は、夕焼けみたいなせつなさで、ぽっかり明るく心におちる。
どこか遠くのなつかしい場所に誘われて、心細いうちに研ぎ澄まされる・・・そんな不思議な感覚がしました。

『とおい ところ』、『いちばんぼし』、『ことり』、『どうして いつも』、『リンゴ』、『シソのくき』、『地球の用事』・・・好きな詩がいっぱいです。
すいよせられそうな抽象画や、かわいらしいスケッチの数々も。
まどさんという人は、のびやかでセクシーな人だと思う。

そらの
しずく?

うたの
つぼみ?

目でなら
さわっても いい? (『ことり』)
Author: ことり
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『チョコレータひめ』 もとした いづみ、(絵)樋上 公実子

評価:
もとした いづみ
教育画劇
¥ 1,155
(2008-10)

あまいお菓子がだいすきなチョコレータひめ。あまいお菓子をたべるのはもちろんのこと、その美しい色やかたちをながめるのもだいすきなお姫さま。
そんなチョコレータひめのもとに、ある日ふうがわりな男がひとりやってきて、ひと粒のボンボンをさしだします。
「おひめさま、これは ひとたび めしあがると、てにふれたものが すべて おかしにかわるという まほうのチョコレート、『アステーオ』というものでございます」

樋上さんの描く、色鮮やかであまやかなお菓子たち、うっとりと美しいお姫さまの絵がとにかく綺麗。
チョコレータひめはうきうきとよろこんでいろんなものをお菓子にかえてしまいます。お菓子がつまった宝石箱や、あまいクリームの階段、とろとろチョコレートの小川・・・思わず幼いころ大好きだった『ヘンゼルとグレーテル』の「お菓子の家」にかさね合わせて、ワクワクしてしまった私。
お話の流れはというと、どこかで読んだようなありふれた印象です。でもこの設定と美しい絵、これだけで世界は完ぺき。ながめているだけであまい香りが鼻先をかすめ、しあわせ気分になれちゃうの。
あまいお菓子、きらびやかなお城、かわいいドレス、あまやかしてくれるお父様、すらっとした美青年・・・女の子の‘大好き’がいっぱいつまった絵本です。
Author: ことり
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『犬身』 松浦 理英子

評価:
松浦 理英子
朝日新聞社
¥ 2,100
(2007-10-05)

あの人の犬になりたい。そして、人間では辿り着くことのできない、心の深みに飛び込んで行きたい。
「自分は犬である」と夢想してきた房恵が、思いをよせる女性の飼い犬となるため、謎のバーテンダーと魂の契約を交わす。ところが、飼い主の家族たちは決定的に崩壊していた。オスの仔犬となった「フサ」は、彼女を守ることができるのか?

本をとじたあと、思わずため息をもらしていました。ただもう、くらくらとして。
なまあたたかい獣のにおいがいまも鼻腔にこびりついているみたい。
犬化願望のある女性が、犬になるお話。「犬になりたい」という言葉から‘献身’的に誰かに仕えたい、そんな下僕のようなものを想像したのですが、ほんとうに犬になるお話にびっくり。タイトルの‘犬身’になるほど・・とうなってしまった私です。

その着想もさることながら、このお話がすごいのは、犬になりたい人間が犬になる、それだけではけっして終わらないところ。
犬の目線を通して、一人の女性の悲惨な過去や境遇が浮き彫りにされていきます。それはそれは目をそらしたくなるほどの、おぞましい近親姦やいやみったらしい母親の仕打ち。人が犬に変わる・・・そんな現実味のない設定が、この生活臭たっぷりのぞわぞわとした嫌悪感で、いっきに現実に引き戻されてしまうのです。
容赦なく吐きだされていく人間の愚かしさ。性を、そして種(しゅ)さえも超えた愛と官能。奥に深いものを抱えながらも最後まで読み手を飽きさせないで、人の心の深層まで描いてこちらにみせてくれた小説でした。
Author: ことり
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『ボヌール』 南 桂子

評価:
南 桂子
リトルモア
¥ 3,024
(2006-05-24)

少女、小鳥、樹、花、お城。
銅版画家・南桂子の世界は「ボヌール=幸福」を物語る静かな鏡。

ひらくたび、うっとりうっとり溺れるようにながめてしまう大好きな画集です。
柔らかに繊細な版画世界に耳をすますと、花びらの囁き声まで聴こえてきそう・・・。
ぼんやりとした少女の瞳にはかぎりない物語がやどり、樹は彼女たちの孤独をなぐさめようと枝をさしかわし、鳥はとっておきの秘め事を抱いてゆめをみる。
湖のほとりの塔にとじこめられているのはだあれ――?

時がとまったような完ぺきな静けさ、胸いっぱいに広がる幸福感。
素晴らしく、ぜいたく。
Author: ことり
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