『猫のあしあと』 町田 康

評価:
町田 康
講談社
¥ 1,728
(2007-10-19)

猫にかまけて』につづく、町田康さんの猫エッセイ第2弾。
ヘッケやココアが死んでしまい、あとにのこされた町田夫妻とゲンゾーや奈奈。でもそこにボランティア団体から預かった‘元のら猫’(シャア、ニゴ、トラ、ウメチャン、エル)が加わって、町田家はまたまたたいへんなことになっています。
保護した野生の猫は、もちろん撫でることなどできないし、目が合っただけで隠れてしまう猫が多く、病気をしていてもすぐには知れないし、病院に連れて行くのも怖がって大変である。野生の猫がなぜそんな態度をとるかというと、そこをすぐ誤解する人が多いのだが、性格が悪いからではなく、そうしないと生きてこられなかったからで、自分を助けようとする者すら怖がるのをみるにつけ不憫でならない。
家猫とはちがい、警戒心のつよい野生化した猫たち。この『猫のあしあと』ではそんな彼らをひきとったお話が中心に描かれていきます。

わっぴゃぴゃん。とくしゃみをしたり、「いやんいやん」と首をふったり、ぴょんかぴょんか走り去ったり。町田さん流のかわいらしいオノマトペや猫言葉の解釈に、自然と心がほころびます。けれどやっぱり動物を飼うというのはいい時ばかりじゃなく、愛猫が病気をしたり予期せぬ別れがあったりして・・・本を読み終えるまでの2時間ちょっと、私はくすくす笑ったりぽろぽろ涙をこぼしたり、忙しかったです。
動物を飼うということは、いわば他の命を預かるということで、他から預かったものは大事に扱って、いずれお返ししなければならない。
いまは動物を飼っていない私だけど、もしも今後飼うことがあったなら、こんな飼い主でありたいと思いました。けっして押しつけがましくないひと言ひと言に、気持ちがぴしっと引き締まるのを感じます。
ああ、町田さんの猫エッセイはやはりいいなあ。町田さん、好きだなあ。

最後になりましたが、今回も町田夫妻が撮りためた癒しの猫写真が満載です。
おなじくとても猫思いな奥様のことを、「家人」と記されているのも素敵なの。
Author: ことり
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『供花』 町田 康

評価:
町田 康
新潮社
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(2001-09-01)

あふれかえる言葉のうずに、
目にとび込んでくる魂の断片に、
ふと身をまかせたくなるときがあるのです。

私のような者には正直真意などわかりません。時についていけません。
なのに読んでいるとカイカンで、
上も下もわからないまま、ゆさぶられるのはどうしてかしら。
ぐるぐるまわる、不思議全開、魂の宇宙。
ひとつひとつのセンテンスがエネルギッシュ、無駄に攻撃的。
頭のなかで重低音が鳴りひびく。怒りにみちみちて、パンクしてる・・・。
町田康さん第一詩集。

世界中のあほを集めて
おちょくりあいをさらせ
ろくすっぽ難渋
家の外では怒号のチャネリング
ろくすっぽ難渋
ああ腹減る (『四国西国』より)
Author: ことり
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『浄土』 町田 康

評価:
町田 康
講談社
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(2005-06-06)

『犬死』、『どぶさらえ』、『あぱぱ踊り』、『本音街』、『ギャオスの話』、『一言主の神』、『自分の群像』。もう、タイトルからして可笑しい町田康さんの短編集です。

神秘的な能力をお持ちのジョワンナ先生、一人ぽっちのどぶさらえ、建て前がいっさい存在しない本音街・・・そして謎の巨大生物ギャオス――。7つのお話はどれも世間の不条理にたいする苛立ちにみちていて、そのひとつひとつに彼なりの制裁が加えられていく恰好。だけど‘制裁’なんて言っててもそこは町田さんですから、ちょっぴり(?)支離滅裂で、ちょっぴり(?)おバカな領域なのです。

一ばんおもしろかったのは、なんといっても『ギャオスの話』。
東京都中野区周辺(なんでまた中野?)に突如恐ろしい巨大生物・ギャオスが出現する。人喰いギャオスは都会を暴れまわり、「甲州街道は糞によって途絶、建物は軒並み超音波で切断、或いは素手でどつきまわされて倒壊した。」
そんななか、人間の強欲で自分勝手なぶぶんがあぶり出されていき、ギャオスもまた自意識過剰な一面を見せていく・・・という、ハチャメチャでありながらスゴイ展開。笑えます!

町田さん、いいなあ。
ビバ!カッパ! ビバ!マチダ!!

「ビバ!カッパ!」っていったい何?なんて気になった方は、『どぶさらえ』のなかにその明確なヴィジョンについての素晴らしい記述があるので読んでみて。
Author: ことり
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『東京飄然』 町田 康

評価:
町田 康
中央公論新社
¥ 1,944
(2005-10)

旅に出たくなった。なぜか。理由などない。
風に誘われ花に誘われ、一壺を携えて飄然と歩いてみたくなったのだ。
町田さんがふと思い立ち、ちょらちょらと・・・じゃなかった‘飄然と’東京近郊を旅するエッセイ。しかし彼の飄然旅行はちっとも‘飄然’とはいかず、いつも失敗に終わってしまう・・・。

なにがおもしろいって、やはりそれは町田さんの視点。
「町田康」というフィルターを通して見たら、世間はなんて不条理だらけなんだろう!それはたんなる‘登り坂’でさえせつなくも絶望にみちた笑いに変えてしまう、そんな視点です。
地下鉄では迫害されたヤモリのような目で見られ、8本セットの串カツは自分だけ7本しかもらえず、入ったお店では「いらっしゃい」を言ってもらえない。旅先での出来事という出来事に、イチイチ目くじらを立てイチイチ根にもって(その小ささがなぜかたまらない)、思弁を並べたて、そこにあの独特のリズムと語彙が拍車をかけます。何度も何度も声をたてて笑ってしまったそれは、‘くつくつ笑い’などではなくて、存分の‘アハハ笑い’。「もう、なんでなん〜?この発想〜」(町田さんの本を読むとついつい大阪弁が出てしまう私)
鶴岡八幡宮はよっぽどの瀆神行為がないかぎりバチが当たらないその勝手きわまりない理由、壁ぞいにベンチ状になった隣のお客との境界があいまいな椅子にたいするくだらなすぎる妄想など、笑いのツボをこれでもかと突いてきます。

期待はどこまでも裏切られ、世の不条理をなげき、それでも最後はほんのかすかな期待を抱きしめつつ終わる・・・、笑いあり哀愁ありの町田さんらしいゆかいな旅エッセイ。おすすめです。
Author: ことり
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『夫婦茶碗』 町田 康

評価:
町田 康
新潮社
¥ 420
(2001-04)
金がない、仕事もない、うるおいすらない無為の日々を一発逆転する最後の秘策。それはメルヘン執筆。こんなわたしに人生の茶柱は立つのか?!あまりにも過激な堕落の美学に大反響を呼んだ「夫婦茶碗」。金とドラッグと女に翻弄される元パンクロッカー(愛猫家)の大逃避行「人間の屑」。すべてを失った時にこそ、新世界の福音が鳴り響く!日本文芸最強の堕天使の傑作二編。

私のなかでは表題作の方が好き。
『夫婦茶碗』、これはもうほんとうにおもしろかったです。
横着な主婦どものために茶碗を洗って三千円貰おう、と思い立つような男が主人公。驚くべき高収入!と勝手な妄想でみこんだ「ちゃわおっしゃー(茶碗ウォッシャー)」、けれどもあっけなく失敗。そんな彼は冷蔵庫の「かくも複雑な」鶏卵ならべ(この必死さとくだらなさ加減が最高!)に神経をすり減らし、ふらふらでメルヘン執筆にたどり着きます。「小熊のゾルバ」の物語を考えていく主人公。でもゾルバは妄想のなかで思惑からはずれ、どんどん勝手な方向に進んでいってしまい・・・?

ここにあるのは、でたらめで不甲斐なく、現実から背を向けた男の妄想の国。
社会にとけこめないことに苦しむ彼が、野望を抱いては突きすすみ、失敗しては自問自答し、懲りもしないでまたべつの野望を抱いていきます。
ただそれだけのお話なのに、どこかばかばかしい野望の端々から、空回りしてしまう不毛の人生への嘆きみたいなものがひしひしと伝わってくる・・・おかしくて笑えるけれど、とてもせつないお話でもあるのです。

ああ、彼はいったいどこへ行ってしまうんだろう。
夫婦茶碗に茶柱はきっと立つよね?
・・・かみさまお願い。立ててあげて。
Author: ことり
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『くっすん大黒』 町田 康

三年前、ふと働くのが嫌になって仕事を辞め、毎日酒を飲んでぶらぶらしていたら妻が家を出て行った。誰もいない部屋に転がる不愉快きわまりない金属の大黒、今日こそ捨ててこます――日本にパンクを実在させた町田康が文学の新世紀を切り拓き、作家としても熱狂的な支持を得た鮮烈のデビュー作、待望の文庫化。

今年になって、私のなかでは町田康さんがひそやかなブームなのです。
町田さんの本は、初めて読んだ『告白』でガツーーンとやられて以降、これで3冊めなのだけど、やはりデビュー作からはっちゃけていたのですね!
つらつらとたたみかけるように語られていくパンクな文章がたまらなく私のツボで、今回のこの本も、もうキャッキャ笑いながら読んでしまったのでした。

自立できない大黒を捨てるのに苦労する、自立できない男のお話『くっすん大黒』と、ことの流れで死体運び屋をすることになってしまう元うどん屋アルバイトのお話『河原のアパラ』・・・どちらも現実から逃げ腰のだらしないダメ男のお話で、ストーリー自体はみょうに淡々としているのにそれぞれに出てくる脇役の「おばはん」がすべてをもっていってしまうほどのインパクト!
チャアミィと末田はま子。この強烈なふたりのことは、とうぶん忘れられそうにありません。
Author: ことり
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『猫にかまけて』 町田 康

評価:
町田 康
講談社
¥ 1,680
(2004-11-16)

作家、そしてパンク歌手。
ふたつの顔をもつ町田康さんが猫にかまけきっているエッセイ集。
といっても、この本は猫たちとの生活を単にユーモラスに描いているだけではなくて、楽しさもかなしみも、すべてひっくるめてリアルに描いたエッセイです。
気位が高いココア、強欲なゲンゾー、遊び好きのヘッケ、気性の激しい奈奈。おなじ猫でも、性格はそれぞれ。そんな4頭(「匹」とよぶにははばかられ、「人」とすると馬鹿だと思われるので「頭」に落ちついた、とのこと)との暮らしを、町田夫妻が撮影した写真とともに綴ります。

冒頭はとてもゆかいで、個性あふれるココアとゲンゾーとの暮らしぶりがコミカルに描かれています。「急降下爆撃」「邪魔邪魔邪魔」「通り魔」など凶悪な趣味をもつゲンゾーの、ドアにぶら下がって「サルーン」をするというさらなる暴挙に右往左往してみたり、「まーた。訳の分からぬアホーな原稿などというものを書いている。そのような無意味なことはいい加減やめて、早くわたしを膝に乗せたらどうなの?」なんて高飛車でふてぶてしいココア様に言われてしまったり・・・。
だけど、瀕死の仔猫・ヘッケを拾ったあたりから、町田夫妻は本格的に猫に‘かまけ’始めるのです。病弱なヘッケから目が離せなくなり、必死の看病で、朝も夜も頭はヘッケのことばかり。でも、仕事はしなければならない。仕事に行ってしまった自分が人でなしに思えてくる。ずっと傍にいてやりたかった、もっと遊んでやればよかった、もっともっとやれることがあったのではないか・・・。
「もし死んでも一ヵ月以内に生まれ変わってきなさい。そしたらまた私が拾ってあげる」 そうして夫妻はその後、ヘッケそっくりの仔猫を拾うことになるのです。

町田さんは猫たちとの暮らしのなかで、日々おおくのなにかを得るといいます。
どうでもいいようなことで悲しんだり怒ったりしているとき、彼女らはいつも洗練されたやりかたで、人生にはもっと重要なことがあることを教えてくれた。
猫たちとのやりとりの場面では、人間の滑稽さや無力さを自嘲ぎみに語っていて、猫と人間をおなじ目線(もしかしたら猫の方が上?)でみつめる姿勢がとても好もしい。そして、やがて訪れる悲しみの瞬間――家族同然に暮らした猫たちとの別れ。猫たちがしだいに衰弱していく様子が時間経過とともに描かれ、夫妻のかなしみと猫への愛情の深さが手にとるように伝わってきました。

猫好きはもちろん、そうじゃない人にも強くおすすめしたい本です。
Author: ことり
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『告白』 町田 康

評価:
町田 康
中央公論新社
¥ 1,995
(2005-03-25)

安政四年、河内国で百姓の息子として生まれた城戸熊太郎は頭のよい子供だったが、いつしか「父母はああしてほめそやすが、実は自分はそんなに偉くも賢くもないのではないか」と思うようになる。
熊太郎は思弁的な思考体系をもちながらも実際の言動がともなわず、その不一致に悩み、世間とうまく交われぬまま成長。飲酒、賭博、婦女に身を持ち崩し、完全な無頼者と成り果て、やがては周囲の人間からヤクザ者、ど阿呆として扱われてしまう。――「あかんではないか。」
史実『河内十人斬り』をベースに、熊太郎が殺人者になるまでの道のりを圧倒的な河内弁のうずで描いた魂の記録。

殺人の理由なんて、結局は本人にしか分からない。
そんな大前提のもと、熊太郎の生い立ちから人生を追い思弁を吐露させることで、心情の推移、殺意の蓄積がたんねんにたんねんに、これでもかというくらい描き尽くされていくお話です。
思いと言動の不一致に悩む熊太郎は、自分の理想像をもとめて必死に考え言葉をつむぎ、自分を演じてみるのだけれど、世間とは永遠につながれません。そんな哀れな彼がずる賢い連中にコケにされ、だまされ、利用され・・・そのたびに生まれた思弁がやがて殺意へと集約されていくのです。

「弱きを扶け強きを挫くというが、この人の場合は自分を挫いている、しかもその自分は弱い。でも自分を挫くときの姿勢は無茶苦茶強気や。ということは、いったいこれは弱いのか、強いのかどういうことやね?わけわからんわ」
どうしようもない奴なのに、なぜか憎めない熊太郎。
読んでいる間いくつも笑えるところがあったのに、読み終えたあとは熊太郎が最後に見た「虚無」を体現するような、そんな茫漠とした感覚が私を放心状態にさせました。
・・・いったい私は笑いたいの?泣きたいの?
すごすぎて、凄まじすぎて、整理がつかないのです。戻ってこられないのです。


サイン本です↓ ただし文庫本。 <2008年4月追記>
Author: ことり
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