『ぼくの宝物絵本』 穂村 弘

歌人の穂村さんが、だいすきな絵本について語ったエッセイ。
武井武雄さんの絵本との印象的なエピソードからはじまって、いろんな絵本との出逢い、思ったこと、考えたことが素直な文章で綴られていきます。絵本への‘いとおしい気持ち’がまっすぐに伝わるから、読んでいるととても心地よいのです。
酒井駒子さんの装画と、オールカラーで掲載されている絵本たち。ヴィジュアル的にもとても美しい一冊。

『ねこのセーター』という絵本から、森茉莉さんを連想するなんて、素敵!!!
絵本の世界はただぽっかりとそこにあって、誰もが自由にあそべるように――どんな解釈も、どんな感じ方もきっと許される――大きく間口を開けて待ってくれているのですね。ますます絵本の魅力にとり憑かれちゃいそうなエッセイでした。
いまでは手に入りにくい絶版絵本もたくさんなのですが、『金曜日の砂糖ちゃん』、『おみまい』、「セーラーとペッカ」のシリーズ、『BとIとRとD』など、私にとっての宝物絵本も載っていてうれしかったです。


■ この本に出てきた読んでみたい絵本たち <読了メモは後日追記>
『ありこのおつかい』、『アイスクリーム/かんながかんなをつくったはなし』→読了、『3びきのこぐまさん』→読了、『まるのおうさま』、『ねこのセーター』→読了、『ボタン』、『とらのゆめ』

Author: ことり
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『黒猫ジルバ』 舟崎 克彦、(絵)宇野 亜喜良

生まれてはじめてのひとり旅。夜汽車がとまって、猫町が目をさます――

も〜うホレボレ。黒猫ジルバのたたずまいに首ったけ!
風にあおられた切符を追いかけ、汽車を降りてみると、闇に寝そべる一匹の黒猫。
「ぼっちゃん、こう見えてもあっしは、この町アレバ・ナケレの猫のボスですぜ」
うっかり人前で人間のことばをしゃべってしまったために、町から「ずらからなくちゃならねえ」親分肌のジルバは、仲間の猫たちを守るための戦略に人間の「ぼく」を巻き込んでいくのです。
男の世界に生きている、恰好いい‘ロマン猫’ジルバ。
男一匹、「猫に未来はありゃせんや」
おはなしはもちろんのこと、上目遣いの瞳、「ぼく」の切符をぱしっと押さえる前脚やアヴァンギャルドなしっぽなど、宇野さんの描くジルバが最高に魅力的。

少年と奇妙な黒猫が織りなす、不思議な冒険ファンタジーです。
Author: ことり
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『つみきのいえ』 平田 研也、(絵)加藤 久仁生

評価:
平田 研也
白泉社
¥ 1,512
(2008-10)

水が増え続ける土地でつみきのように家をつみ上げ、つみ上げ、たった一人で暮らすおじいさん。彼にはこの土地を離れられないわけがあるのです・・・。
ある日のこと、落し物をさがすために海にもぐって階下に降りたおじいさんが見たものは・・・。

古びたような、淡くやさしいクリーム色で描かれていくおじいさんの暮らし。
ある日、階下に降りたおじいさんが、ひとつひとつ自分の過去をたどっていく思い出さがしの物語です。

水がせり上がってくる家は、まるで不安定で不透明な浮き世のよう。
水底に積み重なった家々は、おじいさんの生きた証。ささやかでも、かけがえのない思い出と人生がつまった過去の物語に心うたれました。
涙があふれるほどせつなくて、けれど読み終えたときぽっとろうそくをともしたような穏やかなあたたかさにつつまれる絵本。アニメーションのほうもみてみたいです。
Author: ことり
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『私の赤くて柔らかな部分』 平田 俊子

評価:
平田 俊子
角川書店(角川グループパブリッシング)
¥ 1,785
(2009-07-31)

失恋の痛みをかかえ、私はある日突発的に旅に出る。終着駅に辿りついた私は、帰るきっかけを失って・・・。生きることのよるべなさと虚実ないまぜのマジカル世界。言葉の魔術師・平田俊子の新境地!

可愛がってくれた上司の死と、彼氏との別離。その両方を引きずって引きずって・・・吹きっさらしの感情をもてあましながら見知らぬ町に長居することになる主人公。
ところどころ、すごく未練がましくて現実的な描写もあるのに、お子様ランチしかメニューのない食堂だったりいつも学生服を着ている老人だったり・・・夢の世界のようなこの町のひょうひょうとした雰囲気が、読み手に陰鬱な印象を抱かせることなく進んでいきます。
主人公が、死んでしまった影山さんやもらい受けた一匹の金魚としぜんに(時には軽快に)おしゃべりする場面だってそう。もの哀しい痛々しさに可笑しさがにじんで、どうかするとこの町よりも影山さんのほうに現実味を感じてしまいそうになるのです。

沼子(ぬまこ)とか、誘う児と書いて「ゆうじ」とか、上田屋の上田宇枝など、登場人物たちの名前も可笑しい。(あと、ホテルの兄弟の名前がすごいです)
どこか実体のないかげろうみたいな町にまぎれ込んでしまうお話は、なんだか萩原朔太郎さんの『猫町』の世界を思わせる・・・ぼんやりとそんなことを思いました。
そこかしこにぽつりぽつりと置かれた「赤」が印象的な、奇妙にファンタスティックな物語。手にしたときに分かる独特の装丁がとてもすてき。
Author: ことり
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『悪魔のりんご』 舟崎 克彦、(絵)宇野 亜喜良

評価:
舟崎 克彦
小学館
¥ 1,470
(2006-11)

木枯らしのふきさらしている荒野を、ぼろぼろのマントをまきつけてひとりの男が歩いていました。男は悪魔でした。
このところすっかり魔力もうせて、行くあてもない、そんな年老いた悪魔のまえに、お母さんとはぐれてとほうにくれているジプシーの少女があらわれます。
あまりの空腹に、この「うまそうなむすめ」を食べてしまおうとたくらむ悪魔。けれども彼をいいおじさんだと信じこんでいる少女は、悪魔がしかけた毒入りりんごをおじさんのためにとっておこうと考えました・・・。

少女のやさしい心にふれて、悪魔が悪魔でなくなってしまうお話です。
根っからの悪魔だったはずなのに、あろうことか彼は悪事を働くか否かで葛藤をはじめるのです。
少女のぷるぷるした唇や色っぽいまなざし、悪魔のひどいわし鼻やぎょろりとした瞳など、宇野亜喜良さんのイラストが独特の雰囲気をつくり上げていて、どのページもうっとりとため息をつきながらながめました。そうして私は、悪魔がこのあともずっと幸せに暮らしたことを知ったのでした。
(だってほら、ラストまぢかのこのりんごの木・・・!)

――それにしても、「毒」と「りんご」はほんとうによくお似合い。
Author: ことり
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『西洋アンティーク絵葉書―夢みる少女たち』 林 丈二

お祝い、記念日、クリスマス、新年、復活祭など100年前の愛らしいポストカードが甦る。
絵葉書の歴史、印刷技術、古絵葉書屋などをファンタジーポストカードの世界から紹介。可愛くて美しいカード100枚のセレクション。

1980年、パリの蚤の市で出逢った古絵葉書をきっかけに、「可愛くて美しい」アンティークのポストカードを集めはじめたという著者の、コレクション公開本です。
たんなる写真集ではなくて、絵葉書の歴史――その登場から繁栄(絵葉書の黄金時代は1900年〜1918年なのだそう)、ブームの終焉まで――を時代背景や西洋の文化、当時の印刷技術などをまじえ、解説してくれています。蒐集のコツなども書かれてあって、これからじっさいに買い集めたいなあという方にもとても親切な本。

私はといえば、ここに出ている絵葉書たちをうっとりながめるためだけにこの本を手にとりました。少女たち、動物たち、天使たちのこの表情!あどけない可愛らしさ!
記念日やクリスマスや復活祭や・・・めぐる季節、お祝い事のたびに贈られた美しいカードたち。色褪せないのは絵だけじゃなくて、そこにこめられた誰かの願い。
時を経てもこうしてあたたかな気持ちにさせてくれるのは、それらが人を幸せにするためにつくられたものだから、なのでしょうね。
Author: ことり
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『夜中にジャムを煮る』 平松 洋子

大切なことは、いつも台所でかんがえる。
昭和のあのころ、母がつくってくれたご馳走。ごはん炊き修業。だしの頼もしさ。塩かげんの極意。アジアの家庭で出会った味。ひとりぼっちの食卓。春の昼酒。――嬉しいこともせつないこともみんな、食べることと結びついている。ささやかでいとしい幸福の瞬間を鮮やかに描き出す、台所をめぐる十七のエッセイ。

フードジャーナリスト・平松洋子さんのエッセイ。
肩肘はらない‘ふだん着’のお料理、そのちょっとしたこだわりやほんのひと工夫がとても素敵で私もまねしてみたくなります。キッチン道具ひとつとっても、しっかり使いこまれ、ちゃんと仲良しになっている様子が見てとれるのです。
食べること、そのまわりのことにこだわって丁寧に生きていくことから生まれる心地よさ・・・それらがこの本からたくさん伝わってきます。あと、ベーシックな真面目さがある方っていいな、とも思いました。

もうひとつ、密かなたのしみを覚えた。ジャムは夜ふけの静けさのなかで煮る。
世界がすっかり闇に包まれて、しんと音を失った夜。さっと洗ってへたをとったいちごをまるごと小鍋に入れ、砂糖といっしょに火にかける。ただそれだけ。すると、夜のしじまのなかに甘美な香りが混じりはじめる。暗闇と静寂のなかでゆっくりとろけてゆく果実をひとり占めにして、胸いっぱい幸福感が満ちる。ぜんたいがとろんとやわらかくなったら、仕上げにレモンをほんの数滴。火を消して、そのまま。
昨夜のことが、一瞬秘密の夢のように思われるという翌朝のキッチン。
しんと静まった闇夜にコトコト煮つめられていく果肉・・・思いうかべるだけでとろんと艶やかな甘い匂いにうっとりしてしまいます。こんなふうに、鼻先をふんふんしてしまいそうにおいしそうな描写がいっぱいのエッセイです。
Author: ことり
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『葉書でドナルド・エヴァンズに』 平出 隆

架空の国の架空の切手を描きつづけた、夭折の画家ドナルド・エヴァンズへ――。
謎めいた画家の足跡をたどり、彼に宛てて詩人・平出隆さんがしたためた世にもふしぎな紀行録。

ああ・・・なんて密やかで静謐で、親愛にみちた書物でしょうか。
旅行鞄を手に、夜汽車にのって、ともにセピアの時空間をたゆたう読書。投函されることのない葉書――画家の手による架空の切手が貼られている――は日を追うごとにかさなり、画家と詩人の交感が幻影のように立ち上ります。
郵便ポストの空洞が闇ならば、架空の切手は夢の入り口。空想の世界を覗きこむための甘美な小窓。どこまでも詩的でうつくしい情景と、ふいに訪れる親しい人の死に胸がふるえる。余白にさえも画家の生きた時間と詩人の憧れが積もっているようで、頁をめくる手指をとめてはなんども息をつきました。
アクテルデイクの村へ。アムステルダムへ。そして、ドナルドが渡ることのかなわなかったランディ島へ。
ロマンの詰まったちいさな紙片、消印のインクの香り。寄る辺なく、霧のようにひんやりと、いまにも消え去りそうに淡い文章がいとおしい。

いつか、イテケは、声だけになっていた。美しい姿が目の前で、ドナルド・エヴァンズの思い出と本質を語っていたのに、それは声だけだった。ぼくはいま、自分が久しく恐れてきた闇の中に入り込んでいる、と思った。郵便ポストや電話の受話器のかくす空洞の暗がりが、いまここでは、かぎりなく優しいものとしてひろがっていた。(中略)
家の戸口を出るとき、おとぎの国を出るような気持がした。その国は、きみがつくった。
Author: ことり
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『蝶のゆくえ』 橋本 治

評価:
橋本 治
集英社
¥ 1,680
(2004-11-26)

『ふらんだーすの犬』、『ごはん』、『ほおづき』、『浅茅が宿』、『金魚』、『白菜』――、市井の人びとを描く6つのお話が入っています。
とくに衝撃的だったのは、一話めの『ふらんだーすの犬』。私には、あとのお話がかすんでしまうほど心に刻まれたお話です。

虐待される男の子、虐待する若い母親。
それぞれの心をたんたんと、けれど容赦なくえぐりとって描かれる虐待の連鎖。
このどうしようもない母親にも過去があって、そこで受けた大きな傷、ぽっかり空いた心の穴にしのびよる深い闇・・・愛に飢えたむき出しの思いがゴツゴツと当たります。
ただお話が流れていくのを見守るしかできない‘読み手’のもどかしさ。心の襞をなん枚もめくってはそこに塩をすり込まれるような、そんなひりひりと重たい読後感がのしかかってきました。
信じたくはないけれど、いまの社会では現実に起こっていそうで・・・、だからよけいにつらいの。
このお話を読んでから、マンションを見かけるたびにベランダに「あれ」が置いていないかどうかつい確認してしまう・・・これってリッパにこの本の後遺症ですね・・・。
Author: ことり
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『ピアノ・サンド』 平田 俊子

好きな男の全てはいらない。――離婚して二人用の家具が居心地悪くなった頃、ピアノを預かることになった。百年前のフランス製、燭台付き。元クラスメートの槇野と親密になりながらも、執着はしない日々に、ピアノは変化をもたらすのか?
野間文芸新人賞作家がぎこちなく生きる女の愛しさを描いた全二篇。

ストーリーよりも、どちらかといえば‘言葉’に寄ったような、そんな静かな物語。
それもそのはず、作者の平田さんは「詩人」という肩書きをお持ちの方なのでした。
しっとりなだらかに流れていく物語は、ピアノの譜面でいうならpp(ピアニッシモ)やスラー記号が多用されている感じでしょうか。

とても淋しげなお話でしたが(だってこの主人公、一度も名前を呼んでもらえない・・)自宅マンションのエレベーターで5階と6階のボタンを同時に押してしまったときに靄のかかった奇妙な階にたどりつく・・・こんな不思議な場面は好き。
私もいま、マンションの6階に住んでいます。白鍵と白鍵のあいだの黒鍵ワールドに迷いこんでみたい。
Author: ことり
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