『ゆきのひの たんじょうび』 岩崎 ちひろ

雪の日生まれのちいちゃんが、お誕生日にほしかったのは・・・。
しあわせって、ささやかな願いが叶うことなのね――
作者のやさしい声がきこえそう。

赤いぼうしと赤いてぶくろ。
かわいらしい女の子の表紙にひかれて読みました。
あした5歳になるちいちゃんは、一日ちがいのお友だちのお誕生会でまちがってろうそくを吹き消しちゃって、みんなにせめられすねてしまいます。
おたんじょうびなんか きらい
あしたは なんにも いらないの  だあれも きてほしくないの
あんなにお誕生日を楽しみにしてたのに・・・。
でも、この気持ち、わかるな。私もちいちゃんみたいだったな。
ちょっとこそばゆい感じがしました。

ながめていると、時がとまったように心がしずかにほどけてゆくちひろさんの絵。
淡い水彩でたくさんの子どもたちを描かれたちひろさんは、いつもあたたかく冷静に子どもたちをみつめています。はかなげなまっ白い世界のなかにやさしさと孤独とがうかび上がって・・・私は彼女の絵の、その空間ごと好き。
「おかあさん、私がうまれたとき、雪がふってた?」
私も母にそうたずねてみたくなりました。今日は私の誕生日です。
Author: ことり
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『はじめの穴 終わりの口』 井坂 洋子

女性詩人の最高峰が、古今東西有名無名の詩作品を手がかりに、みずからの生い立ちを顧みながら綴る随筆。散文による井坂ワールド。

凛とした言葉がきらめく、詩とそれにまつわるエッセイ。
各章とも、国内外の詩の引用にはじまり、それが日常の光景へとつなぎあわされています。それらの詩は井坂さんの人生にあいまいな影を落としているのでしょう・・・詩と日常がおなじ濃度で溶けている、そんな気がしました。
死の気配を漂わせながら、コトリと腑に落ちる文章。生の表層から底知れぬ穴をのぞき込んでいるような・・・スッと足がすくみ、でもどこかで安心な不思議なここち。
言葉や人生に真摯に向き合っている人の、美しい魂が感じられる本でした。
Author: ことり
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『きことわ』 朝吹 真理子

評価:
朝吹 真理子
新潮社
¥ 1,260
(2011-01-26)

永遠子は夢をみる。貴子は夢をみない。
葉山の高台にある別荘で、幼い日をともに過ごした貴子と永遠子。ある夏、突然断ち切られたふたりの親密な時間が、25年後、別荘の解体を前にして、ふたたび流れはじめる――。第144回芥川賞受賞。

ゆらゆら、ゆうらり。
流れるような美しい文章に身をまかせ、夢うつつをゆらりたゆたう。
まどろみと覚醒をくり返し、くり返し、くり返し。

25年の時を経て、貴子(きこ)と永遠子(とわこ)、ふたりのあいだで凝っていた時間がふたたび流れ出す物語です。
柔らかな肌にのこる甘噛みの痕、ベランダでひるがえる赤い靴下、チェスの棋譜が奏でる音楽、背中あわせにからがり引かれあう後ろ髪――
距離感がこわれ、ひずんでいく光景。うかび上がる雨滴の音と記憶のなごり。
過去と現在、夢幻と現実が、ほの淡い時空間で幾重にも交差します。そんな紗がかかったような美しいゆらめきに、心地よく引きこまれてしまっていました。
かつて体温がとけあうほどそばにいながら、いまでは重ならないふたりの記憶。
熱をもったくちびるも、立ち枯れの向日葵も、なまあたたかな寝息も・・・、すべてがぼんやりと夏色にかすんで、夢のなかにとり残されてしまったような読後感。

「夢も、みている間はほんとうのことでしょう」

そもそも、時間というのは目にみえなくて、感触もなくて、匂いだってない。
だから時間そのものを文章で描写するなんてほんとうはできないはずなのだけど、この小説はもしかしたら無謀にもそれを試みてしまったのかしら・・・、私にはそんなふうに感じられたのです。無謀にも、勇敢に。
「きことわ」というタイトルの、どこかフランス語っぽいひびきもとても好きです。
Author: ことり
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『フェーヴ―お菓子の中の小さな幸福』 磯谷 佳江

フランスには、1月のエピファニーでいただくガレット・デ・ロワという伝統菓子があり、フェーヴとよばれる小さな陶磁器がたったひとつ仕込まれています。
切り分けたガレットにフェーヴが入っていた人は、紙製の王冠をかぶり、その日の王さまになることができます。(なんて可愛らしいしきたり!)
「フェーヴ」はフランス語で「そら豆」という意味で、昔はほんもののそら豆をガレットに入れていたため、それが陶磁器製になってからもフェーヴとよばれているそう。
2僂ら、大きくても5僂らい。自分のガレットからこんなかわいい小さな幸運のアイテムがでてきたら、うれしくて幸せで思わず歓声をあげてしまいますよね。

キリスト生誕のシリーズはもちろん、動物たちやパンやお菓子、本物そっくりのコンフィチュールの壜、食器や家具のミニチュアや、物語の登場人物など――・・・
存在だけは知っていたフェーヴですが、こんなにたくさんの種類があるなんてぜんぜん知らなかった!いまでは「モデルになっていないものを探すほうが難しいほど」なんですって。
これは、そんなさまざまなモチーフのフェーヴ・コレクションをオールカラーで掲載した本。職人のフェーヴ、有名菓子店のオリジナル、19世紀のアンティークまで・・・フェーヴの歴史と変遷をたんねんにひもとき、それに基づいてフェーヴに関わる文化伝統、人びとの想いを紹介しています。さらにフェーヴの探し方から、年代・工房べつの見分け方まで載っていて、もうほんとうにいたれりつくせり。

見ているだけで、にっこり笑顔になれる‘幸福のカタログ’。
ちっちゃくてかわいいものが大好きな方・・・そう、たとえばこみねゆらさんの『仏蘭西おもちゃ箱』などがお好きな方におすすめしたいです。
Author: ことり
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『こちらあみ子』 今村 夏子

評価:
今村 夏子
筑摩書房
¥ 1,470
(2011-01-10)

『こちらあみ子』。なんてなんて、やるせないお話なのでしょう。
危うくてけなげで痛々しくて・・・いまにもぽきりと折れてしまいそう。
奇矯な少女・あみ子の放つ、心がひりつくような圧倒的な気配。彼女の身体だけが感受する物語世界にいつしか引きこまれてしまっていました。

すみれを摘みに行くときの土の匂い、竹馬でやってくるさきちゃん、抜けた前歯の奥の空洞、書道教室の赤いじゅうたん、手づかみで食べるカレー、表面のチョコレートだけがねぶりとられたクッキー、弟のお墓・・・
たんねんに積み重ねられていく描写。そのあらゆるものものが、不穏な、けれど鮮明なイメージとしててんてんと私のなかに残っていくのです。まるで、月の光にてらし出された白い小石の道しるべみたいに。

心の一ばん柔らかいぶぶんをギュウと握りつぶされるような痛み。
誰にも――大好きな家族にすら思いが通じない、わけのわからないもどかしさ。
あみ子の思考回路は切ないくらいまっすぐで穢れがありません。だけど邪気のない優しさはかならずしも幸福にはつながらなくて、まわりの人びとを無自覚に傷つけ、容赦なく壊す。
本をとじたいまでも、うす汚れたトランシーバーを手にぼんやりと立ち尽くすあみ子の姿が、話し声(この方言は広島あたりのものでしょうか)や体臭までも引きつれてありありとうかんできます。
「おーとーせよ。こちらあみ子、こちらあみ子。おーとーせよ」
あみ子と、世間。そのあいだにある大きな隔たりをただあるがまま、そうあるものをそうあるふうに描ききっているところ、それがこの物語の‘しずかな迫力’を生んでいるような気がしました。
張りつめた脆さが痛々しく、でもきゅんと愛おしい、忘れられないお話になりました。

同時収録『ピクニック』。
Author: ことり
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『食魔―岡本かの子食文学傑作選』 岡本 かの子

毎晩どじょう汁をねだりに来る老彫金師とどじょう屋の先代の女将の秘められた情念を描いた「家霊」。北大路魯山人をモデルにしたといわれる、食という魔物に憑かれた男の鬼気迫る物語「食魔」ほか、昭和の初めに一家で渡欧した折の体験談、食の精髄を追求してやまないフランス人の執念に驚嘆した食随筆など、かの子の仏教思想に裏打ちされた「命の意味」を問う、食にまつわる小説、随筆を精選した究極の食文学。

食にまつわる小説5編(『家霊』、『鮨』、『娘』、『食魔』、『女体開顕(抄)』)と、食にまつわるエッセイ22編から成る「食文学傑作選」。

小ぶりの刃のような、ぎらりと不穏な光を放つ文章に心揺らめかせながら読みました。小説はとにかくうすら怖くて、ところどころ、ぐざ、とえぐるような迫力があります。
どじょう汁に異様なまでに執着する徳永老人(『家霊』)や、深夜の座敷で大根料理をむさぼり喰う孤高の料理人・鼈四郎(『食魔』)など、食にとり憑かれた人びとの鬼気迫る凄み、妖しいほどに美しい怖さに圧倒されてしまった私・・・。それはどのお話にも‘食べるという行為は、いのちをいただくこと’だというかの子さんの意識が徹底して流れているせいなのかも。
どじょうを前歯でぽきりぽきりと噛み潰す音、女中のきゅうきゅうと笑う声、鶯徳利を傾けたときのけろけろぽーという音・・・そんな可愛らしい擬音語さえ、どこか不気味にひびいてふしぎな余韻をのこすようでした。

エッセイは、家族で訪れた欧米諸国(当時としてはかなり珍しかったはず)での体験談を中心に綴っています。なかでもかなりフランス礼讃。パリの美しい食文化や、食道楽・フランス人の冒険好きで官能的な性質についてたくさん触れられています。
たしかな目と舌でたっぷり描写される、ひたすらおいしそうな料理の数々。
とくに後半は肩の力をすーっと抜いたような、日本の食文化についての文章も多く、なるほどなるほどとうなずきつつしみじみと楽しめました。
Author: ことり
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『まじょのデイジー』 植田 真

評価:
植田 真
のら書店
¥ 1,470
(2009-03)

大きな森の奥深く、とんがり屋根の塔のまわりで暮らしている見ならいのまじょたち。りっぱなまじょになるための修行をしています。
ひときわ小さなまじょ・デイジーは、空をとぶ練習ちゅうに、ズズーというまっ黒い鳥に出会いました。ズズーはなにやらふきげんそうな様子ですが・・・?

きれいな羽根の鳥たちがうらやましくて、すっかりひん曲がった性格のズズー。
そんなズズーが素直なデイジーと出会ってちょっぴりずつ心をひらいていくおはなしです。
友だちってこんなふうにできるんだな・・・、なんて大人になって忘れかけていたことがふたたびめぐってくる感じがしました。
絵もおはなしもやさしくて、ほろほろの砂糖菓子みたい。
すうーっと気持ちよく心にとけていく、しあわせな甘さ。
Author: ことり
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『サーカスのしろいうま』 石津 ちひろ、(絵)ささめや ゆき

家族のいないミハエルはサーカスに引き取られますが、何も得意なことがなく寂しい日々を送っています。ある日、団長さんが言いました。「白い馬のニジンスキーに芸を仕込めば、一緒にサーカスに出してやろう」。ミハエルは厳しく芸を仕込みますが、馬は姿を消してしまいます。見つけたのはバイオリンが得意なニーナの家の前。中から聞こえてくる音楽に、じっと耳を傾けていたのです・・・。

音楽の好きな白い馬と孤独な少年が、少女のバイオリンで癒されていくおはなし。
ひしゃげた心はなつかしくやさしい音色で、ぺこぺこだったおなかは新鮮なにんじんと焼きたてのしょうがパンで、ふっくりと満たされていきます。
ささめやゆきさんのメルヘンティックな青い絵が、幻想的なサーカスの雰囲気にぴったりとマッチして、読んでいるとこちらまでしあわせな気分に。
音楽と愛にあふれた、異国のちいさな町の物語です。

石津さん・ささめやさんコンビの絵本は、『あしたうちにねこがくるの』もすごく可愛いのでおすすめです。
Author: ことり
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『108ぴきめのひつじ』 いまい あやの

評価:
いまい あやの
文溪堂
¥ 1,575
(2011-01)

メイはねむれませんでした。
ミルクをのんでも、ほんをよんでも、ますますめがさえるばかり。
そこで、ひつじをかぞえることをおもいつきました。ひつじが1ぴき、ひつじが2ひき・・・あっというまに、ひつじは100ぴき!106ぴき、107ひき・・・おや?108ぴきめのひつじはどうしたのでしょう?
すべてのねむれないひとにおくる絵本。

眠れない夜、10ぴき・・20ぴき・・とひつじを数えているメイ。
ひつじたちは、ぴょ〜ん、ぴょ〜ん、ベッドのさくをつぎつぎにとびこえていきます。
でも108ぴきめのひつじは・・・??

たよりなげな柔らかい鉛筆画とやさしいストーリー。
夢があって、あたたかくって、気持ちがほっこりします。
マシュマロみたいにほわほわムニュムニュのひつじたちがごろんごろん出てくるの。たまらなくかわいい!
Author: ことり
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『ジャリおじさん』 おおたけ しんろう

現代美術の旗手、大竹伸朗が不思議な絵本を作りました。鼻の頭にヒゲのある(!)ジャリおじさんの冒険物語。長い道を歩いていくと変なことが起こるのです。ナンセンス絵本の傑作。

ぼんやりと読んでしまったせいか、さいしょは正直よく分からなかったのです。
でもなぜか後引く忘れられなさがあって、だからくり返しくり返し、読んでみました。

「あらあら あなたは ジャリおじさん」
「そういう あなたも ジャリおじさん」
「このみちは どこへ いくのじゃり?」
「このみちを ずうっと いくと、 あおい おおきな かみさまが いるんじゃり。あおい かみさまは ごちそうを たくさん くれるよ」

うわべの文章よりもその向こうにひそませた大きなメッセージを感じとりたい、そんなアート絵本です。ほんの少し心をすませてみるだけで、ちがって見えるふしぎな絵。
ジャリおじさんがすすむ黄色い道は、私たちの人生の旅。
Author: ことり
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