『モダンタイムス』 伊坂 幸太郎

評価:
伊坂 幸太郎
講談社
¥ 1,785
(2008-10-15)
徴兵制が実施されている数十年後の日本。『魔王』の続編にあたる物語です。
『魔王』を読んでいなくても大丈夫そうかな。でも、読んでからのほうがいいですよ、絶対。

主人公は、システムエンジニアで恐妻家の渡辺拓海。
彼は会社の先輩・五反田が途中で投げ出し失踪したあるやっかいな仕事を同僚の大石倉之助とともに引き継ぎます。なにやら謎めいた会社の、URLすら分からない出会い系サイトのシステム修正。単純な作業に見えた仕事でしたが、そこには検索語をチェックするプログラムが埋め込まれていて、特定のキーワードにたどり着いた者は何者かに監視され、ことごとく災難に巻き込まれてしまうのです。
そのことに気づいた渡辺は、友人で小説家の井坂好太郎(!)や妻・佳代子の力を借りて、目に見えない大きな敵に立ち向かいますが・・・?

少しずつうかび上がる、キーワードの意味する謎、見えない敵の正体――情報社会の善と悪が、伊坂さんらしい切り口でユーモアたっぷりに描かれていきます。
それから、このお話を語るのに欠かせないのがチャップリンの映画たち。とくに同名映画『モダン・タイムス』の、オートマチック化された工場で翻弄される人びとに、登場人物たちは自分たちのことを重ね合わせます。
「仕事だから。」「そういうシステムになっているから。」
だけどいくら社会の大きなシステムの一部分として動いているように見えても、人ってほんとうは、もっと小さな目的のために動いている・・・大きなことを成そうとするよりも自分の目の前にある身近なことから少しずつ変えていくことのほうが、ずっとずっと大切なんだね・・・この本を読んでいて、私がつよく感じたこと。
ひとりひとりがもっている小さな物語、ささやかな幸せや思い出たち、それを守り抜くことが、一ばんの「勇気」なのかもしれません。

人生は要約できない。
要約した時に抜け落ちる部分こそが、その人の人生なのだ。
Author: ことり
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『ゴールデンスランバー』 伊坂 幸太郎

評価:
伊坂 幸太郎
新潮社
¥ 1,680
(2007-11-29)

仙台で金田首相の凱旋パレードが行われている、ちょうどその時、青柳雅春は、旧友の森田森吾に、何年かぶりで呼び出されていた。昔話をしたいわけでもないようで、森田の様子はどこかおかしい。訝る青柳に、森田は「おまえは、陥れられている。今も、その最中だ」「金田はパレード中に暗殺される」「逃げろ!オズワルドにされるぞ」と、鬼気迫る調子で訴えた。と、遠くで爆音がし、折しも現れた警官は、青柳に向かって拳銃を構えた――。
精緻極まる伏線、忘れがたい会話、構築度の高い物語世界――、伊坂幸太郎のエッセンスを濃密にちりばめた、現時点での集大成。

J・F・ケネディの暗殺も、国家レベルの陰謀も、私のような一主婦には別世界のできごとで、それだけ聞けばちっともそそられはしないのに、伊坂さんの小説はほんとうにおもしろい。
お話の中心は、首相殺害のぬれ衣をきせられた主人公・青柳雅春の逃走劇です。彼は友人や知人たちとの「信頼」を頼りにしながら、姿の見えない大きな敵から逃げて、逃げて、逃げまどいます。
何年もの時間を行ったり来たりしながら描かれていくなかで、さらりと言い放たれたセリフや重要ではなさそうだった場面などが忘れたころに絶妙のタイミングで生きてきて、くすっと笑えたり、ガツンと思い知らされたり、じんわりと心にしみたり・・・‘小説のおもしろさ’がぎゅっとつめこまれた、ハラハラドキドキだけでは終わらせないそんな仕上がりに「やっぱり伊坂さん、最高!」なんて感心してしまうのです。
青柳雅春をはじめ、樋口晴子、森田森吾、カズ・・。宅配ドライバーの岩崎英二郎も花火師のロッキーも、ひとりひとりがほんとイキイキしていて、読んでいて楽しいことこの上なかった。そしてなんといっても青柳のお父さん、恰好よくて大好き。このお父さんの人生の指針?ポリシー?彼なりにすじが通っている考え方には思わず納得。だって、頭のまえに心が共感していたの。

「人間の最大の武器は、習慣と信頼だ」
お話のなかにたびたびでてきたこんな言葉に、人間のほんとうの武器は銃でも核兵器でも、人を押さえつける権力でもなくて、日常のなかで培われていくものだ・・・そんな伊坂さんのメッセージが伝わってきます。
私たちのまわりに溢れる、あまりにもたくさんの情報たち・・・その情報の氾濫で、何を信用してよいか分からなくなってしまうときも多いけど、まわりに流されず、誰かを信じることができること、これってなにより強い武器。
人を表面だけで見ようとはけっしてしないで、公平でくもりのない‘心の眼’を持っている人・・・私もそんなふうになれたらいいな。


サイン本です↓
Author: ことり
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『アイネクライネ/ライトヘビー』 伊坂 幸太郎

斉藤和義さんのCDシングル『君は僕のなにを好きになったんだろう/ベリーベリーストロング〜アイネクライネ〜』初回限定特典の短編集。
シンガーソングライターと小説家のラブリーなコラボが実現しました。

『アイネクライネ』のお話も『ライトヘビー』のお話も、人が人と出会いこれからステキなことがはじまる、・・・そんなワクワクするような予感にあふれたラブストーリー。
トイストーリーのバズやボクシングの試合、そしてもちろん・・‘斉藤さん’の歌のフレーズがキューピッドの役目を果たします。
伊坂さんのお話らしく、いっぷう変わった、けれどすごーく魅力的な人たちも登場。彼らの気の利いたセリフにのって軽快でハッピィな恋に導かれてくかわいいお話たち。

「その時は何だか分からなくて、ただの風かなあ、と思ってたんだけど、後になって、分かるもの。ああ、思えば、あれがそもそもの出会いだったんだなあ、って。これが出会いだ、ってその瞬間感じるんじゃなくて、後でね、思い出して、分かるもの」

「ああ、思えば、あれがそもそもの出会いだったんだなあ。」
そんな出会いを記憶の奥にひそませて、夫とふたり、穏やかに暮らしている私です。
今夜はふたりの‘出会い’に感謝しながら、斉藤さんの歌を聴こう。
劇的ではなかったけれど、ふたりだけの‘出会い’・・強い強い絆を感じながら。
Author: ことり
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『フィッシュストーリー』 伊坂 幸太郎

評価:
伊坂 幸太郎
新潮社
¥ 1,470
(2007-01-30)

『動物園のエンジン』、『サクリファイス』、『フィッシュストーリー』、『ポテチ』。
どれも適度にシャレていて、どれもちょっぴり可笑しくて、そしてどれも根っこのぶぶんに誰かのせつない思いが横たわっている、そんな4つのお話です。

ひとつ選ぶとしたら、表題作『フィッシュストーリー』でしょうか。
これはそのなかでさらに連作短編になっていて、長い長い年月を漂いながら、‘空白の時間’にこめられた思いが時空を超えて見知らぬ誰かに届いていく・・・そんな不思議さに心がふかふかと気持ちよかったお話。
人っていろんなところで影響を与えあって生きてるんだなぁ。なにかが生まれたその派生で別のなにかが起こる、悪い方向に動くこともあるけど、でもそれがまた良い影響の種になり、ときには奇蹟だって起こしてしまう・・・人生は、思いは、きっとこうやってつながっていくんだなぁ。そんなあったかくて胸がきゅんとなるような気持ち、それは伊坂さんの本を読んでいるといつも感じるのだけれど、このお話ではより際立っている気がした私でした。

そうそう。伊坂さんの本といえば、これまで書かれたお話といつもちょこちょこリンクしていて、新作のたびにそれを探すのもたのしみのひとつ。
そればかりに気をとられて物語を愉しめないのもかなしいから、あまり気にしないようにしよう・・そんなふうに思って読みはじめた私だったけれど、これだけ出てくると気にしたくなくても気になっちゃう。
目立ったところでいうと、『動物園のエンジン』で主人公が電話で話す相手は『オーデュボンの祈り』の伊藤(伊藤さんはどうやらこれから例のコンビニ強盗をやらかす模様)だし、『サクリファイス』では『ラッシュライフ』の泥棒・黒澤が主人公。『ポテチ』でお話の中心にいるのはおなじく『ラッシュライフ』の若い泥棒で、ここにも黒澤は登場します。黒澤がDNA鑑定を依頼するのは『重力ピエロ』の泉水クン??
小さなリンクもいくつか散らばっていたけれど、ここでは内緒にしておきますね。

「キリンに乗って、そっち行くよ」
私が一ばん気に入ったセリフです。
これだけではわからない? 読めばわかってもらえるはず。
Author: ことり
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『陽気なギャングの日常と襲撃』 伊坂 幸太郎

人間嘘発見器成瀬が遭遇した刃物男騒動、演説の達人響野は「幻の女」を探し、正確無比な“体内時計”の持ち主雪子は謎の招待券の真意を追う。そして天才スリの久遠は殴打される中年男に――史上最強の天才強盗(ギャング)4人組が巻き込まれたバラバラな事件。だが、華麗なる銀行襲撃の裏に突如浮上した「社長令嬢誘拐事件」と奇妙な連鎖を始め・・・。
絶品のプロット、会話、伏線が織りなす軽快サスペンス!伊坂ブームの起爆剤にして、映画化で話題の「陽気なギャング」ここに待望の復活!

待ちに待った、大好きなギャングたちの‘その後’です。
今回のお話は第1章が短編じたてになっていて、4人のギャングたちがそれぞれ別べつの‘日常の謎’めいた些細なトラブルに巻きこまれることからはじまります。
4つのトラブルは読み進めるうちに微妙にからみあってきて、これはおもしろくなりそう、とワクワクしてきたところで第2章に突入。
2章めでようやく4人が顔をそろえ、いつものようにワイワイがやがや打ち合わせをして(私はこの4人の会話がほんとうに好き!)銀行を襲撃するのですが、そのあとで面倒なことに気づいてしまい・・・?!

そこから先はもう、おもしろいくらいにひとつ残らず伏線をつぶしていく展開。
第1章のなんの関連もなさそうだった事柄までが引っぱり出され、ストーリーにからめとられていきます。
ありえない、あまりにも都合よすぎ、なんていう声ももしかしたら聞こえてきそうだけど(そして私自身、『地球を回す』のお話のほうが断然好き、なのだけど・・・)、軽妙洒脱、痛快きわまるこの世界に身をゆだね、ギャングたちと一緒になってハラハラするのは単純に楽しかった。
とにかく夢中になりたい、そんな時にはうってつけのエンターテイメントです。
Author: ことり
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『終末のフール』 伊坂 幸太郎

評価:
伊坂 幸太郎
集英社
¥ 1,470
(2006-03)

「明日死ぬとしたら、生き方が変わるんですか?あなたの今の生き方は、どれくらい生きるつもりの生き方なんですか?」

「8年後、小惑星が落ちてきて人類は滅亡する」と発表されてから5年。
恐怖と焦りが人びとを駆りたて、略奪、暴行、殺人、自殺・・・あらゆるパニックで世界は機能不全に陥った。しかしそれから5年、いまはわずかに小康をたもっている。
小惑星衝突まであと3年――描かれるのは、大混乱の世を生きる「ヒルズタウン」の住人たち。暗い未来を背負いつつも前を向いている彼らの姿に、誰もが人生の終わりをふと考え、そしてそこから生きてく勇気をもらうことができそうな連作短編集。

伊坂さんらしさが光るのは、これが世界が終わると分かってから5年後の、世界の騒乱がちょっと落ちついた頃の物語だということ。パニックの最中でも、世界が終わるその瞬間でもない、この微妙な時を生きる‘ふつうの家族’を描くことを選んでいるところ。いくぶん平常心をとり戻した人びとに過去をふり返らせながら、カウントダウンがはじまった未来への静かな絶望や、「もしかしたら小惑星がそれるかもしれない」というかすかな希望を抱かせています。
このお話のなかでの‘生きる’という言葉・・・それは単に‘生活する’のとはちがう、もっと切実な‘生き残る’というニュアンス。終わりが決まってしまった世界のなかで、必死に‘生きる’意味を模索し、なんとかして答えを見つけようとする姿に、私はつよく惹かれました。
「生き残るっていうのはさ、あんな風に理路整然とさ、『選ぶ』とか、『選ばれる条件』とか、そういうんじゃなくて、もっと必死なもののような気がするんだ。じたばたして、足掻いて、もがいて。生き残るのってそういうのだよ、きっとさ」
ラストシーン。出来たばかりの櫓を上へ上へとのぼっていく彼らの姿には、どこかふっきれたようなすがすがしさを感じるのもたしか。だけどそれでいて、まるで私までもが彼らといっしょに空をめざしているような、そんな不思議な錯覚がたまらなく胸を熱くするのです。
「じたばたして、足掻いて、もがいて」生きること・・・それはぜんぜん恰好悪いことじゃないから。いまはその日その日を大切に生きよう。たとえ世界が終わると分かっても「じたばたして、足掻いて、もがいて」生き残っていこう、そう思いました。

・・・そしてやっぱり、最期のときは愛する人のそばがいい。
絶望に窒息しそうになりながら、それでも。
Author: ことり
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『砂漠』 伊坂 幸太郎

評価:
伊坂 幸太郎
実業之日本社
¥ 1,600
(2005-12-10)

ものごとに熱くなることの少ない鳥瞰型(周囲をどこか上から眺めているようなタイプ)の北村。やませみみたいな頭をしたノリのいい鳥井。陽だまりのような雰囲気と不思議な力をあわせ持つ南。ものすごい美人だけれどクールな東堂。そしてひときわ異彩を放つ、‘臆さない’西嶋――。
社会という砂漠に巣立つ前のオアシスで、恋にとまどい、合コンに燃え、バイトに励み、「中国語と確率の勉強」に集い、犬を救い、超能力に遭遇し、不穏な犯罪者に翻弄されて・・・、まばたきするまに過ぎゆく季節を手さぐりで生きる若者群像。

ああ、いいなあ、青春って。仲間って!
「その気になればね、砂漠に雪を降らすことだって、余裕でできるんですよ」
「目の前の危機を救えばいいじゃないですか。今、目の前で泣いてる人を救えない人間がね、明日、世界を救えるわけがないんですよ」
読み始めたとたん、西嶋を中心とした彼らの言動から一瞬たりとも目が離せなくなり、お話のなかに入り込んではいっしょになって一喜一憂していた私でした。かつて私の仲間にも西嶋のような彼がいた・・・「なんてことは、まるでない」のにどこか懐かしい空間がそこには広がっているのです。
キラキラまぶしい青春のひととき。
仲間たちとの、忘れられない思い出と記憶。
きっと誰もがそれぞれの青春時代を思い返しては、せつなさと爽やかさがないまぜになったような、なんともいえないこの余韻を味わえるのではないかしら。
ラストでのちょっとした仕掛けだったり、『チルドレン』の‘彼’がちらっと登場したり・・。こっそりイタズラを仕込んでおいてくれる伊坂さんらしさもうれしい、とっておきの青春ストーリーです。
Author: ことり
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『透明ポーラーベア』〔短篇〕 伊坂 幸太郎

評価:
伊坂 幸太郎,石田 衣良,市川 拓司,中田 永一,中村 航,本多 孝好
祥伝社
¥ 1,728
(2005-07)

ポーラーベア(北極グマ)が大好きだった恋多き姉と、その彼女の想いが猛スピードで一局へと集約されてゆく奇跡を描いた不思議な物語。
恋人と訪れていた動物園で、優樹は姉の最後の恋人・富樫さんと、偶然5年ぶりの再会を果たす。恋愛がひとつ終わりを迎えるたびにふらっと一人旅に出かけてしまう姉。彼女は最後の旅に出た後、ついに戻らなかった・・・。
アンソロジー『I LOVE YOU』のなかの一編。

すべては繋がっているかもしれない。
私たちの周りには知らず知らず見守ってくれている誰かがいるのかもしれなくて、そしてその誰かを、そのずっと外側で知らず知らずみつめている存在だってあるのかもしれない。そんな彼らが一堂に会することが起こったっておかしくはないのかも・・・?いくつもいくつも偶然の要素が組みあわさって生まれた奇跡。それが爽やかに描かれたお話です。
うん。これくらいの偶然は、奇跡は、あたりまえに転がっているかもしれない。

ささやかな勇気を手に、ぐっと顔を上げたくなる。
そこにはきっと底ぬけに澄んだ青い空があるはず――。

ほら、やっぱり繋がってる。
Author: ことり
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『魔王』 伊坂 幸太郎

評価:
伊坂 幸太郎
講談社
¥ 1,337
(2005-10-20)

いまからそう遠くない未来の日本では、犬養(いぬかい)という政治家が党首を務める「未来党」が政権をにぎろうとしていた。
断定的で理解しやすい犬養の演説にすっかり魅了されてしまう若者たち。
考えることが大好きな安藤は、その風潮と犬養のカリスマ性に一人危機感をおぼえる。ある日安藤は、地下鉄の中で自分のもつ不思議な能力に気がついて・・・。
安藤を主人公に描かれた『魔王』と、その後日談として安藤の弟(潤也)の恋人・詩織の視点で描かれた『呼吸』の2つの物語。

このお話、これまでの伊坂さんの本とずいぶん雰囲気が違う――そう感じたのは私だけではないはず。社会への風刺と私たちへのメッセージが、これでもかという威力でもってせまってくるのを感じます。
「考えろ考えろ、マクガイバー」 安藤の口ぐせに伊坂さんが託したかったもの・・・それはきっと私たちへの警告、なのでしょう。
他人の答えを欲しがって。他人の言葉にすぐしたがって。みんなとおなじ方向を向いていたくて。みんなと一緒ならそれだけで安心で、はぐれるのがこわくて。
・・・そんな、まわりに流されがちな私たちへの。

一歩踏みとどまって、考えなきゃ。私は、私ひとりで、答えを出さなきゃ。
流されてちゃ、いけない。いけない。「考えろ、考えろ」!!!
「でたらめでもいいから、自分の考えを信じて、対決していけば世界は変わる」(安藤)
「馬鹿でかい規模の洪水が起きた時、俺はそれでも、水に流されないで、立ち尽くす一本の木になりたいんだよ」(潤也)
自分の考えをもて。それを信じて立ち向かえ。
伊坂さんからのメッセージに、ほんの少し背すじの伸びる思い。
ちょっとずつでも、ひとつずつでも、流される前に考える習慣をつけていこう。そんなふうに心から思えた物語でした。
Author: ことり
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『死神の精度』 伊坂 幸太郎

評価:
伊坂 幸太郎
文藝春秋
¥ 1,500
(2005-06-28)

このお話、なんとクールな死神(!)が主人公。受けこたえが微妙にズレていて、不死身のからだをもち、雨に祟られ、ミュージックをこよなく愛す。
淡々と人の死を決める仕事――といっても彼は調査部の死神なので、調査開始から7日の内に「可」か「見送り」かを情報部に伝えるだけ。後は放っておいてもそのとおり決行される――をこなしていくうえで、彼が出逢った人びとの哀歓を、死神ならではの目線から描いた連作短編集。

‘人の死’が中心にあるものだから、必然的に暗いイメージは免れそうにない物語。けれど読みごこちがとてもいいのは、死神のちょっととぼけたキャラクターと気の利いた会話で軽やかに仕上げてくれている、その落差みたいなもののせいかしら・・・伊坂さんらしいスマートさ、スタイリッシュさがとにかく恰好いいのです。
‘人間’や‘死’を枠の外からながめている死神の言葉には、時おりハッとさせられるものもあって、居心地が悪かったり目のさめる思いだったり・・・そんな側面にも魅力を感じながら愉しめた一冊。
『死神の精度』、『死神と藤田』、『吹雪に死神』、『恋愛で死神』、『旅路を死神』(ちょっぴり『重力ピエロ』とリンク)、『死神対老女』の6つの物語が収められています。
とくにラストのお話がすばらしくて、「ほお。」なんて死神の口ぐせが口をついて出ちゃいそう。

雨に祟られてしまう死神のこと。
なまり色の低い空、雨の気配――うっとうしい空もようとの相性も抜群です。
梅雨が明けてしまわないうちに、ぜひどうぞ。
Author: ことり
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