年間ベスト〔2013〕

2013年、147冊の本(一般書籍110冊+絵本・詩集37冊)を読みました。
心にのこった10冊です。
■ 作家名50音順 ■ 絵本、詩集、再読本はふくみません。

うたかたの日々』 ヴィアン
ちょうちんそで』 江國 香織
『名もなき人たちのテーブル』 マイケル・オンダーチェ
『樽』 F・W・クロフツ
ことばの食卓』 武田 百合子
フランス組曲』 イレーヌ・ネミロフスキー
『おはなしして子ちゃん』 藤野 可織
『青い鳥』 モーリス・メーテルリンク
『なにごともなく、晴天。』 吉田 篤弘
無声映画のシーン』 フリオ・リャマサーレス


娘がうまれて、あたらしい生活のなかで出逢えた本たち。幸福な日々。
たくさんの物語とたくさんの笑顔にかこまれて、これからも暮せますように。
Author: ことり
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ブログお休み中の読了本〔2013〕

■ 『冬虫夏草』 梨木 香歩 (12/29)
■ 『花びら姫とねこ魔女』 朽木 祥 (12/26)
■ 『猫を拾いに』 川上 弘美 (12/26)
■ 『12月24日―クリスマス・イブの日に』 黒井 健 (12/24)
■ 『クリスマスの思い出』〔再読〕 トルーマン・カポーティ、(訳)村上 春樹 (12/13)
■ 『おやゆびひめ』 ハンス・クリスチャン・アンデルセン、(絵)リスベート・ツヴェルガー、(訳)江國 香織 (12/08)
■ 『落下する夕方』〔再読〕 江國 香織 (12/08)
■ 『さよならは小さい声で』 松浦 弥太郎 (11/28)
■ 『お菓子の家』 カーリン・イェルハルドセン、(訳)木村 由利子 (11/26)
■ 『イタリアの詩人たち』 須賀 敦子 (11/25)
■ 『祈りの幕が下りる時』 東野 圭吾 (11/23)
■ 『ココちゃんとダンボールちゃん』 清川 あさみ (11/23)
■ 『こどもほじょりん製作所』 安井 寿磨子 (11/20)
■ 『ほろびぬ姫』 井上 荒野 (11/18)
■ 『ゆきがふる』 蜂飼 耳、(絵)牧野 千穂 (11/17)
■ 『赤糸で縫いとじられた物語』〔再読〕 寺山 修司 (11/16)
■ 『甘い恋のジャム』 水森 亜土 (11/10)
■ 『とるにたらないものもの』〔再読〕 江國 香織 (11/10)
■ 『おわりの雪』 ユベール・マンガレリ、(訳)田久保 麻理 (11/08)
■ 『よあけ』 ユリー・シュルヴィッツ、(訳)瀬田 貞二 (11/08)
■ 『Les Roses―バラ図譜』 ピエール=ジョゼフ・ルドゥーテ (11/07)
■ 『幼少時代』 谷崎 潤一郎 (11/07)
■ 『しろうさぎとりんごの木』 石井 睦美、(絵)酒井 駒子 (11/05)
■ 『すきまのおともだちたち』〔再読〕 江國 香織 (11/02)
■ 『紙のむすめ』 ナタリー・ベルハッセン、(絵)ナオミ・シャピラ、(訳)もたい なつう (11/01)
■ 『都の子』〔再読〕 江國 香織 (11/01)
■ 『幽霊の2/3』 ヘレン・マクロイ、(訳)駒月 雅子(10/29)
■ 『うかんむりのこども』 吉田 篤弘 (10/26)
■ 『名もなき人たちのテーブル』 マイケル・オンダーチェ、(訳)田栗 美奈子 (10/25)
■ 『樽』 F・W・クロフツ、(訳)加賀山 卓朗 (10/22)
■ 『おはなしして子ちゃん』 藤野 可織 (10/17)
■ 『都会のアリス』 石井 睦美 (10/15)
■ 『青い鳥』 モーリス・メーテルリンク、(訳)江國 香織 (10/13)
■ 『真昼なのに昏い部屋』〔再読〕 江國 香織 (10/12)
■ 『夢のなかの夢』 タブッキ、(訳)和田 忠彦 (10/09)
■ 『ガリヴァーの帽子』 吉田 篤弘 (10/07)
■ 『スバらしきバス』 平田 俊子 (10/06)
■ 『死神の浮力』 伊坂 幸太郎 (10/05)
■ 『十月はハロウィーンの月』 ジョン・アップダイク、(絵)ナンシー・エクホーム・バーカート、(訳)長田 弘 (10/01)
■ 『晴れたり曇ったり』 川上 弘美 (09/29)
■ 『私のいた場所』 リュドミラ・ペトルシェフスカヤ、(訳)沼野 恭子 (09/28)
■ 『手のひらの砂漠』 唯川 恵 (09/27)
■ 『ちょうちょ』 江國 香織、(絵)松田 奈那子 (09/20)
■ 『やわらかなレタス』〔再読〕 江國 香織 (09/19)
■ 『オズの魔法使い』〔再読〕 ライマン・フランク・ボウム、(訳)江國 香織 (09/17)
■ 『ボートの三人男』 ジェローム・K・ジェローム、(訳)丸谷 才一 (09/15)
■ 『愛の夢とか』 川上 未映子 (09/12)
■ 『継母礼讃』 マリオ・バルガス=リョサ、(訳)西村 英一郎 (09/10)
■ 『海底バール』 ステファノ・ベンニ、(訳)石田 聖子 (09/09)
■ 『つむじ風食堂と僕』 吉田 篤弘 (09/07)
■ 『痴人の愛』 谷崎 潤一郎 (09/06)
■ 『キャノン姉妹の一年』 ドロシー・ギルマン、(訳)柳沢 由実子 (09/02)
■ 『メルヘンビルダー』 ハンス・フィッシャー、(訳)佐々 梨代子、野村 泫 (08/31)
■ 『すぐそこのたからもの』 よしもと ばなな (08/23)
■ 『夕闇の川のざくろ』〔再読〕 江國 香織 (08/22)
■ 『魔女の宅急便』 角野 栄子 (08/21)
■ 『たんぽぽ娘』 ロバート・F・ヤング、(訳)伊藤 典夫 (08/18)
■ 『貴婦人と一角獣』 トレイシー・シュヴァリエ、(訳)木下 哲夫 (08/12)
■ 『山本容子のアルファベットソングス ラブレター』 山本 容子 (08/08)
■ 『流しのしたの骨』〔再読〕 江國 香織 (08/05)
■ 『店員』 バーナード・マラマッド、(訳)加島 祥造 (07/30)
■ 『わたしのフレンチ・スタンダード A to Z』 山本 ゆりこ (07/25)
■ 『空席日誌』 蜂飼 耳 (07/25)
■ 『金曜日の砂糖ちゃん』〔再読〕 酒井 駒子 (07/24)
■ 『ウエハースの椅子』〔再読〕 江國 香織 (07/24)
■ 『マドゥモァゼル・ルウルウ』〔再読〕 ジィップ、(訳)森 茉莉 (07/23)
■ 『ちょうちんそで』〔再読〕 江國 香織 (07/22)
■ 『庭にたねをまこう!』 ジョーン・G・ロビンソン、(訳)こみや ゆう (07/21)
■ 『すいかの匂い』〔再読〕 江國 香織 (07/21)
■ 『いつも彼らはどこかに』 小川 洋子 (07/20)
■ 『カフェオレボウル』 山本 ゆりこ (07/05)
■ 『白い人びと―ほか短篇とエッセー』 フランシス・バーネット、(訳)中村 妙子 (07/05)
■ 『マッチ箱のカーニャ』 北見 葉胡 (06/30)
■ 『忘れられたワルツ』 絲山 秋子 (06/29)
■ 『ガソリン生活』 伊坂 幸太郎 (06/23)
■ 『トリエステの坂道』〔再読〕 須賀 敦子 (06/21)
■ 『家と庭と犬とねこ』 石井 桃子 (06/16)
■ 『三つの金の鍵―魔法のプラハ』〔再読〕 ピーター・シス、(訳)柴田 元幸 (06/12)
■ 『カールシュタイン城夜話』 フランティシェク・クプカ、(訳)山口 巖 (06/11)
■ 『それを愛とまちがえるから』 井上 荒野 (06/08)
■ 『ホリー・ガーデン』〔再読〕 江國 香織 (06/01)
■ 『ハリスおばさんパリへ行く』 ポール・ギャリコ、(訳)亀山 龍樹 (05/26)
■ 『女ともだち』 角田 光代、井上 荒野、栗田 有起、唯野 未歩子、川上 弘美 (05/23)
■ 『ユニコーン』 マルティーヌ・ブール、(訳)松島 京子 (05/21)
■ 『四人の女』 パット・マガー、(訳)吉野 美恵子 (05/20)
■ 『鳥と雲と薬草袋』 梨木 香歩 (05/18)
■ 『夢幻花』 東野 圭吾 (05/15)
■ 『マールとおばあちゃん』 ティヌ・モルティール、(絵)カーティエ・ヴェルメール、(訳)江國 香織 (05/14)
■ 『さようなら、猫』 井上 荒野 (05/11)
■ 『エロイーズ』〔再読〕 ケイ・トンプソン、(絵)ヒラリー・ナイト、(訳)井上 荒野 (05/08)
■ 『マリッジ・プロット』 ジェフリー・ユージェニデス、(訳)佐々田 雅子 (05/07)
■ 『おおきなひとみ』 谷川 俊太郎、(絵)宇野 亜喜良 (05/05)
■ 『人生はこよなく美しく』 石井 好子 (04/30)
■ 『誕生日』 カルロス・フエンテス、(訳)八重樫 克彦、八重樫 由貴子 (04/29)
■ 『さいごの恋』 クリスチャン・ガイイ、(訳)野崎 歓 (04/25)
■ 『さとうねずみのケーキ』 ジーン・ジオン、(絵)マーガレット・ブロイ・グレアム、(訳)わたなべ しげお (04/24)
■ 『噂の女』 奥田 英朗 (04/21)
■ 『皇帝のかぎ煙草入れ』 ジョン・ディクスン・カー、(訳)駒月 雅子 (04/15)
■ 『なにごともなく、晴天。』 吉田 篤弘 (04/11)
■ 『オズの魔法使い』〔再読〕 ライマン・フランク・ボーム、(訳)柴田 元幸 (04/07)
■ 『禁断の魔術』 東野 圭吾 (04/02)
Author: ことり
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『山本容子のアーティスト図鑑 100と19のポートレイト』 山本 容子

色気のある男とダンディな女。
世界と日本のアーティスト119人を描いた銅版画と、彼らと“対話”することで浮かんできた言葉のエッセンス。
10年以上かけて制作された、「本の話」表紙画シリーズのオールカラー完全版。

ひっそりとした架空の小部屋でひとりひとりと向かいあい、その‘心の声’を聞きとり描いたかのようなおしゃれなアーティスト図鑑。
マルグリット・デュラスから、泉鏡花、円地文子、サガン、岸田劉生、トーベ・ヤンソン、コルトレーン、シャガール、ピアソラ、ホックニーまで・・・119もの表情ゆたかな肖像画(EX・LIBRIS)には、それぞれに味わい深い文章も添えられています。アーティストたちの遺してくれた文学なり絵画なり音楽なりが、その息吹といっしょにふわっと香ってくるような、柔らかな色と気配にみちています。
彼らひとりひとりが隠しもっていたプライヴェートななにか――それはもしかしたら本人ですら気づいていないかもしれない――を思いがけずすくいとられて、みんなちょっぴり照れくさそう。
各文章のおしまいの言葉とはじまりの言葉とが、しりとりのようになっているのも素敵です。時も場所も、思想さえもこえて、アーティスト同士がなかよく手をつないでいるみたいです。
Author: ことり
国内や・ら・わ行(山本 容子) | permalink | - | -
 
 

『はだかんぼうたち』 江國 香織

評価:
江國 香織
角川書店(角川グループパブリッシング)
¥ 1,575
(2013-03-27)

9歳年下の鯖崎と付き合う桃。母の和枝を急に亡くした桃の親友の響子。桃がいながらも響子に接近していく鯖崎・・・。
“誰かを求める”思いに、あまりに素直な男女たち=“はだかんぼうたち”のたどり着く地とは――。

淡々とながれる帯のような人生が、幾重にも幾重にも、登場人物の数だけ折りかさなっていく物語です。
分かり合えっこないと知りつつ相手をもとめ、寄りそったかと思えばとり残される・・・心になにもまとわないまま野ざらしにされ、戸惑いながらもどこか毅然と毎日を生きる老若男女たち。
生活にうずもれた生々しい小さな棘に、こちらの胸がちくちくざわめいてしまいます。

ぶつかり合うそれぞれの言い分、なんの解決もみない結末。
結局のところ世界は、どこを切りとってどんなふうにながめるかが肝心なのだ、そうつくづく思わされた物語でした。
Author: ことり
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『芸術家が愛したスイーツ』 山本 ゆりこ

評価:
山本 ゆりこ
ブロンズ新社
¥ 1,728
(2012-11)

芸術家とスイーツの甘い関係を説いた、フォトエッセイ。
誰もが知っている有名な芸術家たちを、「スイーツ」という切り口から、作品とは別の角度から探ります。芸術家たちが過ごした場所や、ゆかりのある景色など、撮りおろし写真も多数掲載。日本の食材に合うようにアレンジされたレシピも、ぜひ試してみたいもの。

ピカソが愛した「オリーヴオイルの揚げ菓子」、プルーストが愛した「いちごとフロマージュ・ア・ラ・クレーム」、ジョルジュ・サンドが愛した「ポム・オ・フール」、ロートレックが愛した「ヴァニラ風味のスフレ」、デュマが愛した「サヴォワ風ビスキュイ」、コクトーが愛した「スミレのアイスクリーム」・・・

おもにフランス、19世紀生まれの芸術家たちがずらり18人。
その人生をひもときながら、彼らに愛されたスイーツが紹介されていく・・・芸術家たちの心を甘くとろかせたにちがいない「スイーツ」からのこんなアプローチがとても新鮮で、目にも愉しくおいしそうな一冊でした。
美しい詩や物語、絵画をのこしてくれた芸術家たち。それぞれに波乱にみち、愛憎うずまく人生のなかで、どんな思いいれがあってそのスイーツを愛したのでしょう?
たっぷりのバターにお砂糖、くたくたに煮えた果肉の濃密な匂い・・・それらとともに芸術家たちの知られざる一面が頁のむこうから立ちのぼって、彼らのことがほんの少しだけ身近に感じられた気がしました。
Author: ことり
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『桜の首飾り』 千早 茜

評価:
千早 茜
実業之日本社
¥ 1,365
(2013-02-07)

桜の花びらで作った首飾りは、すぐにしおれてしまう。
でも、桜と人の間には、さまざまな物語がひそんでいる。
泉鏡花文学賞受賞作家による、女と男たちの幻想、羨望、嫉妬、自己回復、そして成長のストーリー七編。
Author: ことり
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『チャリング・クロス街84番地―書物を愛する人のための本』 ヘレーン・ハンフ、(訳)江藤 淳

ニューヨークに住む本好きの女性が、ロンドンのチャリング・クロス街84番地にある古書店マークス社にあてた一通の手紙。そこから二十年にわたる心暖まる交流がはじまった。
“本好き”の書物を読む楽しみ、待望の書物を手にする喜び、書物への限りない愛情は、「手紙」の世界をこえて、読む者を魅惑の物語のなかに誘いこむ。

(原題『84,Charing Cross Road』)
Author: ことり
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『ちいさな あなたへ』 アリスン・マギー、(絵)ピーター・レイノルズ、(訳)なかがわ ちひろ

このたび娘を出産した私に、母が贈ってくれた絵本です。

澄みきった瞳で私をみつめてくる娘。
もみじのようにちいさな手で私にしがみついてくる娘。
まだほんとうに小さくて、私がまもってあげないとなにもできない。
でもそんな娘にも、私から離れて大きな世界にとびこんでいくときがやってくる・・・

あのひ、わたしは あなたの ちいさな ゆびを かぞえ、
その いっぽん いっぽんに キスを した。

娘へのかぎりない愛おしさがこみあげて、同時に私のことをいつもすっぽりくるんでくれている母のあたたかな愛にも改めて気づかされて、涙がとまりませんでした。
これからたくさんの未来を生きる娘の人生で、いまみたいに母娘ぴったりと過ごせる時間はきっとそんなにながくない。大変なことも多いけど、この幸福な時間を大切にかみしめながら過ごさなきゃ、そう思いました。

そしていつか、大きくなった娘にこの絵本を贈りたい。
「お母さんと、お母さんのお母さんからの贈り物だよ」って。
想いはつながっていくんだね・・・、そうやさしくほほえみながら。

(原題『Someday』)
Author: ことり
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『とうもろこしの乙女、あるいは七つの悪夢』 ジョイス・キャロル・オーツ、(訳)栩木 玲子

美しい金髪の下級生を誘拐する、有名私立中学校の女子三人組(「とうもろこしの乙女」)、屈強で悪魔的な性格の兄にいたぶられる、善良な芸術家肌の弟(「化石の兄弟」)、好色でハンサムな兄に悩まされる、奥手で繊細な弟(「タマゴテングタケ」)、退役傷病軍人の若者に思いを寄せる、裕福な未亡人(「ヘルピング・ハンズ」)、悪夢のような現実に落ちこんでいく、腕利きの美容整形外科医(「頭の穴」)。
1995年から2010年にかけて発表された多くの短篇から、著者自らが選んだ悪夢的作品の傑作集。

読むほどに、気持ちの悪さがその濃さを増してゆく短篇集でした。
お話にはびこった理解しがたい悪意の底をおそるおそる覗き込むとき、「闇を覗くものはまた、闇からも覗かれている」という有名な哲学者の言葉を思い出して背すじがゾワリとした私です。
ぬぐってもぬぐっても、どろりと粘りのある厭な感触がのこる悪夢の世界たち。
読み手を弄び愉しんでさえいるような、そんな不気味な描かれ方に心が均衡をうしなってしまいそう・・・。

(原題『THE CORN MAIDEN AND OTHER NIGHTMARES』)
Author: ことり
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『ことばの食卓』 武田 百合子

食べものの色、味、匂い。それにまつわる情景や感じた思いのひとつひとつ――。
食べものの思い出を素直に豊かに描きだしたエッセイ集です。
枇杷の実のみずみずしさが口いっぱいにひろがるように、読み手の日常や思い出にするんと入ってきてくれる文章のここちよさ。百合子さんという人は、悲しいこともひどいことも、なんでもないふうにサラリと書いてしまうから、そのせつなさにいつしか泣きたいような心地になっているのです。

ひょっとしたらあのとき、枇杷を食べていたのだけれど、あの人の指と手も食べてしまったのかな。(『枇杷』)

かざらない気もち。とるにたりない瞬間。だからこそ忘れたくなくて、大切にしたくて。
‘あのとき’の空気をぴかぴかのままとじ込めた、ここにしかない言葉と余韻・・・
私の心は本のなかにすっかり置き去りです。

生温かいお酒の蒸気をふりまいて、売子がやってくる。黒革ジャンパーの兄(あん)ちゃん風のとうさんが「おう」と、めざましい声をあげて呼びとめ、ホットを二つ買い、友達の赤ジャンパーのとうさんに一つ奢った。おでんとうどんとソーセージの匂いに、ウイスキーの匂いが混じる。うしろの席で袋をまわし食べしているポプコーンの匂いも加わる。
サーカスには匂いがあるんだねえ」 テレビや映画では散々見ていたが、ナマのサーカスを見物するのは、よく考えてみると生れてはじめてなのだ、と娘が言う。(『後楽園元旦』)
Author: ことり
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