この本を読んでいる時、あなたはひとりじゃない。
100人を超える登場人物の日常が、自由自在に時空を往還する――
降り積もっては消えゆく、あなたの、そして誰かのお話。
何も変っていないはずなのに、何一つ以前とおなじではない。知らず知らずまぎれ込む白昼夢。すべては、まぼろし――?
幾筋とない線を引いて両側から入り乱れつつ点滅していた、幽鬼めいた蛍の火は、今も夢の中にまで尾を曳いているようで、目をつぶってもありありと見える。阪神間のなつかしい風景が脳裡に立ち上り、たおやかな上方言葉にやはり祖母を思い出す・・・ここ数年のうちに妹が結婚し、祖母を亡くし、娘が小学生になった私はいつしか夕暮れのかえり道のような心地になっていました。はらはらと雪片をふらせる桜花の雲、夢幻のような蛍狩りの闇夜。つづいていくいまこの時と幸福な記憶・・・読み込むごとに少しずつその色をかえる、心愉しくやがてせつない物語。