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『魔利のひとりごと』 森 茉莉、(絵)佐野 洋子

評価:
森 茉莉,佐野 洋子
筑摩書房
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(1997-11)

「よじれた襞をつくって流れ落ちる湯は、柔しく、軽い、千も万もの接吻」
鋭い感性で紡ぎ出される豊潤な世界。
佐野洋子のカラー挿画で彩る美しいエッセイ。

ほれぼれするほど美しく瀟洒な文章。茉莉さんの文章はそれ自体ちょっと独特なのですが、でも読んでいるとどんどんクセになってしまう私です。
どの表現からも感じられるのは、徹底した西欧趣味と‘美’に対する強いこだわり。
ゆるぎない確固とした自分をもち、一方で夢みる可憐な少女のように、一方で口うるさいお姑さんのように語る彼女の文章には、花の蜜や石鹸(サヴォン)の深くものうい香いがたちこめています。

細かい氷砂糖のような「数種の花(ケルク・フルウル)」のバス・ザルツ、
白い鳩の胸を刺す時に迸る血のような「ピジョン・ブラン」という名の紅玉(ルビイ)、
紅茶茶碗から唇を離した瞬間にふと気づく「時刻」の寂しげな翼の音・・・

もういまは手元にないもの。あんなに素敵だったのに、あんなにたいせつだったのににどと手にできない宝物について、愛おしそうに語る独自の「美の世界」。この上なく甘やかで、とびきり幸福な夢の部屋。
言いたいことがたくさんで、つい話がわき道にそれてしまったり(どちらが本題か分からないほどのそれようです)、父・鷗外へのダメ出し(娘の手にかかると文豪も形無しで微笑ましいくらい)など、ほんと可笑しくてくすくす笑ってしまう場面もいくつもあったけれど、それでもどこか、彼女の気の強さに相反する儚さがほんのりと切なくただよう。
キューピーのようにほのぼのと愛らしく、キョトンと淫らな佐野洋子さんのイラストがすこぶるよいです。
Author: ことり
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