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『すきまのおともだちたち』 江國 香織

まぶしい夏の旅先で迷子になり、すとんとすきまにすべり落ちてしまった新聞記者の「私」と、そこで出会ったなんでも一人でてきぱきこなす小さな女の子や年老いたお皿たちとのいっぷう変わった友情を描いた物語。

「はじめから、ひとりぼっちだったの。(中略)でもね、だからといって、いつまでも悲嘆に暮れているわけにはいかないでしょう? そんなのはあたしらしくないふるまいだもの」
すきまの世界は凛とゆるぎない、確固たる世界。
かわいい家できちんと暮しているおしゃまな女の子は、かつてはお邸にいたお皿に「過去の思い出」があることをうらやましく思っています。女の子のことばにいちいちはっとして、こちらの常識がぐらついてしまうのがうふふと楽しい。

レモンの木の庭、緑色の自動車、石畳の小道。
「また迷子なの?」といつだってあきれたように、もてなしてくれる女の子。
これはたしかにメルヘンだけど、でもそこには望んで会えるわけじゃないからこそのきらめきと切なさがふくまれていました。
列車にのって海を見に。波に足を洗わせて、お家に帰ったらウエハースとミルクで夜ごはん。野球場ではお手製のレモネードを売って、夢のようなサーカスをみて。すてきな時間を共有することで生まれた「私」と女の子の友情のかたちに、胸がなんどもきゅんと満たされます。
こんなすきまがあったなら、私もすべり落ちてみたいな。すきまのみんなは私が行ってもなかよくしてくれるかな?今頃なにしてるのかな?・・・そうやって思いを馳せてしまうほど、大好きなお話になりました。
こみねゆらさんのほんわりやわらかな絵も大好き。
女の子もお皿も、寒村の兄弟もぶたの紳士も、みーんな大好き。
『すきまのおともだち』じゃなくて「おともだちたち」なところも、たまらなく好きです。

「私たちをほんとうにしばるのは、苦痛や災難や戸棚ではないのよ。幸福な思い出なの。」
「過去の思い出って淋しいのね。それに悲しい。じれったくもあるし、絶望的でもある」
Author: ことり
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