<< 『ウエハースの椅子』〔再読〕 江國 香織*prev
『きんいろのとき―ゆたかな秋のものがたり』 アルビン・トレッセルト、(絵)ロジャー・デュボアザン、(訳)えくに かおり >>*next
 

『細雪』(上・中・下)〔再読〕 谷崎 潤一郎

評価:
谷崎 潤一郎
新潮社
¥ 594
(1955-11-01)

大阪船場に古いのれんを誇る薪岡家の四人姉妹、鶴子、幸子、雪子、妙子が織りなす人間模様のなかに、昭和十年代の関西の上流社会の生活のありさまを四季折々に描き込んだ絢爛たる小説絵巻。

とろりとした上等なお酒を思わせる、なんとも美しく流麗な文章。
耳に心地よいやわらかな上方言葉はところどころ祖母の言葉づかいにも似て、読むたびに私のことを故郷のなつかしい場所へとつれ帰らせてくれます。

関西の上流家庭。おっとりと睦まじく、のびやかな四姉妹の物語です。
シッカリ者のようでぼんやり屋の長女・鶴子に、ぱっと明るくて花やかな二女・幸子。いかにもお嬢様ふうの内気な三女・雪子に、おませで自由奔放な四女(こいさん)・妙子。それから、無邪気に見えて時おり大人びたそぶりをみせる娘の悦子や、愛嬌たっぷりの女中のお春、かいがいしく世話をやく美容院の井谷・・・それぞれに女めいた魅力を放つ登場人物たち。
そんな彼女たちの心の動きを家族間のとるにたらない会話にからめて、谷崎さんは可笑しく、哀しく、きめこまやかに描いてみせてくれています。
世間体やお互いの立場を考えるあまり、姉妹たちは感情がすれ違ってしまうことも。けれど家を守るため体裁を重んじる鶴子の気持ちも、良縁がないまま三十を過ぎてしまう少女のような雪子の気持ちも、奔放ゆえに生きにくそうにしている妙子の気持ちも・・・そして妹たちの将来に心をくだき、本家の姉と妹たちのあいだで板ばさみになってしまう幸子の気持ちも、そのつどストン、とほんとうのことのように心に落ちて、私はいちいち切なくなってしまうのでした。

四季折々の風景や当時の風俗をまじえつつ、日々のこまごまとした小さな騒動から、水害や流産や大病や・・・たいへんな出来事もつぎつぎ起こる物語。それでもどこかのほほんとしたのどかさがただようのは「ええとこのお嬢さん」がかもす育ちのよさのせいかしら。
日ましに戦争の色が濃くなっていく、そんな世間の喧噪をよそに、姉妹たちはピアノを弾いたり、料亭でごちそうを食べたり、お芝居やお花見や蛍狩りを愉しみながら、優雅に暮らします。生まれ育った土地や家を愛し、なんだかんだ言ってお互いを思いやることを忘れない姉妹たち。それは見ていてとてもほほえましかったのです。

遠くきらびやかな夢のなかにいるような、そんな幸せな気持ちがみちてきて嬉しい。
この小説にでてくる女性たちは上品で、とても女らしくて私の憧れ。心がカサカサに渇いて潤いがなくなったと感じた時に読み返してみると、私の心の「女」のぶぶんが少しだけ目覚めてくれるようです。
Author: ことり
国内た行(谷崎 潤一郎) | permalink | - | -
 
 

スポンサーサイト

Author: スポンサードリンク
- | permalink | - | -