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『圏外へ』 吉田 篤弘

評価:
吉田 篤弘
小学館
¥ 2,052
(2009-09-16)

物語を書くことを生業としているカタリテは、新しい小説――デンシン・バッシラの街灯に照らされた路地の奥、チュウブル写真機店のアキとキミの物語――を書き始めるが、早々と行き詰まってしまう。
やがて小説内の登場人物たちは痺れをきらし、自在に動きだして・・・。

物語を書きあぐねているうち、カタリテは自らが語り始めた物語と現実のあいだをズルズルと行ったり来たりし始めます。
南新宿の雲呑ソバ屋でツブラダ君と小説論をとなえていたかと思えば、<南の鞄>から生まれた予言者・ソボフルの壮絶な半生が突如長々と語られはじめたり(このソボフルの物語が、南米文学を思わせるほど幻想的で魔術的・・・)、散歩とちゅう小倉君からGFを買い求めていたかと思えば、キミは「蝙蝠」に変身して路地の亀裂を俯瞰する。娘の音(オン)ちゃんのするどい指摘にたじろいでいたかと思えば、こんどは妻に導かれ<エッジ>という名の作中人物や作家たちが集う奇妙な療養所にたどり着く、といった具合。
カタリテのもとを離れた物語はいくつもの物語と交錯し、めまぐるしく旋廻して、私はたちまち「物語」の端の、そのまた向こうまでつれ去られてしまいました。
本を読んでいてそのままうとうとしてしまい、夢のなかで物語が勝手気ままに進んでいる、そんな経験・・・はっと顔を上げてまた物語にもどったときのあのへんな感覚。ぐるぐるフワフワしたあの感覚が幾度もくり返されるような、そしてそれがとても心地よくもあった不思議な本。
重なり、つながり、いろんなものを巻き上げながらデタラメに巡る物語ですが、読み進んでいくうちに美しく響きあい、あるひとつの場所へと向かって行きます。ツマリ、すべてはカタリテの思惑しだい。

・・・スティッフ、スティッフ、スティッフ、スティッフ・・・
漆黒の闇につつまれ、物語が終わっても、耳をすませばどこからともなくひそやかに聴こえてくる足音。それはこの物語につづく、新しい物語の足音?
「さて――・・・」
Author: ことり
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