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『眠れる美女』 川端 康成

波の音高い海辺の宿は、すでに男ではなくなった老人たちのための逸楽の館であった。深紅のビロードのカーテンをめぐらせた一室に、前後不覚に眠らされた裸形の若い女――その傍らで一夜を過す老人の眼は、みずみずしい娘の肉体を透して、訪れつつある死の相を凝視している。熟れすぎた果実の腐臭に似た芳香を放つデカダンス文学の名作『眠れる美女』のほか『片腕』『散りぬるを』。

昏睡した少女の裸体にまとわりつく、年老いた男の淫らな視線。
少女のなまあたたかな呼気と匂いに、よび覚まされる遠い過去の情事――
甘く昏いゆらめきのなかで、指先や舌先で触れた皮膚がぬめらかに匂いたちます。読んでいて引いてしまうほどにいやらしい世界。それなのに、思わずくらくらと陶酔してしまったのは、あまりにも美しく幻想的な文章のせいなのでしょうか。
かりそめの夜、濡れたような赤い脣、びろうどのかあてんに映るほの明り。潮の香り、謎めいた眠り薬、ひと糸纏わぬ少女たちがこんこんと眠る館・・・描写のひとつひとつ、その隅々にまで、なんともいえない日本文学の湿度を感じました。
どこまでも、どこまでも、じっとりと疲弊した深い眠りに落ちてゆくみたい・・・。

そして、表題作もそうとう印象的ですが、やはり『片腕』。この短編は『川端康成集―片腕』でも読みましたが、なんど読んでも痺れてしまいます。
きめ細やかに描きだされる女性の身体、うす闇の靄の向こうにかいま見える老いと死が、むせ返るほどの官能をよび込む一冊。
エロティシズム・・・けっしてあからさまではない、おさえ込んだ性描写にこそそれはひそんでいるのかもしれません。
Author: ことり
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