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『小さき者へ 生れ出ずる悩み』 有島 武郎

「小さき者よ。不幸なそして同時に幸福なお前たちの父と母との祝福を胸にしめて人の世の旅に登れ」――妻の死から一年半足らず、有島武郎が一気に書き上げた短篇。一方、芸術か生活か青年の懊悩を描いた中篇は、北海道の自然の絵画的描写と海洋小説の趣でも知られる。傑作二篇。

130ページにもみたない、うすい本です。
けれどもそこには‘人生’が凝縮されていて、心がなんども立ち止まりました。

妻を喪った「私」が、のこされた3人の息子たちに切々と胸中を吐きだしてゆく『小さき者へ』。自身の才能への疑念と生みの苦しみに悩まされる画家(実在のモデルがいるのだそうです)を描いた『生まれ出ずる悩み』。
せつないほどの美しさで切りとられる北海道の自然描写、荒れくるう北の海でたたかう男たちのたくましい姿をまじえながら、最愛の母を亡くしてしまった息子たちに、厳しい境遇のなかで画家を志している年若い友人に、これからの人生をけっして恐れることなく、夢をあきらめることなく進んでいってほしい・・・そんな願いが慈愛にみちたまなざしでつむぎ出されています。
有島さんみずからを語り手に投影し、迷い多く、小心で魯鈍で憐れむべき男だと自称しています。ときに自分が文学者であることを疑ってしまうことすらあるという彼は「文学者が文学者である事を疑うほど、世に空虚な頼りないものがまたとあろうか。」とも述べています。
そんな作者がとても自然な流れで、どちらのお話も相手にたいする励ましのことばで締めくくっているのが好もしく感じられました。
Author: ことり
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