<< 『第七官界彷徨』 尾崎 翠*prev
『噂』 荻原 浩 >>*next
 

『雨、あめ』〔再読〕 ピーター・スピアー

なんにせよ、‘一ばん’を決めるのはとてもむずかしく、勇気のいること。でも思いきって言ってしまいます。
『雨、あめ』は、私が一ばん好きな絵本です。
小さい頃にながめていた絵本ではありませんが(さいしょに出逢ったのは大学時代)、この絵本をながめていると小さい頃の自分――それも本能的なぶぶんがよび覚まされます。とても幸福な、思い入れたっぷりの絵本。

うんと、ずっと昔。私は雨が大好きな女の子でした。
歩けるようになるとすぐに小さなながぐつと雨がっぱを買ってもらい、雨がふるたびに父や母の手を引っぱってお外へいこうとせがんだといいます。小学校へ行くとちゅうも、うれしくてうれしくて、妹とはしゃいだり、わざわざ水たまりにジャブジャブ入っていったり・・・自分でも、よく憶えてる。
それなのに、楽しみにしていた行事が延期になったり、もうすこし大きくなると、セットした髪が膨張したり、制服がぐっしょり濡れてスカートのひだがくずれてしまうこと、電車のなかにたちこめる湿気などを嫌がって、私はどんどん雨を疎んじるようになってしまいました。
この絵本の頁をひらくと、雨がたまらなく好きだった幼い私が帰ってくる気がする・・・くもの巣をきらめかせる雨粒や、道路わきをいきおいよく流れる水、つんつんした松の葉先にくっついたしずくたちをはじき飛ばしてみたあの時。懐かしい光景。晴れの日にはないあのとくべつな匂いを小さなからだでめいっぱい感じていた私にもどれる気がするの。

そして、この絵本が雨のなかだけで終わらないのも大好きな理由のひとつ。
おもてでたっぷり雨を堪能した子供たちは、家に帰り、濡れた服を脱いで、もうもうとした湯気のなかあたたかいお風呂に入ります。そしてさっぱりと乾いた服を着て、窓から雨をながめ、家族で夕食を食べ、テレビをみるのです。そんなこまやかな空間差――時間のうつろいや温度のちがい――がすごくステキ。

さいごになりましたが、この絵本に文字はありません。でもいく枚もの絵、いくつものカットが、とても雄弁に、とても豊かに、雨と子供たちの一日を伝えてくれます。
しめった空気も、ザーザーという無数の雨の音も、子供たちの笑い声も。
バスタブにからだを沈める安心感も、おいしそうなごちそうの匂いも、ひそやかな飼い猫のため息さえも。
やさしげな水彩、躍動感のあるタッチ。いったいなんどひらいたかしら・・・。
私はほんとうに、この絵本が好きです。

(原題『RAIN』)
Author: ことり
海外サ行(スピア) | permalink | - | -
 
 

スポンサーサイト

Author: スポンサードリンク
- | permalink | - | -