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『ゆめこ縮緬』 皆川 博子

蛇屋に里子に出された少女の幼い頃の記憶は、すべて幻だったのか、物語と夢の記憶のはざまにたゆたう表題作「ゆめこ縮緬」。挿絵画家と軍人の若い妻の戯れを濃密なイメージで描き出す「青火童女」。惚れた男を慕って女の黒髪がまとわりつく、生者と死者の怪しの恋を綴る「文月の使者」他、大正から昭和初期を舞台に、官能と禁忌の中に咲く、美しくて怖い物語八編。

『文月の使者』、『影つづれ』、『桔梗闇』、『花溶け』、『玉虫抄』、『胡蝶塚』、『青火童女』、『ゆめこ縮緬』――眺めるだけで、ずぐずぐと溶け落ちてゆきそうなタイトルたちがならんでいます。
よどんだ空気に煙る中洲、うす昏く不潔な病院、まとわりつく濡れた長い髪、熟れた桃の毳(けば)、薬品漬けの蛇、むせ返るような白粉の匂い・・・お話に登場するあらゆるものがひやりとした湿気をふくみ、まるで悪い夢を見ているみたい。
不気味に紗がかかった物語のぬかるみに足をとられて、心がなんどもうずくまってしまいました。

「桃の根方に埋めるの。指は腐って溶けて、根から木の幹に吸われるラ?」
樹液に、溶けた肉や血がまじる。玉虫は樹液を吸って生きる。
あなたの指を吸って、玉虫は育つ。
そういう意味のことを、舌足らずに、ミツは語った。(『玉虫抄』)

冒頭の『文月の使者』はもう文句なしに揺さぶられた一編なのですが、『玉虫抄』、『青火童女』、『ゆめこ縮緬』など、幼い少女――みな一様に影があり、どこか蠱惑的な美しさをまとっている――が登場するお話もとても印象的でした。
まだ性の入り口すら知らない少女・・・でもその頃からもうすでに心の奥底に眠っていた性の根源ともいえるものがあるとすれば、皆川さんの短編はそれらを少しずつ表に出して、そして読んでいる私たちを戸惑わせるのでしょうか。
幻想と怪奇、はかなさとエロティシズムが合わさったところから生まれる‘美’に、くらくらと酔いしれた短編集です。
Author: ことり
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