<< 『アナイス・ニンの少女時代』 矢川 澄子*prev
『流しのしたの骨』〔再読〕 江國 香織 >>*next
 

『ガラスの鐘の下で―アナイス・ニン作品集』 アナイス・ニン、(編訳)中田 耕治

十七歳の時、そのドレスがずたずたにちぎれるまで踊り続けた。できることなら、そのドレスを着て、道の反対側に出たかった。でも、だめ。わたしはこちら側にいて、ドレスはあちら側にあるのだから。もう、二度と着られない。わたしは空中に舞いあがろうとして、床に落ちた。片足のかかとがなくなっていたから。恋人と丘をのぼりながら、夢中になってキスを交わした雨の夜になくなったかかと。(『がらくたの時』)

ずいぶんと長いこと本棚であたためていた本です。
だって、持っているだけで満ちたりてしまうんだもの・・・。
優美な装丁、贅沢な空白、気品ただよう紫色の文字・・・眩暈のするほど美しい本。

この本は第一部と第二部に分かれていて、第一部にはアナイスさんの短編小説13編(7人の訳者による)が、第二部には彼女に魅入られた日本の文筆家たち12人が「アナイスについて」語る解説エッセイが収められています。
私がとくに印象的だった短編は、凄絶な死産の一部始終が描かれた『生まれる』や、『アナイス・ニンの少女時代』(矢川澄子)でかいま見た少女時代の日記とほんのりかさなる『迷宮』、冒頭の『ハウスボート』とひそやかにリンクする『すべてを見通すもの』、童話のように幻想的な『がらくたの時』・・・。
そうして絹のようになめらかな言葉に心をそわせ第二部へと読みすすむと、読み終えたばかりの詩的な短編小説たちがより一層ふるえ出して、なんともいえない愛おしさがこみ上げてきました。こんなふうに素敵で不思議な読書体験ははじめて・・・。
アナイスさんの書かれた小説に登場する「わたし」はいつも彼女の影であり、虚構と事実の縫い目が見えない生々しい幻想世界が広がっています。第二部では、『生まれる』は彼女のほぼ実体験だったことも明かされていて愕然としてしまいました。その奥には父親に捨てられた過去や、父への憧憬・のちの失望など、複雑な感情が大きくうず巻いていたことにも。

男性たちを惑わせ、自由な恋に生き、情熱に身をゆだねた美しい女性。そしてその死後、時を経てなお人びとの心を惹きつけてやまない魅惑の女性。
小鳥たち』、『アナイス・ニンの少女時代』、そして『ガラスの鐘の下で』。この3冊を読むことで、私はアナイスさんの人生――すべてとはとうてい言えないにしても――を読んだような気がしています。ほのかに香りながら、ひりつくように胸にしみてくる彼女自身の「物語」。
その痛くせつない孤独を思うと、アナイス・ニンという人は、いっけん自由奔放に生きたように見えるけれど、じつは誰よりも大きな拘束に縛られて生きていたのかもしれない・・・そんなことを思うのです。
Author: ことり
海外ナ行(ニン) | permalink | - | -
 
 

スポンサーサイト

Author: スポンサードリンク
- | permalink | - | -