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『f植物園の巣穴』 梨木 香歩

評価:
梨木 香歩
朝日新聞出版
¥ 1,470
(2009-05-07)

いったいどこまでが現実、どこからが夢・・・。
歯痛に悩む植物園の園丁が、月下香の匂いに導かれ、坂道を下りるとそこは・・・?
景色がくるくる切り替わり、人がふと雌鳥頭に見えたり、犬に見えたり。会話はどこかかみ合わず、わき上がる記憶もおぼろ。
夢うつつの境界を行きつ戻りつふわふわと彷徨い歩く異界譚です。

季節はずれの白木蓮、椋のうろ、失くしたウェリントン・ブーツ、3人の千代・・・目の前の現実とぼんやりとした過去のイメージが交差して、ますます混乱する主人公。繁茂する緑とりまく「隠(こも)り江」の水辺で、ナマズ神主やカエル小僧とのふれあいを通して、彼の記憶は少しずつ覚醒していきます。
まざりあう意識と夢幻――・・・
普通なら次次と過ぎ去って戻ることのない時間が、まるでここには吹き溜まっているようであった。私はそれの「理由」を考えた。省みるに私の場合、それを、古い時間の細胞を、始末する手段が通常の人人のそれと違っていたのだろう。いや、その手段の持ち合わせがなかったのだ。その技を知らずにいたため、古い時間は徒らにどんどん降り積もる。始末する必要などない、過去の思いなど、風でも吹いてそこらに撒き散らすものと思っていたところを、あにはからんや風は吹かない。
梨木さんのつむぎ出す美しい日本語に酔いしれながら、神秘にみちた巣穴の底を彷徨うことは、私にとっても、とても不思議でとても愉快なひとときでした。
本から顔をあげた時、ここがどこだか分からなくなる・・・足もとから世界がゆらぐ。

ラスト間近。「風」が吹き、うす靄がさあっと晴れるそんな瞬間があります。
いろいろなものたちがひとつの糸でつながって、そっと差し出されるその真実の哀しくもやさしいこと。・・・それはまるで、幼い主人公がうろにかくした「宝物」のように。
Author: ことり
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