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『川端康成集―片腕』 川端 康成

日本初のノーベル文学賞に輝いた川端康成は、生涯にわたり幽暗妖美な心霊の世界に魅入られた作家であった。一高在学中の処女作「ちよ」から晩年の傑作「片腕」まで、川端美学の背後には、常に怪しの気配がある。心霊学に傾倒した若き日の抒情的佳品や、凄絶な幻視に満ちた掌篇群、戦後の妖気漂う名品まで、川端文学の源泉となった底深い霊異の世界を史上初めて総展望する、至高の恋愛怪談集成。

ひやりと背すじを這うつめたさ。それでいて芳醇な花の蜜にくらりと酔わされてしまいそうな、そんな幽暗妖美な29編。
どのお話も、人の情念や思惑を美しい言葉の渦に溶けこませ、不思議な艶かしさであちらとこちらの世界を結んでいます。

七年前に死んだ男が主人公の『地獄』、山峡の村が舞台の少女小説『薔薇の幽霊』など、心惹かれるお話はたくさんありましたが、でもやっぱり『片腕』は別格かしら。ある雨の夜、娘が自分の片腕を肩からはずし・・・、ひと晩貸してくれる物語です。
娘の腕とひと晩を過ごす男。大きい花をいっぱいに咲かせたガラスびんの泰山木。
白い花よりもこぼれたしべをながめていると、「テエブルの上においた娘の腕が指を尺取虫のように伸び縮みさせて動いて来て、しべを拾い集めた。」
まぶたの裏にふうわりと妖しい情景がうかび上がります。娘の腕をやわらかくなで、そっと手を握りあってみじかい会話を交わし、娘のきれいにみがかれた爪に見入る時のあまやかな官能――。
脆く小さい貝殻や薄く小さい花びらよりも、この爪の方が透き通るように見える。そしてなによりも、悲劇の露と思える。娘は日ごと夜ごと、女の悲劇の美をみがくことに丹精をこめて来た。それが私の孤独にしみる。私の孤独が娘の爪にしたたって、悲劇の露とするのかもしれない。
このうっとりとした美しさ。・・・もうため息しか、出てこない。
Author: ことり
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