<< 『パリのおばあさんの物語』 スージー・モルゲンステルヌ、(絵)セルジュ・ブロック、(訳)岸 惠子*prev
『空想の繪本』 安野 光雅 >>*next
 

『舞い落ちる村』 谷崎 由依

評価:
谷崎 由依
文藝春秋
¥ 1,400
(2009-02)

ユートピアのような村と大学街を往還する「わたし」の奇妙な生活誌。
村と街の間の計りきれない距離と時間を繊細極まる文で綴る。
第104回文學界新人賞受賞作品。

近親婚によって支配された閉鎖的な村。
慣習も道徳観も、時間さえもねじれたそんな村で生まれ育ち、大学進学で街に出たいち子は、そこで初めて「村」と「村の外」の差異を目の当たりにします。
言葉など信じない村と、言葉を重んじる街。いち子を、そして読み手をも惑わせていく相対するふたつの世界・・・。

村の内外の物語に、ひとの心の内外が、そして、物語の内外が秘められている・・・ひもといていくにつれこぼれ出す、そんな拡がっていく感が好き。
美しい文章で奏でられた、いち子がふたたび村へ還るときのぐらぐら旋回するような覚束ない感覚も。
ささやかな耳鳴りの、白くかそけきその音は、繊細なレース編みのようだった。(中略)耳を澄ますと、レース編みはひとつの言葉になった。
――ごめんね。
ごめんね、と言って言葉は跳ねた。ウサギのように跳躍しながら木々の向こうに消えていった。ごめんね、ごめんね、一緒に行かない、ごめんね――レースの耳鳴りはつぎつぎほどけて言葉になった。言葉は私の耳から零れ、やはり白ウサギになり出て行った。

それにしても、この妖しげな雰囲気をただよわせた不思議な「村」の魅惑的なこと。耽美的箱庭世界のとりこになりました。
Author: ことり
国内た行(その他) | permalink | - | -
 
 

スポンサーサイト

Author: スポンサードリンク
- | permalink | - | -