<< 『魚神』 千早 茜*prev
『もりでうまれたおんなのこ』 礒 みゆき、(絵)宇野 亞喜良 >>*next
 

『転身』 蜂飼 耳

評価:
蜂飼 耳
集英社
---
(2008-04-02)

マリモにみちびかれて訪れた北の島。シマフクロウに抱かれ、アザラシと交わる日々。人は誰にでもなれる。物語の、こちら側で。
描かれたことのない物語の景色をつむぎだす、いまもっとも注目を集める詩人の長篇小説。

誰にも追いかけられない煙りみたい・・・どこまでもあやふやで、つめたい霧だか靄だかを食べているような不思議な読みごこちがしました。
倉庫でバイトをしていた主人公の琉々(るる)が、北の島でマリモ卸しの仕事を手伝うことになり、そこからどんどん流されていく物語。どこに行き着くのかわからないまま琉々の意識の流れにのみこまれ、流れ、流れて。
性交や妊娠の場面でさえも、肉感をともなわないサラリとした描写。人間の出産と、マリモが水槽でひそやかに分裂をくり返すのとがほとんど違わないトーンで書かれ、そのことも物語の不思議さをかもし出しているのかも。

琉々は、自分がどこにもいないように感じた。いないと感じる自分はいるのだから、いないわけではなかった。いるけれど、いない。いないけれど、いるのだった。

蜂飼さんのつむぎ出す、淡く静謐な言葉の不思議。
煙りみたいなイメージの物語なのに、たしかにあるもの。たしかに感じたこと。流されるままにただよっているようで、どこかしたたかな生き方。
「どこにもいないけれど、いる」 そんな表現がぴったりな一冊だと思いました。
蝉が抜け出たあとも――たとえその蝉が死んでも――、完ぺきなかたちで、確固たる存在感でのこる蝉の抜け殻のように。
Author: ことり
国内は行(蜂飼 耳) | permalink | - | -
 
 

スポンサーサイト

Author: スポンサードリンク
- | permalink | - | -