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『文盲―アゴタ・クリストフ自伝』 アゴタ・クリストフ、(訳)堀 茂樹

とにかく衝撃的だった『悪童日記』。あんなすさまじい物語を書ける人はいったいどんな人生を歩んできたんだろう・・・そんな思いでひもといてみた自伝。
『文盲』というタイトルでありながら、「わたしは読む。病気のようなものだ。」という文章から始まるこの本。もちろんそこには相応の、そしてすっかり平和ぼけしてしまった私の心を震撼させる‘理由’がありました。

1935年、ハンガリーのまずしい寒村に生まれた著者は、少女時代を両親、兄、弟とともに過ごし、21歳のときにハンガリー動乱から逃れるために乳飲み子をかかえてスイスのヌーシャテル(フランス語圏)に亡命します。
言語はひとつしかないと思っていた幼い頃――祖国を喪(うしな)い、言葉の通じない生活をしいられる様子。文章を読むこと、書くことが人生そのものであるような彼女にとって、それはどれほど苛酷だったことか・・・。
まったく理解できない言葉にかこまれた日々の、その深く哀しい孤独が彼女独特の文章で綴られてゆきます。

この本を読んで『悪童日記』は彼女自身の壮絶な体験が反映されていることが分かりますが、それ自体「母語ではない言語」(しかも敵国語)で書かれていたと知った時うかび上がってくるのは、言語そのものを超越した強靭な意思の力・・・。抑圧された思いが「挑戦」という現実の刃となって、重く痛烈に突き刺さるのを感じたのです。

もし自分の国を離れなかったら、わたしの人生はどんな人生になっていただろうか。もっと辛い、もっと貧しい人生になっていただろうと思う。けれども、こんなに孤独ではなく、こんなに心引き裂かれることもなかっただろう。幸せでさえあったかもしれない。
確かだと思うこと、それは、どこにいようと、どんな言語であろうと、わたしはものを書いただろうということだ。

(原題『L'Analphabète』)
Author: ことり
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