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『ヒナギクのお茶の場合』 多和田 葉子

『犬婿入り』以来、ずいぶん久しぶりに手にした多和田葉子さんの本。
やはりこの人の書かれる世界は独特だと思いました。白昼夢・・・ううん、誰かの夢のなかを泳いでいる、そんなあやうい感覚。いつ終わるともしれなくて、想像もつかない場所につれ去られる、誰か知らない人の。
『枕木』、『雲を拾う女』、『ヒナギクのお茶の場合』、4つの掌編から成る『目星の花ちろめいて』、『所有者のパスワード』。思考が物語に追いつかないお話たちに、戸惑いながら、怖気づきながら、それでも不思議と惹かれる世界・・・。

とりわけ引き込まれた『雲を拾う女』のお話は、ある日ドイツのとある町で、道に落ちていたパリパリに乾ききって灰色によごれたフランスパンのかけらを拾う女を目撃するところから始まります。
パンのかけらを鰐皮のバッグにつるっとしのび込ませる女。その後をつけてみると、(わたし)は公衆便所の洗面所のまえでとつぜん目まいがし、哺乳ビンの乳首に変身してしまう。
そのあまりに容赦のない突然すぎるできごとに、一瞬思考が固まるのですが、そここそがブラックホールの入り口。日常と日常のあいだに突如ぽっかりと出現する異界への入り口は、私のことをするりとすいこんで、知らんぷり。そしていつのまにか、暗く奇妙な渦のなかをあてどなくたゆたっている私・・・。
<心臓の音も、うるさくなっていくと、なんだか、他人事みたい、なんだか、どうでもいい、もう、心を奪われたなんて言うけれど、奪われる前から、違うのよね、心なんて、もともと自分の所有物じゃないのよね、それが、勝手にこの中で、鳴っていて、なんだか、本当に、他人事みたい、心、奪われてしまって、心臓、心臓>

少しずつ少しずつ現実を侵食し、私をぐらぐらと翻弄する言葉の魔力。
ゼリーのようなまどろみと覚醒をくり返すうち、あちらとこちらの境界がついに分からなくなる・・・読むほどに幻惑の淵へと誘われる、そんな本でした。
Author: ことり
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