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『紅水晶』 蜂飼 耳

評価:
蜂飼 耳
講談社
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(2007-11-30)

苔のにおいがする、そう思いました。
脳裡にうかび上がるのは、うす昏く秘めやかな濃緑の森。鳥たちの啼き声と、ごうと渡る風の音と。ひんやり湿った空気のなかで、苔むし、じっとりと汗ばんだ岩石と。

硬質な、それでいてリズミカルな文章。いつまでも耳にのこるリフレイン。
ちりばめられた読点の、そのひとつひとつにまでこまやかな神経がそそぎ込まれているのが分かります。
ぐるぐると物語の森を彷徨う私の足元には、朽ちかけた葉や枝、小さな生き物たちの死骸が転がる。頭上からは、木の葉のさやぐ音がする。艶めいた樹液の香りと、柔らかくしたたる血液や精液のなま臭さ・・・そのあやうさと湿りけに、ただもうくらくらとしてしまいました。
『崖のにおい』、『こぼれ落ちる猿の声』、『くらげの庭』、『紅水晶』、『六角形』。どの物語も、それぞれに霧深く、それぞれに苔むした濃緑の森です。
 
わたしは自分の心を、知っていたことはない。それは、いつでも遠くにある。望遠鏡を覗いて知る、天体に似ている。触わることはできない。あるいは、顕微鏡が見せるミジンコの心臓に似ている。触わることはできない。(『こぼれ落ちる猿の声』)
Author: ことり
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