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『夜をゆく飛行機』 角田 光代

評価:
角田 光代
中央公論新社
¥ 1,620
(2006-07)

むかしながらの商店街にある、古ぼけた谷島(やじま)酒店。
そこに暮らす個性豊かな一家――両親と四姉妹――を巡るさまざまなできごとを、四女・里々子の目線で描きます。

里々子は高校3年生。
物干し台にすわり、夜をゆく飛行機をながめては、生まれることなくお母さんのおなかで死んでしまった弟の「ぴょん吉」に語りかけている、そんな女の子。
イベント好きの気のいいお父さん、家庭料理が得意なお母さん、しっかり者ながら駆け落ち経験がある長姉で主婦の有子(ありこ)、「石になって」高校時代を送った‘のろくさい’次姉・寿子(ことこ)、着飾るのが好きで体裁やブランドばかり気にする三姉・素子・・・バラバラなようでしっかりバランスのとれていた里々子一家ですが、寿子が家族をモデルにした小説で文壇デビューしたのをきっかけに、家族のかたちが崩れ始めて・・・。

四姉妹、といえば『若草物語』(オールコット)や『細雪』(谷崎潤一郎)をまっさきに思いうかべてしまう私ですが、この物語はそのどちらの雰囲気ともちがっていて、軽妙な語り口でズバズバ言ってのけてくれる気持ちのいい展開。
どこか可愛らしい人たちばかりで、クスっと笑えるぶぶんもあったり・・・。
けれど最後には、じんわりとしたせつなさが待っていました。変わらないでいてほしいのに、いやおうなく変わっていってしまう「家族」。それをそれぞれのやり方で、なんとかつなぎ止めようとするみんながすごくせつないのです。
今ここにあるものと、すでになくしてしまったもの。私たちはその双方を捨てることができない。ひょっとしたら生きていくということは、どんどん何かをなくしていくことかもしれない。なくしたものを持ち続けることかもしれない。
もうにどと、戻れない場所。
心のなかにしか持ち続けられないもの。実体がなく、戻りたくても、もう一度手にしたくてもかなわないから、だから里々子たちが望んだ「中間みたいな場所」。
死んでしまった人たちや喧嘩別れしたボーイフレンド、幼稚園で仲のよかった友達、そして‘あの頃の家族’――そんな彼らにすぐに会いに行かれる場所が欲しくなる気持ち・・・その喪失感が痛いくらいにわかってしまい、わかるのだけどなかなか言葉にできずにくすぶらせていた思いまでがお話にさらりと描かれていて、私のなかで音をたてて腑に落ちた・・・そんな気がした物語でした。

物干し台から見上げた夜空。みつめた先の飛行機の明かり。
こちらにむかってくる飛行機は静止したように見えるけれど、その光はまぎれもなく動いている。
まぎれもなく。家族も、・・・人生も。
Author: ことり
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