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『ことば汁』 小池 昌代

評価:
小池 昌代
中央公論新社
¥ 1,680
(2008-09)

モノクロームの日常から、あやしく甘い耽溺の森へ。
詩人につかえる女、孤独なカーテン職人。魅入られた者たちが、ケモノになる瞬間――川端康成文学賞受賞の名手が誘う幻想の物語六篇。

頭の裏側がなにかにざりざりと引っかかれていくみたい・・・。おぞましさと心地よさがまじりあったような、そんな不思議な感覚に酔いしれた本。
まっ白な頁のうえにお行儀よくならんでいる「ことば」たちが、視線を向けたつぎの瞬間、私のなかで音もなくうねり始める・・・小池昌代さんの書かれたものはいつも、ことばは生きている、その真実を私に思い出させてくれます。

『女房』、『つの』、『すずめ』、『花火』、『野うさぎ』、『りぼん』。
どのお話ももう若くはない孤独な女性の、たとえば叶わぬ恋、黒い欲望や嫉妬心などが、私たち読み手にザワザワした不穏な予感を抱かせます。なにか(誰か)に強く執着しているのに、自分をみつめる視線にはどこか冷めたものを感じてしまうのは、彼女たちのなかにたしかに存在する静かな虚無感のせい?

わたしが眠っているあいだに、深い鍋のなかで、この世の現実は、とろとろと煮込まれていく。夢など見ない。わたしが夢そのものだから。書くことも読むこともない。わたしが物語そのものだから。わたしはもう、ヒトでもないかもしれない。(『野うさぎ』)

「ことば」の背後にある深い深い濃緑の闇に迷いこみ、その隅々まで堪能しました。熟しきった桃を、したたる果汁の最後の一滴までしゃぶりつくすように。
Author: ことり
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