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『山の音』 川端 康成

評価:
川端 康成
新潮社
¥ 580
(1957-04)

深夜ふと響いてくる山の音を死の予告と恐れながら、信吾の胸には昔あこがれた人の美しいイメージが消えない。息子の嫁の可憐な姿に若々しい恋心をゆさぶられるという老人のくすんだ心境を地模様として、老妻、息子、嫁、出戻りの娘たちの心理的葛藤を影に、日本の家の名伏しがたい悲しさが、感情の微細なひだに至るまで巧みに描き出されている。戦後文学の最高峰に位する名作である。

舞台は緑ゆたかな鎌倉市。いくつもの世代が当たり前に同居をしていたある時代のある一家、そのしずかな日常が描かれてゆく物語です。
夫として、父として、舅として・・・主人公・信吾の家族それぞれにたいする微妙な感情、老齢からくる疲弊感や死期への恐怖。そんななかにたんねんに書きつけられていく一人の男としての若々しい欲望――若い娘と触れあった夢をみたり、秘書とダンスホールに行ってみたり、濡れた花のような能面の口唇にあやうく接吻しかかったり――これはきっと信吾世代の男性の方にはたまらない一冊なんだと思う。

萩の向うにちらちらと見え隠れする蝶たち、艶かしい能面をつけた女の見えるか見えないかのあごから咽へ伝わる涙――美しい文章で鮮やかに切りとられた一瞬一瞬が、すぐさま頭のなかで像を結び、いまここで見ているような錯覚をよびます。
川端康成さんの書かれた日本語って、なんでこんなにきれいなのでしょう。
そして美しいばかりでなく、いろんな経験をしてきた大人の男性だけがもち得るもの哀しさ、哀愁のようなものが文章に感じられて、読みながら深々とため息をこぼしてしまいました。
Author: ことり
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