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『緑色の濁ったお茶 あるいは幸福の散歩道』 山本 昌代

おっとりした姉・可李子(かりこ)と、重い病いを抱えながらものびやかな妹・鱈子さん。父母姉妹での穏やかな生活に、父の病いという思わぬ波紋が広がり・・・。家族という日常の不思議と夢のリアリズムを静穏な筆で描いた三島賞受賞作。

上質な家族小説を読んでいると、大きな愛とか人生観よりも、じつは会話のようなささやかなことのほうが大切かもしれない、そんなことをよく思います。
たとえば「なないま」や「墨痕林檎」、あるいは「蛸」・・・鱈子さんのお家でのみ通じる言いまわしです。その時その場にしか存在しないものごと。おなじ時、おなじ場所にいた人びとにしか共有できないから、それらは私の目にとても美しくうつります。

淡々と、みずみずしく移ろう家族の日常を描いた、どこか不思議な物語。
この家族のあまり器用ではなさそうな様子や、親しさのなかに芽生えるちょっとした行き違い、鱈子さんの病気などが、少しずつ濁った澱のようにのこっていく・・・そんなもやりとした捉えどころのない不思議さがあるようです。
昏い影を織りこみながら物語は奇妙にゆがんでいきますが、それでも陰鬱なだけのお話に終わらなかったのは、鱈子さんたち家族が睦まじく平らかに日々を送っているせい。
とぼけた台詞やのんびりした時の流れ、ふいにぽっと灯りがともるような懐かしさ。
この本の穏やかなやさしさに惹かれながら、八木重吉さんの‘ぽくぽくごはんをたべたい詩’が読みたくなった私です。
Author: ことり
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