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『悪童日記』 アゴタ・クリストフ、(訳)堀 茂樹

評価:
アゴタ クリストフ
早川書房
¥ 693
(2001-05)

戦争が激しさを増し、双子の「ぼくら」は、小さな町に住むおばあちゃんのもとへ疎開した。その日から、ぼくらの過酷な日々が始まった。人間の醜さや哀しさ、世の不条理――非情な現実を目にするたびに、ぼくらはそれを克明に日記にしるす。戦争が暗い影を落とすなか、ぼくらはしたたかに生き抜いていく。
人間の真実をえぐる圧倒的筆力で読書界に感動の嵐を巻き起こした、ハンガリー生まれの女性亡命作家の衝撃の処女作。

衝撃的。そのひと言に尽きます。本を読みながら、なんども戸惑い、立ちすくみ、心が凍りつく・・・私にとって、これはそんな物語でした。
飾りけのない文章で、まるでなにかの調書みたいに無感情にたんたんと綴られる、この本はそのまま「ぼくら」の過酷な日々の日記帳。
ぼくらには、きわめて単純なルールがある。作文の内容が真実でなければならない、というルールだ。ぼくらが記述するのは、あるがままの事物、ぼくらが見たこと、ぼくらが聞いたこと、ぼくらが実行したこと、でなければならない。(中略)ぼくらは、「ぼくらはクルミの実をたくさん食べる」とは書くだろうが、「ぼくらはクルミの実が好きだ」とは書くまい。「好き」という語は精確さと客観性に欠けていて、確かな語ではないからだ。

労働、学習、精神や肉体の鍛錬、乞食の練習、断食の訓練・・・彼らは生き抜くためにいくつもの試練を自分たちに課します。子どもだからこそもち得る冷静なまなざし、残酷な言動、貪欲な生命力。その目にうつった死や戦争や貧困や性行為や暴力などを、どんな悲惨なできごともただあるがままノートに記し、自分たちを鍛えあげ、生き残るすべを身につけていくふたり・・・。
「ぼくたちは、痛み、暑さ、寒さ、ひもじさ、というようなあらゆる苦痛に打ち克ちたいだけ」だと彼らは言います。そのいっぽうで、こんなことも言い切っています。
「ぼくらはどんなことも絶対に忘れないよ」
あらゆる苦痛を知り尽くし、その上でそこからけっして目をそらさないこと・・・これほどシビアな物語でありながら、このゆるぎなさ、このラスト。
「衝撃的」以外の言葉を見つけられない私なのです。

(原題『Le Grand Cahier』)
Author: ことり
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