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『夕闇の川のざくろ』〔再読〕 江國 香織

評価:
江國 香織,守屋 恵子
ポプラ社
¥ 588
(2008-04)
一度は絶版の憂き目にあい(オリジナルの刊行は1993年)、その後『江國香織 とっておき作品集』に収録された幻のおはなしが、文庫になりました。

幼なじみのしおんは、冬の空と――もしくはプラスチックのコップと――おなじくらい孤独で嘘つきな女の子。生まれのこと、恋人のこと・・・彼女は今日も台所で、「私」を相手に嘘の物語をつむぎ出しています。
「人なんてもともとほんとじゃないのよ」 そうさらりと言ってのけるしおん。それから、「現実なんて作為的な錯覚にすぎないし、人はみんな物語に便乗して、知りあいのふりをしてうろうろするので油断がならない」・・・こんなことも。
嘘を「物語」とよぶしおんには、現実こそが信じるにたりません。人なんて、うわべばかりとりつくろって生きている、そんなの最初から信用しない・・・作為的な錯覚というのはそういうこと、なのかしら。
しおんは‘真実’だけをみつめているから、だからこそこの世界を生きづらそうに生きています。ひざを抱えこみ、冬の空をみあげる淋しそうな彼女の瞳・・・。

読むほどに魅力を増していく女の子。けれどしおんの嘘にくるまれるようにおはなしの迷路を進んでいくと、くらりと眩暈のするそんな一瞬に出会います。
このおはなしの語り手――しおんの物語に耳をかたむけている「私」すらも嘘のなかに遊んでいること、そのことが分かった時、今度こそこのおはなしに完全にとけ込み抜け出せなくなってしまうようです。
「物語の中にしか真実は存在しないのよ」
とるにたらない小さな嘘と錯覚をこっそりしのばせ、心をかき乱す、不思議な女の子たちのとほうもない‘真実’のおはなし。
Author: ことり
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