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『ミラノ 霧の風景』 須賀 敦子

評価:
須賀 敦子
白水社
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(1990-12)

記憶の中のミラノには、いまもあの霧が静かに流れている――。
ミラノをはじめ、各地で出会った多くの人々を通して、イタリアで暮した遠い日々を追想し、人、町、文学とのふれあいと、言葉にならぬため息をつづる追憶のエッセイ。講談社エッセイ賞、女流文学賞受賞。

やさしさとかなしみが重なりあい、うつくしく編まれたレース模様を思わせる文章。
須賀敦子さんがイタリアで暮した日々、出逢った人たち・・・もう会えない人たち。
ぼんやりとかすむ記憶の奥から、大切な人びとの横顔をよみがえらせていくしずかなエッセイです。
遠くなつかしい霧の匂い。須賀さんがごく親しい人と交わされた会話、笑顔、歓び――いまとなってはすべてがほど遠く、ヴェールにつつまれた宝物となってせつない光を放っているよう。

夫は病気になり、あっという間に死んでしまった。柩が教会から運びだされるというときに、アントニオだ、とだれかが言った。まわりにいた人たちが、道をあけたところに、アントニオが汗びっしょりになって、立っていた。手には半分しおれかけたエニシダの大きな花束をかかえていた。きみが好きだったから、そう言ってアントニオは絶句した。
それが、アントニオと会った最後だった。

ちいさな情景の一つ一つに、うしなわれたものへのまなざしが刻まれています。
この凛としてしなやかな追憶にみちたエッセイ集は、私のなかにいつまでも深く根を下ろし、ひもとくたびに指標となってくれそうな予感がします。
Author: ことり
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