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『公園』 魚住 陽子

評価:
魚住 陽子
新潮社
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(1992-08)
樹々の緑にいろどられ、雨の日には緑の島になる公園。都会のオアシスのようなこの場所に、あの人はきっといるはずだ、という確信がある・・・。少年野球のコーチ、夫に裏切られた女、高層マンションの1室にひとり暮す老婆、骨折したテニス青年、推理小説家の孤独なハイミス。さまざまな眼が織りなす“あの人”と私の物語。

魚住陽子さんが書かれた本といえば、今から10年ほど前に『動く箱』を読んだきり。この『公園』は、先日ふらりと入った古本屋さんでまよわず購入した本。

「あの人は今日も来ている。」
一行目からすっぽりと、この物語のもつ‘空気’にのまれていた私でした。
その後なんどもくり返されるその魅惑的な一文。あわあわと儚げなのに、なぜか強く印象にのこる人・・・輪郭のはっきりしない「あの人」の不思議な不思議な存在感は、まるでこの世とあの世を結んでいる、そんな不穏さをもにじませています。
霧雨のように、ただ音もなく私の上に降りそそぐ文章。
見る人と見られる人、追う人と追われる人、想う人と想われる人・・・緑ゆたかな大きな公園で、孤独をかかえたいくつもの視線が絡みあい、しずかに進む物語。
あの人の視線の先にあるものは何だろう。あの人は何を待っているのだろう。分からない、分からない・・・その曖昧さすらも快感で、思考がぐらりと揺らぎます。もしかしたら、誰もが誰かの「あの人」だったりするのかもしれません。

感情の仮託というのは奇跡みたいなものだな、とふいに思った。あの人の真の姿、あの人の叫びが聞こえる人間がどれだけいるだろう。あの人はあんなに一生懸命サインを送っているのに。私はここにいる、と言い続けているのに。死にもの狂いで見つめ続けても、あの人を見つめかえしてくれるものはほんのわずかなものに過ぎない。このだだっぴろい公園の百分の一、千分の一。土や草や樹、そして自分勝手に求めながら、消えていくあるかなしかの視線。
Author: ことり
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