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『まぼろしハワイ』 よしもと ばなな

評価:
よしもと ばなな
幻冬舎
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(2007-09-26)

『まぼろしハワイ』、『姉さんと僕』、『銀の月の下で』、ハワイにまつわる3つのお話をおさめた中編集。
蜜のような風の匂い、空間をひらっとなでるパウスカートのすそ、とろけたバターみたいな金色の夕方・・・砂浜の白もハイビスカスの赤も、なにもかもが眩しすぎる光の楽園。そんな天国を思わせる土地で、哀しみのかたまりを少しずつ溶かしていく人びとが描かれています。

ばななさんの初期の頃の小説が大好きな私は、ある時から彼女の書かれるものによく登場するようになった、あまりにもスピリチュアルな感覚についていけなくなったのもたしか・・。けれどこの本は、『キッチン』や『サンクチュアリ』のお話に通じるものをすごく感じて、ああ、あの頃からばななさんが書きたいものはちっとも変わっていないのだなあ、と気づいたのです。
不幸な時に見る風景たち・・・いつしか立ち直った時にはもっと違って見えるということ。時とともに哀しみは薄れ、いつかきっと明るい日々が、きれいな景色とともによみがえってくるという真実。それらが文中から感じられて、世の中そんなに捨てたもんじゃない、なんてしみじみ思わされてしまった私。
あとがきには「この本の中にはなにかがあります。」と書かれています。毎日のルーティンのなかでこぼれるように過ぎていく時間、目をこらして見ていたい悲しいほど美しい一瞬。心にしみる人びとのやさしさや自然のもつ治癒力、そんなかけがえのないものものがハワイの魔法にかけられてきらきらしているのが全身で感じられました。

ハワイは私自身にとっても家族で訪れた思い出深い場所。
過去と今、生と死・・・神々の島・ハワイを舞台にそれらが巧みに交差するお話たちは、登場人物がしっかり日常に根づいているせいか、幻想でも夢でもない、きちんとしたリアリティがあります。そのぶん、心のずうっと深いところまでひびくようです。

「ママに見せてあげたかったな。大きくなった私を。あざみさんを気遣える私を。」 私は言った。小さな声でそう口に出したら涙が出てきた。
「天国から見ている」とか「きっとパパと今いっしょにいてたまにこういうすてきな場面を見ているんだ」とかではだめなのだ。
歳を重ねてしわが増えたママに、生きている眼球で眼筋をつかって、その心臓をどくどく動かしながら見てほしかったなあ、ということだ。
もしも天国があるとしたら、それはさぞかし美しいものだろう。
でも、ぐちゃぐちゃでなんでもありでもほんの一瞬くらいは美しいときもある、このあてにならない地上は生きている人たちのものだ。(『まぼろしハワイ』)
Author: ことり
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