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『ベーコン』 井上 荒野

評価:
井上 荒野
集英社
¥ 1,470
(2007-10-26)

ささいで、そして艶めかしい、食べるという日常の営み。
人の気持ちが動くとき、人生が少しだけ変わるとき、傍らにある料理と、それを食べる人々の心の機微を描いた珠玉の短編集。

江國香織さんの『温かなお皿』、山田詠美さんの『風味絶佳』、角田光代さんの『彼女のこんだて帖』・・・食べものにまつわるお話ばかりを集めた短編集、というのはたぶんそれほどめずらしくないはずだけど、この本のどのお話にも荒野さんらしさ――ちょっぴり皮肉めいてどことなくアンニュイな――がきちんとあらわれているのがよかった。
『ほうとう』、『クリスマスのミートパイ』、『アイリッシュ・シチュー』、『大人のカツサンド』、『煮こごり』、『ゆで卵のキーマカレー』、『父の水餃子』、『目玉焼き、トーストにのっけて』、『ベーコン』。9つの物語。
一ばん好きなお話は『煮こごり』。これは「鵜飼光一は、虎に噛み殺されていた。」こんなセンセーショナルな一文から始まります。31年ものあいだ、毎週日曜日に料理上手な愛人を待って暮らした女と、彼の死後発覚するいくつもの‘嘘’の物語。

食事というのは不思議なもので、明日の身体をつくるための糧であるのはもちろんだけど、いっしょにおなじものを食べる喜びや、口にしたとたん舌の記憶にふと時間が巻きもどされたり、そこにはいろんな思いがくっついてくるもの。
そしてそれはある意味においてもっともエロティックな行為・・・。
とるにたらない、けれど大切な日常の営みが、大人の性愛の色香にいろどりをそえる短編集です。
Author: ことり
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