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『だりや荘』 井上 荒野

評価:
井上 荒野
文藝春秋
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(2004-07-22)

信州を思わせる、山深い土地。姉と妹、そして妹の夫の三角関係を描いた物語。
こんなにどろどろしたお話を、どうしてこうも透明に、淡々と書けるんだろう。

事故死した両親がのこしたペンション「だりや荘」を引き継ぎ、はかなく美しい姉の椿と、明るく可愛らしい妹の杏(あんず)、その夫の迅人(はやと)・・・いっけん穏やかに3人の生活は始まります。けれどもその穏やかさは、ぎりぎりのところで状況を保ちつづける姉妹がつくり出した‘偽りの姿’なのです。
杏は姉と夫の仲に気づきながらも知らぬふりをよそおい、椿は妹がぜんぶ知っているのではないかと怖れます。そんなふたりのあいだで、無邪気に両方との関係をつづける男、迅人。この男の無神経さ、なんにも分かってなさには読んでいて憎悪すらおぼえてしまったほど・・・。
小さなころから仲がよく、いまだっておたがいを好きな気持ちに変わりはない姉と妹。それでもふたりは迅人から離れられない。こんな生活はいつまで続くのか、出口はあるのか・・・暗闇を手さぐりでさまよい、薄氷をふむようにして進む物語のトンネルは後半になるにつれどんどんとせまくなり、こちらを圧迫するようでした。

3つ違いのとても仲のよい妹がいるせいで、姉妹もの――小説、映画、絵本、何であれ――には少しとくべつな思いで接する傾向にある私。
妹とおなじ男性を愛したことはないけれど、このお話のおたがいを思いあう姉妹の哀しさは痛いくらいに分かってしまいました。裏切られ傷つきながらも、憎むことなんてできやしない、気づけばどこかで赦している・・・姉妹というのはそんなふうに複雑でやっかいで親密な――ほかの誰も入りこめない――関係だと思うから。

そのとき椿はぞっとした。この世界で自分は一人きりだ、と感じたのだ。もっとも、そんなふうな孤独を感じるのははじめてではなかった。ぞっとしたのは、同じ孤独を、同じ深さで、杏も感じているに違いない、と突然気づいたからだった。
Author: ことり
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