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『裁縫師』 小池 昌代

評価:
小池 昌代
角川書店
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(2007-06)

広大な屋敷の離れにひっそりとアトリエを構えるひとりの裁縫師。たいそう腕が立つというその裁縫師の元を訪ねた9歳の幼女は、そこで禁断の恋に身をまかせることになる――。
9歳の女も感じるということを、ひとは知っているだろうか。
不穏でフェティッシュな、エロティシズム溢れる新感覚小説集。

意識するのは、その指先。まるで白昼夢のような空間で衣装を仕立てる男の指が、少女を一瞬で「女」に変える。
妖しい花の刺繍、はだけた幼い背中、仮縫いの針の感触・・・
硝子のなかの‘9歳の娼婦’、うなじへの不意のくちづけ・・・
あまく熱いものがからだじゅうをめぐり、ドキドキとして、ちょっぴり後ろめたくて。
誰にも知られたくない私だけの秘めごと。きゅっと下腹部が疼き、ふいによみがえってくる遠い記憶――。
『裁縫師』、『女神』、『空港』、『左腕』、『野ばら』。おのずと匂いたつような物語5つ。選びぬかれた静かな文章に、なつかしい緊張感と時空間の切り替わる鮮やかな色彩がせまり、お話の‘迷路’からいつのまにか抜け出せなくなっていた私でした。
晴れた日に鬱蒼とした森に迷いこんでしまった、そんな孤独と不安のなかにくらりと姿をあらわす官能のゆらめき。男に心ゆくまで征服され、奪われ、それでもどこか野性的な可憐さをうしなわない主人公たちのめくるめく運命にそそられてしまいます。

どのお話も、1行めを読んだときから独特の世界が始まるのがわかり、ラスト1行が不思議な余韻をのこす、珠玉の小説集。
こんな一冊に思いがけず逢えるから、読書はやめられないのです。

十一月はいつのまにか終わり、十二月になっても、一月になっても、空はたかく青く、晴れあがっている。
美知子はきょうも、鋼鉄のように自由だ。(『野ばら』)
Author: ことり
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