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『まぶた』 小川 洋子

評価:
小川 洋子
新潮社
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(2001-03)

「切り離されたまぶたは、銀色のトレイに載せられた。二つきちんと並んで。そう、病んで腐敗していく肉片には見えなかったよ。鼓動も温もりも、まだ失っていなかった。半透明の皮膚の向こうは桜色に染まって、少し潤んでいる。顔を近づけると、息でまつ毛が震える。ちょっと触れれば、恥ずかしそうにまばたきしそうだった」(『まぶた』)

あたらしい年のはじまり。
今年さいしょに選んだ小川さんの短編集は、私のことをみごとに現実から引き剥がしてくれました。
『飛行機で眠るのは難しい』、『中国野菜の育て方』、『まぶた』、『お料理教室』、『匂いの収集』、『バックストローク』、『詩人の卵巣』、『リンデンバウム通りの双子』――収録された8つの物語はまるで、日常の片隅にぽっかりたたずむブラックホール。
謎めいた野菜売りのおばあさん、うるんだ瞳で遠くをみつめるハムスター、恋人の指からしたたる枇杷を食べる恍惚、固まって降ろせなくなった左腕、卵巣から生えたブロンドの毛髪・・・おぞましいものと美しいものとが等しくまざりあったつめたくひそやかな‘悪夢’の世界は、目覚めてもなお手触りや匂いがなまなましく残るようです。
喪失感の闇に埋もれた刹那的なお話たち。それはどこかまばたきに似て、表と裏の落差のようなものを感じさせてくれます。
一編一編瞳をとじてゆっくりと味わいたい、そんな一冊。
Author: ことり
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