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『ヴィヨンの妻』 太宰 治

新生への希望と、戦争を経験しても毫も変らぬ現実への絶望感との間を揺れ動きながら、命がけで新しい倫理を求めようとした晩年の文学的総決算ともいえる代表的短編集。
家庭のエゴイズムを憎悪しつつ、新しい家庭への夢を文学へと完璧に昇華させた表題作、ほか『親友交歓』『トカトントン』『父』『母』『おさん』『家庭の幸福』絶筆『桜桃』、いずれも死の予感に彩られた作品である。

いったんは家庭を築くも結局は愛人と入水自殺をしてしまう著者だけに、晩年のお話たちは‘死’と‘家庭’にとり憑かれてしまったかのよう。
でも、どれも死や迷いにふちどられたどん底の暗闇が描かれていながら、みょうな明るさが文面から感じられる・・・読み終えたあと、心にのこったシコリさえもここちよい。そんな不思議な一冊になりました。

とにかく大好き!だったお話は、ふらふらと根なし草のように生きる飲んだくれ夫との生活を、妻の語り言葉で綴っていく『ヴィヨンの妻』。
飲んだ酒代を踏み倒してくるめちゃくちゃな夫・・ほんとうなら妻はふびんで不幸なのかもしれないけれど、実際はそうでもなくて・・・。ふたりの会話とその距離感が、なんだかすごく素敵なのです。
けっして楽ではない暮らしのなかに妻がみつけた小さな幸福。それをいとおしむ妻の姿がかわいらしい、とっておきの恋愛小説。
女のたくましさと男の弱さを際立たせた描かれ方に、やっぱりいつの世も、女性は強靭な生命力をそなえているものなのかしら、と思ってしまいます。
「人非人でもいいじゃないの。私たちは、生きていさえすればいいのよ」
Author: ことり
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