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『蛇行する川のほとり』 恩田 陸

あの夏の日、少女たちは川のほとりにある「船着場のある家」で合宿を始めた。夏の終わりの演劇祭に向けて、舞台背景の絵を仕上げるために。それは、楽しく充実した高校生活の最高の思い出になるはずだった。ひとりの美しい少年の言葉が、この世界のすべてを灰色に変えるまでは・・・。そして、運命の歯車は回り始めた。あの遠い夏の日と同じように――。運命の岸辺に佇む少女たちの物語。

川べりの野原、ハルジョオン、素足に白いワンピースを着た少女たち――
美しくちょっと不穏な酒井駒子さんの装画が、手にした瞬間から‘世界’へといざなってくれるきれいな本。
第一部は毬子、第二部は芳野、第三部は真魚子(まおこ)、そして終章は香澄の独白。こんなふうに語り手がつぎつぎ変わっていく構成で、ひとつの謎の核心にふれたかと思ったら目線が変わり、また新たな謎が読む者を翻弄していきます。
うだるような暑さ、こみあげる草いきれ、はたはたとなびくスカートのすそ・・・すぐそばにある、まぶしい夏の気配。
過去に秘められた謎よりも、いつのまにかお話の雰囲気を愉しんでいた私でした。香澄と芳野の甘やかで少し淫靡な秘密めいた関係。少女たちの、季節のうつろいにも似たいっときの輝き。憧憬と戸惑いと嫉妬と・・・。恩田さんという人は少女時代の終わり、そのはかない一瞬の空気を表現するのがなんて上手なんでしょう。
イメージするのは小さな鍵のついた日記帳。ほんの一撃でこわしてしまえる脆弱な鍵に、自分の秘密を託していたあの頃がなつかしくよみがえってくる・・・きっとこれは、‘元少女’のために書かれた物語。

いっぱいの笑顔と喚声で短い時間を駆け抜けてゆき、自分が何者かも知らぬうちに摘み取られて腐っていく少女たち。・・・花は必ず散る。少女でい続けることはできないし、もしい続けるように見えたとしても、それはどこかに不自然な力が加わっているのだ。
Author: ことり
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