<< 『一瞬でいい』 唯川 恵*prev
『ぽろぽろドール』 豊島 ミホ >>*next
 

『日のあたる白い壁』 江國 香織

美術館が好きです。ぴん、ときた絵のまえでいつまでも立ち止まっているのが好き。
たとえお目当ての絵があったとしても、そこに行けばかならず見知らぬ絵との出会いがある・・・江國さんの「誰をもアリスにする場所」という表現は、まったくなんてぴったりなんだろう。
とくべつな一まいに出会えたときのよろこび。時間をぜいたくに使いたいとっておきの空間。美術館はまさに‘ふしぎの国’なのです。

この本は、江國さんがみずから選びとった24の絵について語る美術エッセイ。
まるで愛の物語をささやくように、彼女はそれぞれの絵への思いをうっとりするほどふくらかに表現します。ポケットに入れて持ち歩きたいドラクロワの花、かつて持っていたぬいぐるみに似たワイエスの窓辺、自分の体液にしっくりくるオキーフの桃・・・
そしてあたたかい街の雪も、お菓子の包み紙の小鳥女も、子供の頃のぽってりしたあの怠さも、淡くなつかしく私のまえに立ちのぼってくるみたい。心のすみずみにまで栄養が行きとどいて、いまとてもみちたりた気分。
彼女のきらきらした感性にふれた美しい刹那たち。アリスになった江國さんを目で追いながら、いつしか私もこの本のなかに素敵に迷いこんでいました。

千鳥が淵のちいさな美術館でみたシャガールの「村の上空の恋人たち」、オルセー美術館でみたドガの「舞台の踊り子」、もうどこでみたのか思い出せないモディリアニの「自画像」・・・私にもあるたくさんの、運命的な、忘れられない絵。
どんな絵にも物語があります。そこにながれる物語と私が生きてきた物語、ふたつがまじわったとき、その絵が心にのこるのかもしれないな・・・。
 
人は、身体の中にその人の人生をたずさえて生きている。それまでの人生すべてを持ち運んでいる。それまでの人生すべてを使って物をみるのだ。
Author: ことり
国内あ行(江國 香織) | permalink | - | -
 
 

スポンサーサイト

Author: スポンサードリンク
- | permalink | - | -