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『悪人』 吉田 修一

評価:
吉田 修一
朝日新聞社
¥ 1,944
(2007-04-06)

幸せになりたかった。ただそれだけを願っていた。
保険外交員の女が殺害された。捜査線上に浮かぶ男。彼と出会ったもう一人の女。加害者と被害者、それぞれの家族たち。群像劇は、逃亡劇から純愛劇へ。なぜ、事件は起きたのか?なぜ、二人は逃げ続けるのか?そして、悪人とはいったい誰なのか?

ほとんど一気に読み上げたこの小説、息をのむ展開のあとで、私の心にやるせないほどの重いものを残しました。
殺されてしまった佳乃、その両親や同僚、彼女が憧れていた増尾とそのとりまきたち、出会い系で知り合った祐一とその家族・・・たくさんの人たちが九州弁で思い思いに語るなか、ことの真相が明かされてゆく物語。
娘を思う父の愛、孫を思う祖母の愛、そして殺人犯の男が最後にみせた究極の愛・・・その深さ、哀しさを思ったら、切ない余韻に胸がつぶれてしまいそうになるのです。

自分には欲しい本もCDもなかった。新年が始まったばかりなのに、行きたいところも、会いたい人もいなかった。
どうしようもなく乾いた孤独の日々に、ある日燃えあがる恋の炎。その相手がもしも殺人を犯していたら・・・?
ありふれた話だなんてとてもいえない。だけど、きれいごとではない生々しい問題も避けないできちんと描かれてあって、それがこの小説をただのミステリーに終わらせない、そんなリアリティのあるものにしているようです。

うまく言葉にはできんとですけど、生まれて初めて人の匂いがしたっていうか、それまで人の匂いなんて気にしたこともなかったけど、あのとき、なぜかはっきりと佳乃さんのお父さんの匂いがして。・・・一人の人間がこの世からおらんようになるってことは、ピラミッドの頂点の石がなくなるんじゃなくて、底辺の石が一個なくなることなんやなぁって。

ただ愛し愛されたいと願う。
そんなピュアな気持ちさえ行き場をなくし、崩壊していく人生。
殺した人だけが「悪人」じゃない。なのにいっさい裁きをうけず、今日ものうのうと生きている「悪人」もいる・・・そう思うとくやしくて、やりきれなくて、そして、すごく怖い。
Author: ことり
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