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『蝶々の纏足・風葬の教室』 山田 詠美

私の心を束縛し、私の自由を許さない美しき親友のえり子。彼女の支配から逃れるため、私は麦生を愛し、彼の肉体を知ることで、少女期からの飛翔を遂げる「蝶々の纏足」。教室という牢獄の中で、生贄となり苛めをうける転校生の少女。少女は自分を辱めた同級生を、心の中でひとりずつ処刑し葬っていく「風葬の教室」。少女が女へと変身してゆく思春期の感性をリリカルに描いた3編を収録。

ここに登場する、醒めた眼でひややかに達観している少女たち。
彼女たちの生々しい身体感覚やちょっとした感情の動きに痛々しいほど心をよりそわせて読んでいると、いつのまにか私もずいぶん遠くに来てしまったと少し淋しい気もちになりました。
嫉妬、媚び、残酷さ。きゅうくつな世界、つま先立ちの日々。
かた結びのりぼんのような時間をほどき、私はあの頃の自分と向きあう。
なにも知らなかった無垢な心に。もう戻ることのできない、曇り空越しのお日様みたいな翳りある美しい日々に。

雨のしずくが私の額に当たる。それは雨粒よりも少しばかり暖かくて、私はそれが隣の男の顎からしたたり落ちたものだということに気付く。私は上を向く。そして、それが麦生だということに気付く。私は胸の動悸すら覚えずに再び自分の前に垂れ下がる絹糸の群れに目を移す。ああ、と私は心の中で独り言を言う。麦生だわ。記憶を失ってたたずんでいる私の側で、彼は私の心からそれらを掘り起こすこともせず、幸福という贈りものでそれらを埋め尽くすこともせず、ただ静かに私の側に立ち尽くす。(『蝶々の纏足』)
16にして人生を知り尽くした、と思いこむ「私」が唾液すら湧かせて欲する男の体。
なんど舌で削りとっても日向の匂いのする皮膚、大きくて冷たく口にふくむと雨の味がする中指の爪・・・そんな男性の体の器官ひとつひとつの描写がせつないほどに美しく官能的で、まさに私自身が感じていることのように五感がざわめき、味わい焦がれていた気がします。

『風葬の教室』では、少女たちの複雑な思考の流れが走らせる陰湿な行為が描かれています。そこから逃れることのできない、蜘蛛の糸にからまった「生贄」の蝶のような一人の少女のモノローグ。 まわりの愚か者たちを心のなかでじわじわ殺し、茫漠と広がる死の寝床に転がしてゆく「私」。
立ちこめる孤独と憎悪にどんどん息苦しくなっていく物語ですが、彼女がお家に帰った時、すてきな家族が迎えてくれることが救いでした。
Author: ことり
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