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『砂の女』 安部 公房

評価:
安部 公房
新潮社
¥ 562
(2003-03)

砂丘へ昆虫採集に出かけた男が、砂丘の底に埋もれていく一軒家に閉じ込められる。考えつく限りの方法で脱出を試みる男。家を守るために、男を穴の中にひきとめておこうとする女。そして、穴の上から男の逃亡を妨害し、二人の生活を眺める部落の人々。
ドキュメンタルな手法、サスペンスあふれる展開のなかに人間存在の象徴的姿を追求した書下ろし長編。20数カ国語に翻訳された名作。

昆虫の研究で名をなしたかった中学教師が「義務の煩わしさと無為からほんのいっとき逃れるために」砂丘のある集落に昆虫採集に出かけ、そのうちの一軒に閉じこめられてしまうお話です。そこにはすでにひとりの女が住んでいました。
夜じゅう砂かきをしなくては家がつぶれてしまう砂穴の底。縄ばしごが取り払われたことで、男は砂を運びあげる労働力としてつれ込まれたのだと悟ります。焦った男は脱出の手だてをさぐり、砂の壁に挑みますが・・・。

水と食料の配給が命綱。飢えと乾き・・・わずか1/8m.m.の砂粒が風にのって無数に集まり、相当な重みで家に人に襲いかかる。まさに蟻地獄。
汗とともに肌にはりつき、髪の毛をかため、唇と歯のあいだにたまった砂がねばりけのある唾液を吸って口いっぱいに広がる・・・ああ、読んでいるだけで口のなかがじゃりじゃりして、のどが乾いてしまいそう。非現実的なお話なのに、きめこまやかなディテイルと極限状態に追い込まれていく心理描写はものすごい臨場感です。
いずれ男というものは、
何かなぐざみ物なしには、済まされないものだから――
世界を限定することをいとわない女と暮らすうち、溜水装置の研究に没頭することで男は焦ることをしなくなります。
現代社会はくり返し。毎日毎日のいとなみに、砂のなかも外も大きな違いはないということ?まるできりがない単調な生活を、作者はただ砂をかき出し女と交わる生活に重ねたかったのでしょうか。閉塞のなかでみつけた探究心こそが≪希望≫だったのかもしれない・・・そんなことを思いました。
Author: ことり
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