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『文鳥・夢十夜』 夏目 漱石

短編小説と随筆の中間、そんなあいまいな領域のお話を「小品」とよぶのだとか。
この本は漱石先生晩年の小品集。『文鳥』、『夢十夜』、『永日小品』、『思い出す事など』、『ケーベル先生』、『変な音』、『手紙』の7編がおさめられています。

『文鳥』は、門下生の三重吉にすすめられ文鳥を飼いはじめるお話。
表紙にもお茶碗のふちにちょこんと足をかける可愛い白文鳥が描かれていますが、文中でも繊細な観察眼で、その愛くるしいさまが文学的に表現されています。
文鳥の眼は真黒である。瞼の周囲に細い淡紅(とき)色の絹糸を縫い附けた様な筋が入っている。眼をぱちつかせる度に絹糸が急に寄って一本になる。と思うと又丸くなる。(中略)
留り木は二本ある。(中略)その一本を軽く踏まえた足を見ると如何にも華奢に出来ている。細長い薄紅の端に真珠を削った様な爪が着いて、手頃な留り木を甘(うま)く抱え込んでいる。
そんな白文鳥をむかし知り合った「美しい女」にかさね、夢想の世界に遊ぶシーンがこのお話をいっそう深くしているようです。

『夢十夜』は、「こんな夢を見た。」からはじまる、十の夜の怪奇的な夢のお話。
心の内側がヒヤリとする美しすぎる文章に、うっとりと痺れてしまう・・・。
百年という月日を、女の人のお墓のそばで日が落ちる数をかぞえながら‘待ち’続けたり(第一夜)、おぶっていた我が子が不気味な青坊主になってしまい、捨ててしまおうとしたところ前世の罪を悟らされたり(第三夜)・・・
どれもほんの数ページという短さなのに、妖しく怖ろしい幻想世界にひと夜ごと、すいこまれてしまいました。

一転、後半の「小品」たちはかなり随筆寄り。私のような若輩者にはちょっぴり難解で退屈なものも・・・。大病を患ったのち生還した、その心の奥をこまやかに書き記した『思い出す事など』ほか、博識と敬愛にみちたお話を連ねています。
別るるや 夢一筋の 天の川
Author: ことり
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