<< 『ふりむく』 江國 香織、(絵)松尾 たいこ*prev
『a piece of cake』 吉田 浩美 >>*next
 

『人間失格』〔再読〕 太宰 治

人間をよく見ている、それも暗く醜い様を。そしてあまりに見透かしている。そんな男には白紙のような人にしか心寄せることができない。骨身を磨り減らすようにやり過ごそうとする男の目の前に、振り払おうとしても不幸が深々と降り積もっていく。どうしようもできない世の中と自分との整合性の欠如。人間の恐ろしさを一身に浴びて人生をおそるおそる歩む弱い人間が、窮屈な世の中に罪を問う。

「恥の多い生涯を送って来ました」――そんな身もふたもない告白から男の手記ははじまります。人間にたいして、世間にたいしていつも恐怖に震いおののき、ひたすら無邪気に楽天性をよそおう葉蔵が、ストイックなまでに自己分析をくり返し、酒におぼれ薬におぼれ「狂人」となるまで。
太宰さんはこれを書いた1か月後に自殺をしていて、私小説としても有名な一冊。10代のころに出逢ったこの本をもう一度読んでみました。

お道化になって人を笑わせたり、対義語さがしをして遊んだり・・・このお話を読んでいると自堕落で根無し草のような生き方をしていても、葉蔵につい感情移入して、悪いのは理解できない社会の方だ・・・そんな錯覚をおぼえてしまいそう。
社会になじめず、はみ出したところから自分をここまで冷静に突きつめる、その姿に心ゆさぶられてしまうのは、私には逆立ちしたってできないから?
私が一ばん共感したのはこんなシーン。「これ以上は、世間が、ゆるさないからな」と言う友人に「世間というのは、君じゃないか」と、舌の先まで出かかった言葉を飲みこむところです。世間とは個人じゃないか――そんな思想めいたものを持つようになってからちょっとわがままになり、おどおどしなくなった葉蔵の心のうちがよく分かる気がします。

「葉ちゃんは、とても素直で、よく気が利いて、あれでお酒さえ飲まなければ、いいえ、飲んでも、・・・神様みたいないい子でした」
葉蔵がいなくなったあと、葉蔵をよく知る女性がこんなふうに語るのですが、それは太宰さん自身が自分の死後親しかった誰かに、‘世間’に、そう思ってもらいたい・・・そんな願いではなかったでしょうか・・・。

いまは自分には、幸福も不幸もありません。
ただ、一さいは過ぎて行きます。
Author: ことり
国内た行(太宰 治) | permalink | - | -
 
 

スポンサーサイト

Author: スポンサードリンク
- | permalink | - | -