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『完璧な病室』 小川 洋子

評価:
小川 洋子
中央公論新社
¥ 637
(2004-11)

死にゆく弟との、透きとおるほどにせつない時間。
生活を、そして有機物を拒絶する「わたし」は、いとしい弟が横たわる清潔で無機質な病室で、おおくの時間を過ごす。
しだいに食べることが困難になり、なぜかぶどうしかうけつけなくなっていく弟。そして生活感にあふれた部屋で、まるで内臓のようなビーフシチューを食べる夫。
「生活って、うすのろよね。幼稚で汚らしいの。」
夫や生活への嫌悪と、その対極にいる透明な弟とのはざまで、たった一人の肉親をうしなう怖れにとまどう「わたし」は、S医師の美しい筋肉をもとめていく。
まるで、弟に抱かれようとでもするように・・・。

静けさと妖しさとがあいまって、今にもはじけてしまいそうに張りつめた空気をつくり出す小川さん。なめらかな絹のりぼんのような文章で、なんてあやうい世界をつむぐのでしょう。
ぶどうを食べる時の、淡い紫色に染まった弟の指先は、上等な工芸品のように繊細だった。混ざりけのない透明な皮膚に、ぶどうの果実がしみとおっていくのを、わたしは飽きもせずじっと見ていた。
ストーリーだとか作者の意図だとか、そういうものより、ただのぶどうがこの世の何よりも神聖で唯一の食べものに感じられたりする、そんな特別な空間にいつのまにか自分もまぎれ込んでいる感覚をこそ、大事にしたい。
‘正常さ’からかけ離れた狂気の物語ではあるけれど、つめたく繊細で、それでいてグロテスクな世界は私を放さず、ゾクゾクしながらも後戻りができなくなりました。
それにしても、このケーキの描写のおぞましいこと・・・。ケーキはとうぶん見たくありません。
Author: ことり
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