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『雪沼とその周辺』 堀江 敏幸

評価:
堀江 敏幸
新潮社
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(2003-11)

しずかな、あまりにもしずかな物語たち。
抑制のきいたシンプルな装丁。凛としたたたずまい。読むまえから惹きよせられ、読んでますます魅了されてしまいました。

『スタンス・ドット』、『イラクサの庭』、『河岸段丘』、『送り火』、『レンガを積む』、『ピラニア』、『緩斜面』。
物語はどれも「雪沼」という小さな山あいの町(とその近辺)が舞台で、ごくふつうに暮らす人びとのうしなったもの、得たものが、ていねいな筆致で描かれていきます。
すべての登場人物を‘さん’付けすることからも、堀江さんのあたたかいまなざしが伝わってくるようで、それもまた好いのです。

静かな中にもぬくもりがあって、ボウリング場にひびく最後の一投の音、イラクサのスープの不思議な味、時間をかけて磨る墨のにおい、夕焼けにあおられる青い凧――そんな情景たちを五感をフルに使って‘感じる’ことができる本。そして7つの短編のどれもがみな、一瞬にして登場する雪沼の人びとの人生に私の心を共鳴させてくれるのでした。
古いものやなじんだものにこだわり続ける人びとが、ひそやかに、まっとうに、一生懸命生きている・・・まるで行間からそんな彼らの息吹が立ちのぼってくるみたい。
張りつめた空気、人生のにがさ、やさしくしみわたる人肌のあたたかさ。
郷愁にも似た、胸にせまり来る短編集です。
Author: ことり
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